第103話 深淵
「な、何なのこれは……」
突然変貌した立方体の容貌に、私は焦燥…………することは無かった。どちらかというと困惑していた。
というのも、こうなった理由がいまいち分かっていなかった。諸々のことに気が付いたことが理由なのは分かっているので、正確には「どうしてあれで……」ということだが。
とりあえず、あのスキルだけ確認しておこうか。
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スキル《禁忌-遖√§繧峨l縺滄伜沺縺ォ隗ヲ繧後◆閠》
MP:0 CT:0秒
効果:自身に状態異常【寄生】、【出血】、【侵食】、【腐蝕】、【狂気】、【幻惑】、【恐怖】、【崩壊】を付与。
※特定の領域にいる場合のみ発動。
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思わず理不尽だと口にしてしまいそうな効果に目を通したその瞬間、一言では形容し難い感覚に包まれる。
頭の中が沸騰しているかのように熱くなり、脳が自分の意識の外へと落ちて行く。
視界は歪み、外側から虹色の光が滲み出る。
身体からはあちこちから血液が流れ出し、風穴が空いているような感覚を覚える。
更に、四肢は黒く染まり先の方は形が無くなっていた。
傍から聞いていると地獄か何かとしか思えないそんな状況で、悲鳴や呻き声を上げること無く、私はただ一言発した。
「……
自分の知る限り全ての状態異常を身に受ける。それも今までの比にならないレベルのものを。
それにより、闇魔法、深淵、状態異常、の何たるかを感覚的に理解する。
そして、消えかかった意識の中
虹色の瞳をした眼球に変化した六天の、真っ黒な瞳孔の中へ――
目を覚ますとどこかのビルの一室にいるようだった。
「はぁ、はぁっ…………」
かけられていた状態異常は無くなっており、全ての痛みから解放されていた。そのお陰で全身がクールダウンし、言葉に表せない快感が全身を駆け回っている。
「と言っても手足無いけどね」
【崩壊】と【腐蝕】の影響か、肘と膝の辺りから先が無くなっており切れ目も真っ黒になっている。
鼓膜が無いのはまだしも手足が無いのはまずいと思い、再生薬を《インベントリ》から出す。手は使えないので口と残りの腕を上手く使って飲む。
「ふぅ……」
これでよし。手足も戻って鼓膜も治ってる。
ここがどこかも気になるけど、その前に自分の確認からしておこう。
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ライブラ Lv.27
HP:71/1260 MP:352/352(無限回復中)
深淵共鳴度:▉▉
耐性
火:0 水:0 氷:0 雷:0 風:0 地:0 光:70 闇:50 物理:0
スキル
《鑑定》《インベントリ》
《狂風》《自由飛翔》《見切り》《狂化》《恐怖の瞳》《二刀流》《心の目》《冥界の掟》《無形の瘴霧》《死の波紋》《沸騰する狂気》《深淵-領域拡張》《闇の処女》《深淵-系統操作》《禍雨》
《禁忌-遖√§繧峨l縺滄伜沺縺ォ隗ヲ繧後◆閠》
《禁忌-豺ア豺オ縺ョ髢?》
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うん、待って、3つほどツッコミ所がある。
まず1つ、MPが全回復してるうえに『無限回復中』? ここ妙に心地いいけど、それと関係でもあるのかな。
2つ目、深淵共鳴度が見えない。これは……どうしようもないか。
3つ目、禁忌の名が付いたスキルがまた増えてる。いつの間に。それで、詳細は……?
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《禁忌-豺ア豺オ縺ョ髢?》
MP:▉ CT:▉秒
効果: 豺ア豺オ縺ョ髢?を▉▉権▉▉▉つ。
※現在使用不可。
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大部分が文字化けと黒塗りで見えないこの結果を見て、気の抜けたような声が出た。
「最近《鑑定》が使い物にならなくなってる気がする……」
というか何も解決していない。考えても答えが出ないものを考えても無意味なのは分かってるし、スルーするに限る。
ステータス画面から目線を外し、すりガラスの窓を開いて外を見る。
「なるほど、ちゃんと来れたってことかな」
そこには常識的に考えるとおかしいが、ある意味予想通りの光景があった。
上には地面があり上下逆さになった普通の街並みが、下には真っ暗な空が一面に広がっている。
「上下逆さの世界ね。空に重力がはたらいてるのは面倒……でもないか」
とりあえず上を地面、下を空って呼んでおこう。
それに、理由は分かんないけどMPが無限に回復するらしいし、無制限に飛べるってことになるんだろうね。
「それなら都合がいいし……行ってみようか。
窓から身を乗り出し、《自由飛翔》で飛び立った。
飛び出して最初は、地面の近くの街の中を探索していた。
「地理的には元と同じみたいかな?」
ここは地図の裏面を下から見た世界なのでは無いか、ということを気付く。
更に探索して、標識などの文字が上下反転しているのを確認した所でその説に確信を持った。
「というか、元の世界の真下にあるんじゃないかな」
確証はないけど、それなら違和感がなさそうかな。
「って、あれは」
下の空の方に、巨大な黒いタコが漂っているのが見えた。
深淵にいる生物の基準を図るためにも《鑑定》を試す。
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悪夢の権化-深水 Lv.70
※詳細鑑定不能※
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これは……手出ししないべきかな。ここで死んだらどうなるか分からないのに無茶するのは得策では無いと思う。
タコに見つからないように注意しながら深淵の探索を続けることにした。
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