第7話 組織『箱舟』

 突然、現れたノアとイデアを見て、ブルーノは目を見開く。


「――ど、どういうことじゃ? なぜ、婆さんがノアと一緒に……??」


 そんなブルーノを見てイデアは呆れた表情を浮かべる。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……耄碌もうろくしたかい爺さんや。そんなこと、決まっているじゃないか……私のスキルで連れてきたんだよ。あんたがノアに迷惑をかけたからね。それに危険も迫っていた。まったく、私等と同じ『付与』のスキル保持者を攻撃するなんて……あんたの鑑定眼はなんのために存在するんだい?」


 イデアがそう非難するとブルーノは苦笑いを浮かべる。


「……まあ、そんなに虐めてくれるな。まさか、ワシ等と同じ『付与』のスキル保持者だと思わなかったのじゃよ。てっきり、ワシ等狙いの愚かな人間だと思ってのぉ」


 髭を摩りながらそう弁解するブルーノ。


(――あれ? もしかして、この二人……)


 そんな二人の話を聞いたノアは、この二人も自分と同じ『付与』のスキル保持者であることに気付く。


「……えっと、もしかして、あなた方も『付与』のスキルを?」


 ノアの問いかけにブルーノとイデアは顔を見合わせる。


「なんじゃ? 婆さん、まだ説明しとらんかったのか?」

「そう言えば、説明がまだだったね。どれ……『ステータス』」


 イデアは目の前にステータスを表示すると、自身のステータスをノアに提示する。

 突然、ステータスを提示され驚くノア。

 そんなノアにイデアは優しく声をかける。


「遠慮はいらないよ。私のスキルを見てごらん」

「は、はい。それでは遠慮なく……」


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】イデア・エイドス

【年 齢】150    【レベル】‌95

【スキル】付与   【ジョブ】魔女

     全属性魔法

【特 殊】読心

【STR】体力:50     魔力:100(MAX)

     攻撃:50    防御:50

     知力:100(MAX) 運命:95

 ◆――――――――――――――――――◆


(――す、すごいっ!)


 イデアのステータスを見たノアは思わず感嘆の声を上げた。


「お、俺と同じ『付与』のスキル保持者? しかも魔力と知力の値が100!? す、すごいっ! すごいですっ!!」

「ふえっ、ふえっ、ふえっ……驚いたかい? そうさ、私等はね。あんたと同じ『付与』のスキル保持者なのさ」


 イデアはノアの頭を撫でると、しみじみと呟く。


「『リセット』のスキルでレベルやステータスが初期化され、『付与』のスキルを授かるとは……まだ十五歳だというのにあんたも大変だったろう。『付与』のスキル保持者は狙われるからねぇ……」

「えっ?」


(俺、『リセット』のスキルのことを教えたっけ?)


 すべてを見透かしたかのようなイデアの目。

 イデアは笑みを浮かべると、答え合わせをするかのようにノアに告げる。


「――言っただろう? 私は読心の魔女だと。好むと好まざるとに係わらず流れ込んでくるのさ……絶え間なく他人の思念がね。まったく、嫌なスキルだよ……ふぅむ。しかし、得心が行ったよ。レベルもステータスもオール1のノアがなぜ、森の最深部まで来ることができたのかを……まさかスキルをそう組み合わせて使うとはねぇ……」

「なに? どういうことじゃ?」


 イデアの言葉に興味を持ったのかブルーノが話に加わってくる。


「むっ……」


 そこまで話し、自分の失敗を悟るイデア。


(――つい、口に出してしまったが、失敗だったね。これはノアの秘密の根幹に関わること……とはいえ、ブルーノには鑑定眼がある。隠し立てはできないか)


 どの道、ノアの持つアイテムを鑑定眼で見られれば、ノアの持つ力の秘密がわかってしまう。イデアはノアに視線を向けると、優しく問いかけるように言う。


「……ノアよ。私達はね。とある国の『付与』のスキル保持者の保護を行う組織に属しているんだ」

「とある国の『付与』のスキル保持者の保護を行う組織……ですか?」

「ああ、とは言っても、信じられないかも知れないがね。それでも話だけは最後まで聞いてくれるかい?」


 イデアの言葉を聞き、ブルーノが申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を垂れた。

 どうやらいきなり攻撃を仕掛けてしまったことについて反省しているらしい。


「ああ、婆さんの話は本当じゃ。突然、攻撃して悪かったの……この通りじゃ……」


 そう言って、頭を下げるブルーノ。


「い、いえ、結果的に無事だったので、謝らなくても大丈夫です。それより、話を聞かせて下さい。とある国の『付与』のスキル保持者の保護を行う組織とは、どういうことですか?」


 ノアがそう尋ねると、イデアは神妙な表情を浮かべる。


「……そのままの意味さね。私達は『付与』のスキル保持者を積極的に保護する組織『箱舟』に属していてね。付与のスキル保持者を見つけた場合、速やかに保護することにしているのさ。一人で十分自己防衛できると判断するまでの間ね……私がノアのことを見つけた時は、既に傭兵に襲われた後だった……だが、その後は簡単に、この森まで逃げることができただろう? ノアに認識阻害の魔法をかけたからね。誰にもノアの姿を認識できなかったはずさ」

「そ、そうだったんですか……」


(それは知らなかった……)


 知らないところで助けられていたことを知り驚くノア。


「それじゃあ、この指輪もですか?」


 指に嵌めた幾何学的な文字の走る銀色の指輪。

 指輪を見せると、イデアは笑みを浮かべる。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ……やられっぱなしは嫌だろう? ガンツとかいう傭兵が持っている物の中で一番奪われて困る物を奪ってやったのさ」

「――えっ?」


 イデアはノアの指輪を指差して言う。


「――その指輪の名は『同化の指輪』。『付与』のスキル保持者のステータス値を奪い自らのステータスに反映させることに特化した指輪さね。売れば半年は遊んで暮らせる指輪さ。まあ、一度付けたら外すことはできないけどねぇ」

「ええっ!?」


 指輪を摘み力を込め外そうとしても、『同化の指輪』が外れない。

 一度付けたら外すことができないと聞き、涙目のノア。

 そんなノアを見てイデアは笑みを浮かべる。


「ふえっ、ふえっ、ふえっ、どう足掻いても外すことはできないよ。外す理由もないし、別にいいじゃないか」

「えっ、それはどういう……」

「その指輪にステータス値を移しているんだろう? 『リセット』のスキルから自分のステータス値を守るために……」

「……なるほど、そういうことじゃったか。道理でワシでは視えぬはずじゃ」


 イデアの言葉にブルーノは得心がいったかのような表情を浮かべる。


「しかし、ノアは面白い『付与』の使い方をするのぅ。自らのステータス値を指輪に付与するだけならいざ知らず、まさか、魔石に命を吹き込むとは……」


 ホーン・ラビットに視線を向けるイデア。


『キュイキュイ?』


 イデアに視線を向けられたホーン・ラビットはノアの肩を伝い頭の後ろに隠れた。

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