第108話 狂華爛漫
トゥレラは頭に添えていたヒレのような手を離し、今度はその両腕で私の頭を包み込むように抱きつく。
そして、例の深淵の言語で詠唱を始めた。
『我は狂気の支配者、汝は其の筆頭眷属なり。我は其の権限を以て「mfuibm xfbqpo」を授けん。汝の本性を写したまえ…………。顕現せよ!』
最後の叫び声と同時に、ほのかにあたたかい感覚に包まれて眠ってしまいそうになる――
――スキル《
「ふぁっ……」
「起きたか。全く、7日も待たせた上にすぐうたた寝とは。妾を弄んで楽しいか?」
「すいません心地よかったもので……。って7日ですか?」
7日、つまり寝てる間に現実世界で1日以上も経ってたのね。まさかそんなに寝るなんてね……。
ログアウトしてたのは1日のログイン制限に引っかかったってことかな。
「ところで、そんなに妾の胸の寝心地がよかったというのか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら話すトゥレラを尻目に、これまでに手に入れたスキルの性能を見る。
□□□□□
《死神遊戯》
MP:0 CT:0秒
効果:自身と相手の残りHP減少割合に応じて、攻撃時の即死率増加(弱~極強)。
《溢れ出す狂気》
MP:0~400 CT:0秒
効果: 自身の周囲にいる全ての生物に状態異常【狂気】を与える。MP消費に応じて対象範囲を拡大。
《次元掌握》
MP:50 CT:0秒
効果:120秒間、自身の周囲にいる全ての生物の動きを認知し、理解する。
《深淵の門》
MP:0 CT:0秒
効果:深淵の門を開く権限を持つ。
□□□□□
なるほどね。MPの最大値が大幅に増えたのと一緒に消費MPも増えたからか、かなり強そうに見える。
まず《死神遊戯》は《冥界の掟》が元のスキルだけど、残りHP割合に応じて即死させられる確率が上がるようになってる。場合によってはHPを回復しないのも大事になるのかな。
次、《溢れ出す狂気》はMP消費0でも使えるようになったのね。後は単純強化みたいだ。
《次元掌握》は読んだだけだと分かりにくいけど、元のスキルが《見切り》と《心の目》だから、他人の動きを読めるスキルだと思う。
「それじゃあ《深淵の門》は……」
「何じゃ聞いておらんかったのか」
「トゥレラ様の胸に興味はありませんので。それでこれは深淵と元の世界を行き来するためのものですよね」
「……まあそうじゃな。使えるのは深淵の1番上と現世の地面近くだけじゃがな。じゃが妾が設定を弄ったからここにも繋げられるようにはしておいたぞ」
試しにスキルを使ってみると、目の前に出入口になる闇のスライム、正確には『闇の海』が現れた。
「これは今はいいとして……」
確認していない残りのスキルである《狂華爛漫・月下美人》に目をやる。
……効果を確認する前に、1つ思うことがある。このスキル名、どことなく私の本名の『月華』が含まれてる気がするんだけど。
「色々思うところがあるようじゃが、お主の思考の全てから構成されておるからの。それで大体説明はつくじゃろう」
「それなら納得は出来ますね」
問題はすぐに解決出来たので本題のスキル効果を見る。
□□□□□
《狂華爛漫・月下美人》
MP:残りMP90% CT:64800秒(=18時間)
効果:使用時残りHPが90%減少。18:00~6:00(日の入りから日の出)のみ使用可能。
スキルを使用し、開花してから6:00まで【狂華爛漫】状態に移行。闇で構成された鎌『月下美人』を召喚。
【狂華爛漫】:移動速度増加(極大)、攻撃力増加(極大)、光属性耐性増加(大)、闇属性耐性増加(大)、HP回復力低下(極大)、MP回復力低下(極大)。自身の姿を確認した物に【恐怖・強】【狂気・強】【幻惑】を付与。
□□□□□
「ほぉ……これは中々面白いことになっとるのう」
「使うのが楽しみですね。ハイリスクハイリターンといった所でしょうか」
デメリットはHPとMPが10分の1になった上回復出来なくなる。対してメリットは、戦闘能力と耐性の増加と武器の鎌追加ね。後使えるのは夜限定と。
「そうじゃ、これを使うのはあれの時にしたらどうじゃ」
「あれって何でしょうか?」
「えぇとな……そうじゃ、第2回イベントとかいう奴じゃったな。大量殺戮にもちょうど良かろう」
第2回公式イベント……? そんな情報出てたかな?
「というか当然のようにシステム面に干渉しますね。出てるとしてもまだ予告でしょう」
「とにかく、これには当然出るんじゃろう?」
話を逸らされた感じだったが、これを尋ねるのはもう今更かだと思い、気にせず返事をする。
「はい勿論。情報が出ているというのなら、すぐにでも確認しておいていいかもしれないです」
「そうか。ここでやることは終わったが、今からは何をするつもりじゃ?」
「そうですね……。ここから出て深淵探索を続けてみようかと」
そう答えると、少しの間を挟んだ後悪戯っぽい笑みを浮かべながらトゥレラが口を開く。
『分かった。今後も何をしてくれるか、楽しみにしておるぞ?』
『ええ、是非これからもお楽しみ下さいね?』
狂気の次元から出て再び深淵をあても無く探索することにした。
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