第9話 サクシュ村の動向①

 魔の森に隣接する形で作られたこの村、サクシュ村は、とある目的のために作られた、国もその存在を知らない秘密村……

 サクシュ村の村長宅では、この村の村長・デイリーと傭兵団の団長・ダグラスが密談を交わしていた。


「……それで『使役』と『読心』の住む場所は特定できたのですか?」


『使役』とは、万の魔物を使役するドワーフを指し、『読心』は、心を読む魔女を指している。

 共に『付与』のスキルを保有しており、『箱舟』という『付与』スキル保持者を保護する組織に属していることから多くの権力者や傭兵団に狙われていた。

『付与』のスキル保持者が十五歳の時、手にする二つ目のスキルはどれも強力。

 イデアとブルーノの二人は、到達者の中でも特に強力なスキルを持つことが知られており、そのスキルとステータスを手にすることができれば、この世の覇者になることも夢ではないと言われている。

 ダグラス傭兵団の団長であるダグラスも、イデアとブルーノのスキルとステータスを狙っていた。


「――ああ、捜索には随分と苦労したが……魔の森を捜索した結果、森の最深部に建物を発見した。おそらく、そこに『使役』と『読心』がいるはずだ」

「おおっ! 流石はダグラス殿!」


『使役』と『読心』の居場所を突き止めたと聞き、喜びの声を上げるデイリー。


「ただ、『使役』が付けている見張りが厄介でな……」

「厄介とは……『使役』の奴はどのような者を見張りにつけているのですか?」


 雲行きが怪しくなってきたことを敏感に察知したデイリーは、ダグラスの言葉に眉をひそめる。


「……確認できただけで四体。どれも、『使役』が好んで使う化け物ばかりだ。捜索に出した十人の傭兵の内、九人が『使役』の使う化け物によって殺された」


 ブルーノが好んで使うのは四聖獣と呼ばれる魔物で、ログハウスを中心に東西南北の四方を青龍、白虎、朱雀、玄武と呼ばれる魔物が守っている。


「なっ! ま、まさか準到達者であるダグラス殿であっても敵わぬと言うのではないでしょうなっ!?」


 ダグラスは、これまで数多くの『付与』のスキル保持者からステータスを奪い取り、ステータスの一部を100まで上げた準到達者。

 そのダグラスが化け物と称したことにデイリーは戦慄する。


「――誰が敵わぬと?」


 デイリーの言葉に、ダグラスは機嫌を損ねたように言う。


「……確かに、あの化け物共は厄介だが、所詮は獣、敵わぬ相手ではない。ダグラス傭兵団は、村長の献身的な協力もあり、俺を含む三人の準到達者が在籍している。『使役』がどのようなスキルを持っていても問題ない。勝てるさ……必ずな」

「そ、そうですな。それで、『使役』と『読心』を捕らえた後についてですが……」

「ああ、わかっている。『読心』と『使役』のスキルを村長に渡せばいいんだろ? それが、支援を受ける条件だったからな。代わりに、二人のステータスは俺たちが貰う。それでいいな?」


 使役のドワーフ、ブルーノの持つスキルは、魔物の使役。そして、読心の魔女、イデアの持つスキルは心を読む読心であることがこれまでの調査により判明している。

 多くの魔物が跋扈する魔の森近くに村を構えるデイリーは、特に『使役』の持つスキルを欲していた。相手の心を読む読心も交渉事を有利に運ぶためにも必要なのだろう。


「はい。こちらとしては、『使役』と『読心』のスキルを頂ければ結構でございます(――『使役』と『読心』のスキルがあれば、ステータスなんぞ不要だ。それこそ、ダグラスが化け物と称した魔物すら操ることができる……)」


 そんな思惑を隠しデイリーが揉み手をしながら答えると、ダグラスは笑みを浮かべる。


「そうか。それはよかった。そういえば、一点、報告が……」

「報告ですか? ダグラス殿にしては珍しいですな」

「まあな……」


 ダグラスは歯切れ悪くそう呟く。


「――実は俺の部下がこの村で育った『付与』のスキル保持者を取り逃がしたようなんだ……」

「な、なんですとっ! 『付与』のスキル保持者を取り逃がしたっ!? それはどういうことですかっ!! ここ数年、『付与』のスキルを授かった者はいなかったはずでは……」


 付与のスキル保持者は決まって十歳の時、『付与』スキルを授かる。

 そのため、この村では、国に秘密で各地から十歳未満の孤児を引き取り『付与』のスキル保持者確保に動いていた。

 しかし、ここ数年『付与』のスキルを授かった者はいない。


「俺自身、ガンツから聞いて驚いた。この村にいたんだよ。ノーマークの『付与』のスキル保持者が……十五歳で『付与』を授かった子供がな」

「じ、十五歳で『付与』のスキルを授かった!? そんな馬鹿な……今まで、そんな前例は……」

「無いとは言い切れないだろ。実際、存在しているのだからな……」

「ぐっ……!(そんなことなら、十五歳を迎える子供たちにも見張りを付けておけば……)」


 ダグラスの言葉に、デイリーは焦ったように言う。


「そ、それで、その『付与』スキル保持者はどこに行ったのです? 当然、捕えているんですよね? そうですよねっ!?」


 デイリーの言葉に、ダグラスは首を横に振った。

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