第6話 森に潜む者
「あの子供は……なんじゃ、仲間だったのか……」
ノアを襲ったドワーフ。ブルーノは柄だけとなった戦斧・黒龍丸を片手にぶら下げながら呟く。
「……悪いことをしたのぉ。こんなことなら遭遇した時、ステータスを鑑定しておけばよかったわい。しかし……あのステータス差でなぜ、ワシの黒龍丸を粉々に破壊することができたのじゃ?」
柄だけを残し壊れてしまった斧・黒龍丸に視線を向けた後、左目に映るノアのステータスに意識を向けると、ブルーノは考え込む。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ノア・アーク
【年 齢】15 【レベル】1
【スキル】リセット 【ジョブ】なし
付与
【STR】体力:1 魔力:1
攻撃:1 防御:1
知力:1 運命:1
◆――――――――――――――――――◆
(年齢は十五歳。レベル1でステータスもオール1か……通常ではあり得ぬステータス値じゃ……)
察するに、あの子供が『付与』のスキル保持者狩りに遭ったであろうことは容易に想像できる。しかし、なぜ、レベルまで1になっているのか理解できない。
それに、あんなステータスでブルーノが自ら鍛えた戦斧・黒龍丸を壊すことができるとは到底思えない。
この場所に辿り着くことすら困難とも言える。
「――いや、あの子供はワシ等と同じ『付与』のスキル保持者。ステータスだけでは測れぬか……」
話の途中で逃げてしまったため、とっさに鑑定できたのはノアの体の状態。つまり、ステータスのみだ。装備していたアイテムまでは鑑定できなかった。
ブルーノは考える。
自身が鍛え上げた戦斧・黒龍丸の攻撃を易々と防ぎ、逆に破壊してしまうほどの頑強さの秘密は装備していたアイテムにあったのではないかと……
ブルーノは「ステータス」と呟き、自分のステータスを確認する。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ブルーノ・ケルン
【年 齢】150 【レベル】90
【スキル】付与 【ジョブ】斧匠
ストレージ
【特 殊】鑑定眼
【STR】体力:95 魔力:60
攻撃:100(MAX) 防御:100(MAX)
知力:70 運命:70
◆――――――――――――――――――◆
(ワシの攻撃力は100だったのじゃがのぉ……)
武器自体の攻撃力を合わせれば、その倍の威力を発揮してもおかしくない。
十分の一しか生きていない子供相手に傷一つ与えることができないどころか、自ら鍛え上げた戦斧・黒龍丸が砕かれるとは思いもしなかったブルーノはため息を吐く。
「まあいい。機会があれば、いずれ会うこともあるじゃろ……」
(それに今日は良いものが見れた。戦斧・黒龍丸が壊れてしまったのは残念じゃが、あれ程の力を持つ『付与』のスキル保持者は他にいまい。婆さん以来の逸材じゃ……)
「これを使わなくて本当に良かった……」
背中に背負った銀色の戦斧・灰燼丸の柄を握りそう呟く。
(――この戦斧を振れば辺り一帯が灰燼と化してしまうからのぉ。流石にあの子供でも耐えられないじゃろ……)
「本当に良かった。良かった。良かったのぉ……。折角じゃ、婆さんにも今日のことを聞かせてやるとするかの」
ブルーノは砕け散った戦斧・黒龍丸の破片を柄ごと『ストレージ』に収納すると、下手くそな口笛を吹きながら森の中に消えていった。
◇◆◇
「まだ心臓がバクバクする……酷い目に遭った……」
心臓のバクバクを止める為、マップルの木の幹に寄り掛るノア。
『キュイキュイ……』
心配そうに鳴きながら寄ってくるホーン・ラビットを膝に抱えながら、腕で額の汗を拭うと、ドワーフとの戦いを思い返す。
戦いといっても、一方的に攻撃され、ドワーフが勝手に自滅しただけの話だが……
(サクシュ村もそうだが、この森もやっぱり危険だ……特にあのドワーフは、『魔の森』に存在するどの魔物よりも恐ろしく感じた。できるだけ早目にこの森を抜けて、村に向かった方がよさそうだ……)
ノアはホーン・ラビットの頭を撫でると、嫌なことを忘れるように首を振る。
『キュイキュイ』
「うん。そうだね。今日はもう寝ようか……」
(――今日はもう疲れた。明日、起きてすぐにこの森を離れる準備をしよう……)
一呼吸置くと、ノアはホーン・ラビットを肩に乗せ、ツリーハウスで休むため、マップルの木をよじ登ろうとする。
すると、背後に人の気配を感じた。
(――うん? 誰かに見られているような気が……)
ノアが振り向くと、そこには見知らぬ老婆が立っていた。
「……へっ?」
唖然とした表情を浮かべるノア。
その表情をどこか嬉しそうに眺める老婆。
「――ふえっ、ふえっ、ふえっ……良い家だね。坊やが作ったのかい?」
「えっ? まあ、そうですけど……」
敵愾心を感じさせない老婆の声に、ノアもまるで世間話をするかのように返答する。
(――なんで、魔の森にお婆さんが? まさか俺を捕まえに?)
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……そうじゃないよ。私は世話を焼きたいだけのお節介ババァさ。ブルーノが迷惑をかけたようだからね。詫びに来たんだよ」
「詫び……ですか?」
(――っていうか、ブルーノって誰だろう?)
そう頭に思い浮かべると、老婆はノアの考えを読んだかのように呟く。
「ああ……それはあんたのことを襲ったドワーフのことさね。ふえっ、ふえっ、ふえっ……面白いものが見れたよ。本気を出していなかったとはいえ、ブルーノを退けるなんてねぇ。長生きして見るもんだ」
(えっ? まさか、俺の心が……)
老婆は笑みを浮かべ言う。
「……ああ、読めるよ。あんたの心がねぇ。そういえば、自己紹介を忘れていたね」
老婆は恭しく頭を下げると、両手でスカートの裾を軽くつまみ挨拶をする。
「……私は、イデア。読心の魔女・イデアだよ。よろしくね」
「う、うん」
(あ、あれ? これって自己紹介した方がいいのかな?)
唐突な登場と自己紹介に困惑するノア。
そんなノアにイデアは首を横に振る。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……自己紹介は不要だよ。さて、ノア。一緒に行こうか……」
「えっ?」
いつの間にか、ノアの目の前に立っているイデア。
イデアはノアの手を取ると、笑みを浮かべる。
「ここは危険だからね。それにお詫びもしたい。さあ、行くよ。『転移』」
イデアがそう呟いた瞬間、周りの景色が変わる。
そこには、イデアと共に突然現れたノアに驚くブルーノの姿があった。
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