造形魔法のヒント

 元々は造形魔法をやるつもりなんて無かった。小さい頃からものづくりが好きで工作ばかりしていた。きらきらした宝飾品に憧れていつか作るヒトになりたいと夢見た。ただそれには致命的なほど手先が「不器用」だったのだ。


「アキさんは魔法の才能があるから造形魔法とか向ているんじゃない?」


 進路を決めるときにそう告げられ、造形魔法を学ぶ学校へ進学した。分かっていた。自分の手は魔法無しでは宝飾品が作れないと。それが悔しくて、いつかあの手仕事祭へ出るんだという夢が永遠に叶わない物なのだと思うと悲しかった。


 造形魔法を学び、向いていたのか技量がめきめきと伸びた。頭で考えたイメージを魔法に投影し原料を成型する造形魔法でなら作りたい物が驚くほど「そのまま」に作れた。その結果、「黒き城シャトー・ノワール」に就職する事が出来たのは幸運だった。


 「黒き城シャトー・ノワール」の社長は元々職人だったらしくものづくりが大好きだ。職人たちが個人で製作活動するのを応援していてアキが今回「手仕事祭へ出て見たい」と言うのを後押ししてくれた。それも「造形魔法」で手仕事祭へ出れるようにするという形で。


 夢のようだった。魔法を介さない手作業ではないけれど、造形魔法という手法に変わっただけで一から作っている「手仕事」である事に変わりは無いと、これが自分の「手仕事」なんだと胸を張って発表出来ると思っていた。


 だが、蓋を開ければどうだ。「手仕事」とは一体なんだ。アキは苦悩していた。


「あの」


 アキがブースから離れるとき、隣のブースの女性から話しかけられた。


「あ……昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「いえ。もしかして、イベント参加初めてなんですか?」

「はい……」

「やっぱり。なんか昨日の様子を見ていてそうかなって思って」


 女性は会場中のドタバタした様子やアキの青ざめた顔を見てなんとなく状況を察していた。


「実は今までイベントに行ったことが無くて。地方に住んでいたし、就職してからは仕事が忙しかったので。それで、ようやく憧れのイベントに参加出来るって嬉しくて」

「え!イベントに来たことが無かったんですか?」

「はい……。お恥ずかしながら。なので自分のイベントのイメージと違ったというか。考えていた通りに上手くは行かないんだなと……」

「そりゃそうですよ!」


 女性は言った。


「皆最初から上手くなんて行かないですよ。何回もイベントに出て、その度に反省と試行を繰り返して自分のスタイルを探るんです。あなたは最初から売れてるだけマシ。最初は一個も売れないなんてザラなんですから」

「そうなんですか?」

「最初から気負い過ぎなのでは?もう少し小さいブースから始めても良かったかも。……なんて、私みたいな弱小ブースの人間が『黒き城シャトー・ノワール』のデザイナーさんに言っても仕方ないですけど」


 自虐に笑うと女性はアキの顔をじっと見つめて言葉を続ける。


「でも、私あなたに感謝しているんです。あなた、というか『黒き城シャトー・ノワール』の社長さんに。気づいてないかもしれないけど、私も造形魔法で作品を作っているんですよ」

「え?」


 アキは驚いた顔で女性の作品を見る。一つ一つ違う個性的な作品。手に持てば微弱な魔法の残滓で分かるかもしれないが、見た目は一点物の手作り品だ。


「元々は手で作っていたけれど、少し前から造形魔法に切り替えたんです。その方が自分のイメージ通りの作品が出来るから。複製魔法が使えないから複製する時は鋳造屋さんに頼んだり、一点物だったりするけれど。だから今回あなたの会社の社長さんが手仕事祭へ参加出来るようにして下さって助かりました」

「そうだったんですね」

「造形魔法って今や量産品のイメージがあるけれど、元々は手作業で作れないような複雑な造形を作るために産み出された技術だから、こういう使い方が本来の使い方なんじゃないかって思うの。

 それってツールが変わっただけで古来のやり方と変わらないじゃない。そういうのがもっと広まったら良いですよね」


「造形魔法の本来の使い方……」


 考えた事も無かった。アキがものづくりを始めた時は既に造形魔法が主流となっており、造形魔法が何のために生み出されたのかなど気にもかけなかった。


(もしかして、私がやりたかった事って……)


「ありがとうございます。造形魔法とイベントの事、自分のブース作りも含めてちょっと考えてみます」


 女性にお礼を言うと足取り軽くブース巡りに繰り出したのだった。

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