第4話 到達者

「……も、もしかして」


 ノアはステータス画面にある『付与』に指を当てると、身に付けている指輪に、自身のステータス値を移し替えていく。

 そして、もう一度、『リセット』すると――


「や、やっぱり……!」


 ノアが自身のステータス画面に視線を向けると、そこには……


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ノア・アーク

【年 齢】15    【レベル】‌1

【スキル】リセット 【ジョブ】なし

     付与

【STR】体力:7(1+6)   魔力:2(1+1)

     攻撃:2(1+1)   防御:2(1+1)

     知力:2(1+1)   運命:2(1+1)

 ◆――――――――――――――――――◆


 ……思った通りの結果が、ステータス画面に現れていた。


『リセット』は、レベルとステータスを初期化する固有スキル。

 そして『付与』は、自分のステータス値をモノに移し替えるスキル。

 初期化したステータス値が1あれば『付与』で指輪に移し替えることができる。


「こ、これならっ……!」


 これまでの間、ずっとハズレスキルだと思っていた『リセット』と『付与』。

 二つのスキルの組み合わせに希望を見出したノアは、夢中になってステータスの『リセット』と指輪への『付与』を繰り返していく。

 そして『リセット』と『付与』を何度も繰り返したノアは、ステータス画面を見て、満足そうな表情を浮かべる。


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ノア・アーク

【年 齢】15    【レベル】‌1

【スキル】リセット 【ジョブ】なし

     付与

【STR】体力:106(1+105) 魔力:101(1+100)

     攻撃:101(1+100) 防御:101(1+100)

     知力:101(1+100) 運命:101(1+100)

 ◆――――――――――――――――――◆


「……思った通りだ。やったぁー!」


 レベル1にして到達者と呼ばれるステータス値となったノアは喜色の声を上げる。

 しかし、今、居る場所は、魔物が跋扈する通称『魔の森』。

 魔の森に隣接するサクシュ村には、ノアのステータス値を狙う傭兵団もいる。

 念のため、ステータス値を+100ほど追加すると、ステータス画面を見てノアは満足そうな表情を浮かべた。


(……これなら、ひとまず安心かな?)


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ノア・アーク

【年 齢】15    【レベル】‌1

【スキル】リセット 【ジョブ】なし

     付与

【STR】体力:206(1+205) 魔力:201(1+200)

     攻撃:201(1+200) 防御:201(1+200)

     知力:201(1+200) 運命:201(1+200)

 ◆――――――――――――――――――◆


 ステータス値だけを見れば人間の限界を遥かに超えたステータス。

 しかし、ステータス画面に表示されているだけで、どれ程の力を手に入れたのかわからない。


(とりあえず、明日、試して見よう)


 そう考えたノアはホーン・ラビットの毛を詰め込んだ掛け布団に包まると、早めの睡眠を取ることにした。


 ◇◆◇


「ふわぁ……」


 翌日、目が覚めたノアは、朝食代わりに木に生っているマップルを口にすると、短剣を二本腰に差し魔の森に降り立った。


「さてと……」


 ノアは短剣を抜き、近くに生えている木に手をかける。


(よし、この木で試して見よう。どの位、力が付いたのか……)


「やあっ!」


 そう言って思いきり木に短剣を突き立てると、短剣の刃は『ずーん』という音を立て、木に深々と突き刺さった。


「お、思っていたのと違う……」


 てっきり、木が真っ二つに折れるものだと思っていたノアは唖然とした表情を浮かべる。

 しかし、考えてみればわかりそうなものだ。

 いくら『体力』や『攻撃』が到達者のステータスを越えていようと、普通の短剣を木に突き立てた所で、刃が木に埋まるだけ……。


「あっ……」


 それ所か、木から短剣を抜くため、柄に力を込めると『バキッ』と音を立てて、刃がポッキリ折れてしまった。

 柄だけになった短剣を土に埋めると、ノアはもう一本の短剣に手をかける。


(それじゃあ、これならどうだっ!)


 ノアは『リセット』と『付与』を何度も繰り返し、短剣にステータス値を乗せていく。

 そして『攻撃+100』となった短剣で木を薙ぐと、まるで空振りしたかのような抵抗感の無さで木を切断することに成功した。


「う、うわぁ……」


 なんとも恐ろしい短剣を作ってしまったものだ。

 仮に短剣のステータス値を誰かが鑑定するとこのように映る。


 ◆――――――――――――――――――◆

【武 器】短剣

【STR】体力:+100  魔力:+100

     攻撃:+100  防御:+100

     知力:+100  運命:+100

 ◆――――――――――――――――――◆


 銀貨二枚の価値しかない短剣が、ステータス値を『付与』しただけで魔剣と言っても過言ではない一振りに早変わり。


「でも、おかしいな……」


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ノア・アーク

【年 齢】15    【レベル】‌1

【スキル】リセット 【ジョブ】なし

     付与

【STR】体力:206(1+205) 魔力:201(1+200)

     攻撃:201(1+200) 防御:201(1+200)

     知力:201(1+200) 運命:201(1+200)

 ◆――――――――――――――――――◆


 ステータス値を付与した短剣を持っているのに、ノアのステータス画面には、短剣に付与した分のステータス値が加算されていない。


(……拾った指輪に付与するとステータス値に加算されて、短剣に付与するとステータス値に加算されないのは、なんでだろ?)


 ノアが首を傾げていると、足元に軽い衝撃が走る。


「うん?」


 視線を向けると、足元にホーン・ラビットがいた。

 ホーン・ラビットとは、頭に角の生えた耳介の大きな小型の魔物。

 体当たりされたようだが、ステータスが到達者クラスなためか、まったくダメージがない。


『――キュイキュイッ!』


 そう鳴き声を上げて繰りかかってくるホーン・ラビットの角を手で捕まえると、ノアは短剣でホーン・ラビットの体内にある魔石を破壊し、近くの川で血抜きをしつつ解体していく。


(まさか、こんな簡単にホーン・ラビットを捕まえることができるなんて……)


 思わぬ幸運に、ノアは笑顔を浮かべ喜ぶ。

 ちゃんとした肉を食べるのは久しぶりだ。

 孤児院の食事は、野菜の切れ端と小さな肉の欠片のスープが多かった。

 それに魔の森で獲物を持ち帰るのも初めてのことだ。


 魔の森の生態は弱肉強食。

 獲物を狩った瞬間、他の魔物にそれを奪われる。


「久しぶりの肉だぁー!」


 ホーン・ラビットの解体中、他の魔物が横取りしに現れないことにノアは感動の声を上げた。

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