第38話 鍛練の裏側で……④
(――こ、これが『使役』……数多の魔物を使役するドワーフっ……!?)
折れた紅い手斧を拾い上げ、怒る『使役』の姿を見て団員たちは戦慄する。
(――か、勝てない。これは人がどうこうできる存在ではない。生物としての格があまりにも違い過ぎる……! ここは一度撤退し、策を弄する。それ以外に我々が生きる道は……うん……? やけに寒いような……体も軽い。一体どういう……?)
突如として感じた体の異変。『使役』のドワーフからは決して目を逸らさず、体をまさぐると、手も持っていたはずの剣が、装備していたはずの甲冑が無くなっていることに気付く。
(――っ!? な、無いっ!? 剣と甲冑が……剣と甲冑が無くなっているっ!? はっ――!?)
頭上に違和感を感じ上を向くと、視線の先に先程まで腰にぶら下げていたはずの剣が落下してくるのが目に映る。
(――ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な……そんな馬鹿なぁぁぁぁ!?)
直前で、目前まで剣先が迫っていることに気付くも既に躱すこと叶わず。
自分が所持していた剣に脳天を貫かれ、血を流し、白目を剥く団員。
「…………!?」
他の団員たちも同様に手に持っていたはずの剣が自らの脳天に突き刺さり声もなく絶命していく。
「ふむ――」
団員たちが絶命したことを確認したブルーノは、団員の脳天に刺さった剣をストレージの力で取り込むとため息を吐いた。
「――これで全員かのぅ? まったく……土足で魔の森に入り込みワシの力作を壊すとは、酷い奴等じゃ……『魔戦斧・666』の力も阻害されているようだし、これはワシ自ら赴かねばならぬか」
イデアとノアは今、夢の世界で鍛練の真っ最中。
できる限り邪魔が入るのだけは避けたい。
「やれやれ、困った者たちだわい……」
そう呟くと、ブルーノは『魔戦斧・666』の力を阻害している要因を排除するため、森の外側にいるミギーの下へと向かった。
◇◆◇
ブルーノがミギーの下へ向かってから十数分。
頭から血を流し、倒れていた団員たちが息を吹き返す。
「――ぶはっ!? し、死ぬかと思った……!」
「ああ、まったくだ。団長からライフを与えられていなかったら死んでいた……」
ミギー傭兵団の団員たちは、団長であるミギーから『ライフポイント』と呼ばれる仮の命を与えられており、息を吹き返すタイミングもある程度、任意で決めることができる。
団員たちが、ミギーから与えられている『ライフポイント』は三回分。
その回数分だけ『ライフポイント』を消費することで蘇ることができる。
「……しかし、『使役』が好んで使う四聖獣の内の一体を倒すことができたのは僥倖だった。『使役』は団長の下に向かったみたいだが、俺たちはどうする?」
団長の下へと戻り共に『使役』と戦うか、『使役』の相手は団長に任せ『読心』確保に動くかどうか判断を仰ぐと、団員の一人が声を上げる。
「『使役』のことは団長に任せよう。正直、あれは手に負えない」
「……そうだな。俺も賛成だ。『使役』の奴を間近に見て思った。あれは無理だ。少なくとも団長クラスの力が無いと傷一つ付けることすら叶わない。実際、なにをされたかもわからなかったしな」
気付けば、剣と防具を失い脳天に剣を突き立てられていたのだ。
到達者である『使役』を相手取るには、少なくとも準到達者クラスの力が無いと話にならない。
「しかし、ならばどうする。『読心』の奴も『使役』と同様に到達者クラスの力を持っていると言うじゃあないか。このままでは、『使役』と『読心』を捕縛するという目的が達成できない……」
「確かに……いや、待て……俺たちにもやれることがある。『使役』と『読心』が保護している少年を捕らえるというのはどうだ?」
「『使役』と『読心』が保護している少年?」
初めて出た情報に団員の一人が疑問符を浮かべる。
「ああ……ダグラス傭兵団からの情報によれば『使役』と『読心』は、サクシュ村から逃げ出した少年を保護しているらしい。隙を付いてその少年を捕まえる。そして、その少年を囮にすれば……」
「なるほどな、『使役』と『読心』を捕えることができると、そういうことか……しかし、そう上手く行くか?」
「――サクシュ村から逃げ出したのは、ノアという名の『付与』のスキル保持者だ。聞いた所によると、『使役』と『読心』は『付与』のスキル保持者を積極的に保護する組織『箱舟』に属しているらしい。その少年を捕らえてしまえば、無碍にはできないはずだ……」
「……なるほどな。確かに、あの組織は身内である『付与』のスキル保持者を見捨てない。身内を助けるためなら命を賭ける。そういった、組織であると聞いた事がある……」
「――よし。ならば決まりだな。標的を変更する。標的は『使役』と『読心』に保護された少年。標的は恐らく『読心』と一緒に行動しているものと思われる。命を賭けて任務を全うするぞ。その少年を捕らえてしまえばそれで勝ちなんだっ!」
団員たちは互いに目を合わせると頷き、森の中心部に向かって走り出す。
悉く甘い目算。しかしながら、その目算は思いの外、的を捉えていた。
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