第29話 その頃の傭兵団は……①
――ドッ――ドド――ドドドドッ
「――なんだ? 地鳴りか?」
傭兵団の団長・ダグラスは手に持った剣を血振りし、鞘に納める。
足下には、先日、十五歳となり『共有』のスキルを賜わった青年・ウールの姿があった。ウールの目に光は無く既に絶命している。
「あーあ、もったいない……」
ダグラス傭兵団の団員・リーフは、緑色の前髪を揺らし、地に伏すウールの顔を見て呟いた。
「――こいつ、まだレベル50だったんでしょ? もっとレベルを上げてから処分すればよかったのに……」
リーフの言葉を聞き、団員・ガリアは軽く舌打ちする。
「……団長の言うことに一々、ケチを付けるな。そいつをレベル50にするまでどれだけ時間がかかったと思ってる。五年だぞ。五年っ!」
そう。ウール一人を50レベルにするために掛かった期間は五年。
その間、ダグラスたちのレベルは一向に上がっていない。
この世界では、魔石を壊す以外にレベルを上げる手段は存在しないためだ。
しかし、ダグラスたちは傭兵団総出でウールのレベルを上げ続けた。
すべてはウールの持つステータス値を……賜わったスキルを奪うために……
「わかってますって、ガリアさん。そんなにカリカリしないで下さいよ。まったく、怒りっぽいんだからぁー」
「こ、こいつ……!」
おちょくるリーフ。
そんなリーフの態度にガリアは青筋を浮かべた。
見かねたダグラスが仲裁に入る。
「二人共、喧嘩は止めて一度落ち着け」
「はーい。わかりましたぁー!」
「――お前という奴は、いつも言っているだろう。団長には敬意を持てと何度言ったら……」
ガリアは話を切ると、真剣な表情を浮かべる。
片目には、魔法陣のような紋様が浮かんでいた。
「……団長、大変です。村に魔物の大群が向かっています」
「魔物の大群が……? それは確かか?」
「はい。俺の持つスキル『索敵』に反応がありました。可視化して確認したので間違いありません。このままでは、我々の拠点が……」
ガリアの持つスキル『索敵』は、周囲5km以内の生物の位置を感知するスキル。
今、ガリアの右眼には、魔物を現す赤いマーカーが村に向かって大移動する様子が映し出されていた。
「へぇー、それは大変だねぇ。よし。それじゃあ、すぐに村に向かおう」
リーフは元気よく立ち上がると、地面に魔法陣を浮かべる。
「リーフ。頼めるか?」
「うん。もちろんっ! ボクのスキルがあれば楽勝さ。それじゃあ、行くよぉー!」
ダグラスにそう言われたリーフは、二人の足下に追加で魔法陣を浮かべ呟いた。
「『転移』」
フワッとした浮遊感と共に、目の前の景色が移り変わる。
転移した場所は、サクシュ村の入り口。
リーフの持つスキル『転移』は、マーキングした場所にしか転移することができない。
「……村はまだ無事のようだな。リーフは村の者たちを避難させろ。警鐘を鳴らせばそれで通じる」
「はいはい。わかりましたよ。ガリアさん。それじゃあ、後のことはお願いしますねー!」
そう言い残すと、リーフはその場から転移する。
しばらくして、村中に『――カンカンカンカンカンッ!』と、警鐘が鳴った。
「警鐘は鳴ったな。後は魔物を倒すだけだが……」
「しかし、厄介ですね……よりにもよって、このタイミングでスタンピードが起きるなんて……」
今、傭兵団の大半を『読心』と『使役』の拠点監視に当たらせている。
傭兵団の三分の一をサクシュ村の防衛に充てているものの、防衛戦となった場合、村への被害が甚大になることは簡単に予想できる。
(――まさか、『使役』が仕掛けてきたのか? しかし、そんな報告は……)
既に報告を上げるべき傭兵たちは、魔物のスタンピードに巻き込まれ虫の息。
監視につけている傭兵たちが悉く無力化されていることを知らないダグラスは軽く舌打ちした。
「……仕方ない。ここは俺が対処する。リーフとガリアは俺が打ち漏らした魔物の対処をしろ」
「はい!」
「はーい! わかりましたぁー!」
いつの間にか戻って来ていたリーフが片手を上げて元気よく返事する。
「それでは、行くぞ……」
ダグラスは鞘から剣を抜くと、右眼にガリアの固有スキル『索敵』を浮かべ『魔の森』の中に『転移』する。
「わあー、凄いですねぇー」
「ああ……あれが、ウールから奪った固有スキル『共有』の力か……」
『付与』のスキル保持者・ウールが賜わった固有スキルの名は『共有』。
その名の通り、半径10km以内にいる者のスキルを共有し、使用することができるスキル。
『共有』の真価は、自身のスキル範囲内にスキル保持者がいればいるほど発揮される。反対に『共有』している対象にもダグラスのスキルを使用される可能性もあるが、初見でそれを行うのはほぼ不可能。
「これがスキルを『共有』するということか……素晴らしいっ……!」
『索敵』頼りに『魔の森』に転移したダグラスは、サクシュ村に向かって移動する魔物たちを眼下におさめると、剣に魔力を込め真下に凪いだ。
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