第25話 ソクア視点(マキアス兄) 俺様、カラス退治で活躍(無茶苦茶)する

「おい! なんだぁこのクソまずいワインは! なめてんのか! 俺は【剣聖】のスーパースキルもち次期領主ソクアさまだぞ!」


 俺様は海岸線沿いのしがない村で、しょぼい歓待を受けていた。

 村一番の村長宅の庭らしいが、ただの2階建てのしょぼい小屋じゃね~か。俺様をなめてんのか。周りには村民たちがアホづらさらして集まってやがるし。


「も、申し訳ございません。 少し前に出没したバッタの魔物たちに畑を荒らされてしまって、良質なワインが値上がりしてしまって…あと海路の輸入も怪物がでたらしくて…お口にあわず申し訳ございません」


「ああ、なんだぁそりゃ? 値上がりなんか関係ねぇんだよ。だいたいバッタの魔物はこの俺様が討伐してやったんだぞ。そんな俺さまにもっとお礼をすべきなんじゃねぇのかぁ、うん?」


 俺はグダグダと言い訳してきた女の手をつかまえて、引き寄せる。たしか村長の娘だったか? まあまあじゃねぇか、ぐひひ。


「あ、ダメです。ソクア様! やめてください…」


「ソクア様、我らが騎士道に反することを次期ご領主さまがすべきではないですぞ。我々はお館さまの命をうけて、魔物討伐の最中だということをお忘れなきよう」


 副隊長のラーンの野郎がいっちょ前に俺に意見してきた。ちなみに後ろに控えるのは、前回も面倒を見てやった3等騎士どもだ。ようはクズ騎士たちだ。


「ち、わかったよノリの悪いやつだ。ちょっとした冗談じゃねぇか。にしてもまったくしけた村だぜ。ろくな女がいねぇ」


 まあしゃーねぇーか、所詮は俺様に支配される下民どもだ。やっぱおれはリリローナ姫のような王女がふさわしいよなぁ


 ああ、あの眩いばかりの超美人顔、さらさらの銀の髪、きめ細かくてすべすべの肌、そしてこれでもかというボリューミーな胸…ぐへへへ。


「ママ~あのお兄ちゃんよだれたらしてゴブリンみたいな顔してるよ~気持ちわるいね~」


「だ、ダメ! 本当の事言っちゃ! ご領主さまのご子息様なのよ!」


「でもよう、海岸地帯に出没する魔物討伐にきたんだろ、なんか各地の村でダダ酒飲み歩いているだけらしいぜ」


「ばか! そんなこと言ったらおまえ…」


 遠巻きにソクア達討伐隊を見ていた村民たちから、ざわざわと声が漏れだした。


「ああ! だれだ! 今なんて言った!」


 ふざけたことをぬかしやがって、愚民どもの分際でお仕置きが必要なようだな。なんたって俺様はスーパースキル持ちの次期領主さまなんだぞ。だれが支配者か教えてやらねぇとな。

 しかし、俺様のお仕置きタイムは、1人の3等騎士の叫びで邪魔される。


「ソクアさま! 海岸方面から魔物が飛んできます! あれは!? リバークロウです! かなりの大型!」


 騎士の1人が上空を指さして叫ぶ。黒い塊が大きな翼を広げて村に迫っていた。


「でた~化けガラスだ~」「きゃ~」


 なんだよ、ただのでかいカラスじゃねぇか。パニくってんじゃねぇよ愚民ども。


「んだよう! しょうがねぇなあ。おい、愚民ども! このソクアさまが魔物を討伐してやる! ありがたく思えよ! うぉおお――――――」


 俺は剣を抜いて、スーパースキル【剣聖】を発動させる。

 俺様の体が金色に輝きだす。

 うっひょ~かっけ~おれ! 神!


「そ、ソクア様、何をやっているのですか!? まずは村民を避難させて、我らは村のはずれに移動して戦うべきです!」


「ああ、そんな面倒なことやってられるかよ! おまえらは俺様のスーパースキルを指くわえて見てればいいんだよぉ!」


「おら―――!」


 俺様の放った華麗な光の斬撃が、上空から迫る化けガラスの片羽を切り落した。


「やりぃ~、みたかクソガラス!」


「い、いかん全員伏せろ!」


 ラーン副隊長が騎士や村民たちに聞こえるよう大声を張り上げた。直後に凄まじい衝撃が村を襲う。


「あああ、わしの家が…」


 リバークロウが墜落したことにより、瓦礫の山と化した我が家を見て村長も崩れ落ちている。


「ああん? そんなしょぼい家ぇ無くてもどうでもいいだろう? それよりどうよ、俺様のスーパースキル! 一撃だぜ一撃!」


「あ、あ、あ……」


 村長のやろう、そんなにクソ家がぶっ壊れたのがショックなのか? 

 さっきから俺様をプルプル指さしやがって、失礼な野郎だ。


「そ、ソクア様! うしろ! 魔物が…!」


「え? ぶひゃ~~~~~」


 黒い翼のようなものが視界に入った瞬間、俺様の体は思いっきり吹っ飛ばされていた。

 ぐぎぃ……痛てぇええ。


「って、おい! こいつ俺様の切り落とした翼が…再生してやがる…」


「ケァ~~~~~~~!!!」


 ズン!!!!!


 うわぁぁあ~化けガラスの大きくて鋭いくちばしがズンズンくるぅうう~


「ひぃぃぃいいいいい!  なんなんだこいつ~! この~【剣聖】【剣聖】【剣聖】【剣聖】【剣聖】!!」


 俺様の華麗な光の斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃ぃ~~~くたばれ化けガラス!


「そ、ソクア様! 何をやって…そんな無茶苦茶、村が崩壊してしまいます! リバークロウは腹部にある核を攻撃しなければ…再生を繰り返すだけ…」


「ケァ~~~~~~~ケァ~~~~~~~~!!!」


 ズン! ズン! ズン! ズン! ズン!


 うわわわわわ~、めっちゃ怒ってる! 

 ズンズンしまくってくる~ひぃいいいい串刺しにされるのはいやだ~

 こうなったら…


「よ~し! ちゅうも~く!!」


「「「「「え? まさか!?」」」」」


「帰るぞ!」


「「「「「でた!」」」」」


 なんだこいつら? 妙にハモるじゃねぇか。というか「でた」ってなんだよ。


 副隊長ラーンと3等騎士たちが呆然とした間抜け面で固まっている。

 なんだぁ~? こいつら? ついに頭のネジでも取れたのか?


「な、何を言っているのですかソクアさま! この状況で撤退など不可能です! 村人を見捨てるのですか! これでは前回と何も変わらないではないですか!」


 副隊長のラーンが我に戻ったのか、グチグチと俺様に口答えしてきやがる。


「あ~、誰が撤退なんて命令したんだよ。お前たちは残るんだよ、ここに!」


「な、何を…今こそソクア様の【剣聖】をお使いになって窮地を乗り切らなければならない状況かと。前回の汚名を挽回するためにもここで踏ん張りましょう!」


「学習能力ゼロかよ、このアホどもがぁ! だからその超絶凄い俺さまのスーパースキル【剣聖】でクソガラスを弱らせてやったんだろうが! ここまでおぜん立てしてやったんだ。あとはダメダメのおまえたちでもなんとかできるだろうが!」


「てことで! じゃあな!」


 俺はスパーダッシュでその場から駆け出した。

 アホ騎士どもや愚民どもがなにやら騒いでるようだが知ったこっちゃねぇぜ。て、あれ?


「ん? なんか俺様の足が浮いているような? もしかして飛べるように覚醒したのか! 大事な場面でレベルアップなんて、俺様すげぇぞ!」


「あん? なんだ? 後ろでバサバサうるせぇ音が…」


 なんだか見覚えのあるくちばしが俺様の胴体をはさんでるじゃねぇか…まさか!? 飛んでるんじゃないぃいい――――――!



「お、俺様をつまむな~。俺様はエサじゃねぇ~~~~~~~~!!!」



 ソクアをくわえた化けガラスはそのまま海の彼方へと消えていくのであった。

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