第12話 風の暗殺剣士、マキアスの風に圧倒される

「大きな公園ね」


 街の中央公園を歩きながらリーナが呟いた。すでに日も落ちかけており、公園に人影はほとんどない。

 買物を終えた僕らは宿屋に向かっていた。


 僕は両腕に大量の荷物を抱えて歩いている。商店街でたくさん買物したおかげで今後の旅も楽になるだろう。

 ちなみにリーナも荷物を持ってくれている。主に大量購入した下着とか。これは僕が持つわけにはいかない。


「―――っ!!  リーナ危ないっ!」


 殺気を感じた僕は振り向きざまに剣を抜き、飛んできたなにかを叩き落とした。


「何者だ!」


「ほう、やるな小僧。俺のダガーをはじくとは。女の急所をねらったのだがなぁ」


 茂みのなかから、男が現れた。腰に2本の剣を帯剣している。


「ははは! おれは風の暗殺剣士スラン! 王女殿下には死んでもらう」


「なんだと! そんなことは僕がさせない!」


 僕は、リーナと暗殺剣士の間に入りこんで、剣を構えた。


「む? 剣だと? 貴様、魔法使いではないのか? 情報と違うな」


『はあ~? 魔法使い? マキアス様はそんな劣化版の魔法なんか使わないわよ! そもそも暗殺しにきたのになに名乗ってんのよ!』


 エレニア(スキルプレート)がいつものごとく横からつっこんできた。


「ふはは、名乗っても問題はない。どのみちお前たちはここで消えるんだからな―――」


 スランはそう言い放つやいなや、2本の剣を抜きつつ凄まじい速度で間合いを詰めてきた。2本の斬撃が鞭のように飛んでくる。


 僕はスランの放つ斬撃を受け切ると、すかさず胴体めがけて袈裟切りを放ったが、素早い対応で受け流される。スランはお返しとばかりに、さらに速い突きを繰り出してきた。


「おっちゃん! やるなぁ、凄い剣速だ!」


「はは~、褒めるのはまだ早い! さあ、風の剣士の恐ろしさを思い知らせてやる! スキル発動!【ウインドアップ】!」


 ソランが腰を落として踏み込んだ瞬間、こちらへ猛スピードで突っ込んできた。

 2本の高速の斬撃が僕めがけて飛んでくる。


「どうだ! 手も足もでまい!」


 スランの高速連撃に僕は防戦一方に―――



 ならなかった。



「【風力創成】速度アップ!」

『アイアイサー! マキアス様!』


 一気に僕の速力が増す、スランの斬撃をすべて受け流しつつ、真正面から斬撃を放ちまくった。


「ぐ、こ、こんなはずはない。私の【ウインドアップ】(風力付与)は最速のスキルなのだぞ!」


「え? そんなにすごいスキルなの! 」


『最速? そのスキルじゃ無理よ、コードも正確な計算式ではないようだし、充分に力を発揮できてないわ。効率悪すぎ、それまがい物よ!』


「なんだと! スキルプレートごときが、知った口を聞くなぁ! これならどうだ! 【ウインドアップ】最大出力!」


「うぉおおおお!」


 スランの速度がさきほどよりさらにあがる。一気に僕との間合いを詰めようと突進してきた。だったら僕も思いっきりいくぞ!


「エレニア! 【風力創成】速力全開だ!!」

『待ってました! マキアス様! 喜んで全力発動!! いったれ~!!』


「へ?」


 スランが言葉を発した時には、すでに彼の横を高速素通りして、背後に消えていく。


「は?」


 慌てたスランは、僕の消えた方向に振り向くが、すでにそこには僕はいない。四方八方に高速移動しているからだ。彼の目では僕を視認することができなくなっていた。


「な、ななななんだぁこいつ! 人間じゃねぇ! はぇええええ!」


 驚嘆の声を放つ彼のまわりを超高速で走り回る僕は、ひょいっと斬撃を放った。


 対応できないスランは2本の剣のうち、1本が弾き飛ばされる。


 ぼくはいったん高速状態を解除した。やはり全力使用の負荷はきつい。持続できる体力をもっとつけないといけないな。


「ぐ…、調子に乗るなよ小僧! 俺が速力だけだと思うなよ、【ウインドアップエンチャント】(風力物理付与)!」


 スランは自分の剣にむかってスキルを発動した。スランの剣に小さな竜巻が発生する。まるで小型竜巻の剣だ。


「はっは~! どうだ! 驚いただろう! これぞ我が風の暗殺剣奥義! 竜巻ブレード!」


「す、すごい、あれカッコいい! エレニア! 僕も剣に風力を付与できるの?」


『え? ああ。まあマキアス様ならたぶん大丈夫かな、でも風力をちゃんと調整し―――』


「【風力創成】!!!」


 僕はスランのように自分の剣に風力を付与した。


 瞬間、僕の剣の周りに凄まじい風圧が発生する、周囲の木々がギシギシと悲鳴をあげるようにしなり始めた。とてつもないエネルギーが剣を取り巻くように膨らんでいく。


「おお、できた! 竜巻ブレード!! よ~し、スランいくぞ!」



「ひ、ひぃいいいいい!! で、できたじゃねぇ! それは竜巻ブレードじゃなくて、ただの巨大たつま―――」



 スランは何か言いながら天高く昇っていき、そのまま見えなくなった。

 どっかに飛んで行っちゃったぞ…


「え? ちょっと待って、終わり? 逃げたのかな? 新技ためしたかったのに…」


『いや、ぜったい逃げたとかじゃないんですけど…、もうマキアス様とリーナが無事なら何も言わないです。』


 エレニアがあきれた声をだしていると、リーナがぼくに飛びついてきた。

「ばいーん」と。


 いや正面はまずいでしょ。おもいっきり当たってますよ王女さま!


「マキアス!! ありがとう!! また守ってくれたのね!!」


 うお! うお! 正面からぎゅーはまずい! ちょ、リーナ! 当たってますよ! いかんですよ!


「ちょっとリーナ落ち着こう、いったん離れよう」


「あ、ごめんね、私嬉しくてつい…」


 膨らみから解放された僕は、必死に精神を整える。暗殺剣士との戦いより消耗するなこれ。


 しかし今回の件は、明らかにリーナを狙ってきた。この先も暗殺者に狙われる可能性は非常に高いぞ。なんとしても彼女を無事に王都まで送り届けなければならない。


 僕が決心をあらたにしていると、リーナが頬を赤くしながら話しかけてきた。なにやら頼みごとがあるらしい。


「あ、あのね…さっきの凄い風だったでしょ…だからちょっと私の荷物も飛んでちゃったの…できれば早く回収したいなぁて…マキアスにも手伝ってほしくて…」


 急にモジモジし始めたリーナをみて、エレニアが会話に入ってきた。


『マキアス様、これは早急に回収してあげないと、リーナは私のライバルですがさすがに可哀そうです』


「え? エレニアはライバルなの? よくわからないけど、僕は何を探せばいいのかな?」


 さらにモジモジが激しくなるリーナを横目に、エレニアが僕に静かに耳打ちしてくる。


「へ? なに?」 

『だから! モニョモニョ!』

「はい!! リーナ様! す、すぐに回収させて頂きますです!」


 そのあと、僕は必死に公園中にちらばったリーナの下着を回収するのだった。


 夜の公園で王女の下着を必死で探すなんて、どうみても変態だと思われるかも知れないが断じて違う。

「王女下着竜巻陳列罪」とかに問われているわけでもない。決して誤解してはいけない。


 僕は公園に人がいなかったことを神さまに感謝した。

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