第97話 変幻自在、極悪非道

 昨日はあれからスクラさんとしばらく話した後、キリのいい時間だったのでログアウトした。スクラさんとは特に何も無く別れたが、フルクさんの方が別れ際にすごい安心しきった感じの溜め息を吐いていた。

 現時点では特に何かするつもりは無いのだけれど。


 今日はログインしてすぐ、話の最中に出たとある場所に向かっている。

 話の最後で今向かっている所について、少しだけ進展があったということを聞いた。『条件を満たした上、戦闘能力がある人が少なくてかなり大変だ』という。


「さて、着いた」


 博物館の入口前で立ち止まって門を見上げる。

 そう、向かっているという場所はこの博物館の地下。超大型ボス、六天だ。


 あの立方体の空間にベージュ色の球体が浮かんでいる景色を思い浮かべる。


「……うん。何一つろくな事なかった」

 紐無しバンジーして、仮面みたいなやつとか超気持ち悪いやつとかと戦って、頭が破裂して……。相手が相手だろうししょうがないことか。

 さて、地下に向かおうか。


 入口前から再び歩き出してロビーに入る。見回してみるが人の姿は見えない。

 そのまま地下に直行……はせず、近くのベンチに座って送られてきたリンクから掲示板を開く。読み始めるのはレイドボスのスレッドの、六天についてまとめられている部分だ。突貫すると大変になるだろうとは目に見えているので、情報収集を怠らないでおく。


 まずは六天、正式名称『六天-jowjpmbcmf bsfbt wborvjtifs』。今だから読める、これの名前は『六天-不可侵領域の処刑者』だ。まぁそれが分かったところでやることは変わらないか。

 あの球体は攻撃不能なのは間違いないらしい。そして沸騰したタイミングで他の魔物、掲示板では『眷属』と呼ばれているものが出てくる。出てるのはここまでか。


 全部見ると長いし、他のは見た目と弱点だけ見ておこう。

 最初の潰爛-dpmmbqtf……『崩壊』は仮面の見た目で、弱点は刺突。物理だと更に特効がある。

 次、冒涜-nbeoftt。『狂気』の見た目は……思い出したくもない。部位がおかしくなった人型の異形、それ以上は言葉にしないでおこう。弱点は人で言う首、腕、脚の付け根。五箇所切り落とすと無力化出来るらしい。

 分かってる所ではこれ最後だ。『慟哭-ufssps』、すなわち『恐怖』。見た目は、1m大の眼球からテトラポットの様にベージュ色のメガホンが4つ生えているというものらしい。

 弱点については未だに攻撃出来ていないから不明のようだった。攻撃方法はメガホンから霧と叫び声を出すというもので、即死したためどうしようもなかったという。


 ここまでのパターンからして、この後にも状態異常の数だけ眷属も存在するんだろう。


「こんな所かな」

 やっておくべきこと1つ目はこれで良し。後はその都度対処していこう。


 大事そうなのが2つ目、装備強化だ。今まで手に入れたままの装備で戦ってたから、このタイミングで強化しておこう。


 方法は難しくないらしい。第1回イベントで貰った巨大な漏斗型の『魔道具合成機』を使うだけ。

 仕様は既に調べておいた。合成元を小さい方に置いて、大きい方に素材にするものを入れる。そうすると、合成元が確率で変化するという。


 性能が変わる『進化』、Lvが上がる『強化』、何も起きない『失敗』のいずれかになるらしいけど……。素材はLvが低いものより高いもの、ただの道具より魔道具の方が成功確率は高いからそこは考えてやろう。


 一度《インベントリ》で所持品を確かめる。

 使うもの、即ち合成元はドレス、双剣、刀、ローブ。使わないもの、即ち素材は闇属性攻撃を出来る腕輪、第1回イベントで貰った篭手と兜、余ったローブ1つ、魔道具ではないもの諸々。


 恐らく進化をさせるなら素材は魔道具にするべきなはず。何に使うべきはちゃんと考えよう。

 刀は元の性能が分かってないから今は無し。ドレスもここで脱ぐ訳にはいかないから無し。


「となると双剣とローブね……」

 それじゃあ早速試してみよう。まずはローブから……


 ローブを地面に置いて漏斗を近付ける。すると、漏斗が浮いて空中に固定される。どうやらこの状態で上から物を入れればいいようだ。


「これ浮くんだ……」

 そういえば前に使ったときは下にあるのは道具じゃなくて人だったしね。上から入れたのも水だったし。

 ソフィア、今どこで何してるんだろうなぁ……。早くLv20になってくれると色々出来ること増えるんだけど。

 そんなことより、何入れようか。防具な訳だし、鎧武者の篭手と兜とかかな。


 篭手と兜を取り出して漏斗の上に入れる。黒っぽい膜に触れさせると吸い込まれるように消えていった。下の方を見ると、素材の元の色を混ぜたような色をした霧のようなものがローブを包み始めた。


「へぇ、なるほどね。確か前は25だったから……」


 霧が止まったので《鑑定》をするとLvが25から27に上がっていた。どうやら進化はせず強化になったらしい。


 素材の性能が元の方に移りやすいって見たから、耐性増加の性能でも移らないかと思ったけど、1回じゃ無理だったか。

 何か成功率を上げる方法でも無いかな……。



 暫く考えていると1つ疑問に思うことが出来た。


 これ、進化させたくないけど強化はしたい時、どうすれば良いの?

 強化させたいなら不都合な進化のリスクがあってもしょうがない、という仕様では無い気がする。それは願望も含んでるけど。


「念じる、とかあるかな……?」

 常時思考を読んでるゲームなんだからその可能性はある。どんな性能が引き継がれて欲しいか、念じ続けて素材を投入することでそうなる確率が上がるのもおかしくはない。


 双剣に合成する前に一度性能を確認しておく。


□□□□□

無彩の双刃剣 Lv.20

耐久力:2000/2000

白と黒の2本の刀剣。何にも混ざることの無い白黒の刃はあなたの魂に染まることを望んでいる。

□□□□□


 問題無し。今回はちゃんと覚えておこう。


 早速試すために、今度は双剣を両方地面に置く。素材にするのは、闇属性攻撃か出来る腕輪と形が変わるローブ。躊躇しては上手くいかないと思い、勿体ぶらずに残りの魔道具を投入する。それと同時にどうなって欲しいか強く念じる。


 どうか武器の力で闇属性攻撃が出来るように! どうか流れる水のローブの如く、武器の形を変えることが出来るように――


 そうやって繰り返し念じて願っていると、いつの間にか合成が終わっていた。


「今回は、どうだ……?!」


 漏斗の下の双剣に目をやると、前と変わらない見た目の双剣があった。進化はしなかったか、と少し落胆しながら《鑑定》をした。すると……


□□□□□

無彩の片刃-変幻自在 Lv.1

耐久力:1000/1000

白色の短剣。神出鬼没たる悪意は鋭い刃として全てを屠る。意志のまま刃の形を伸ばしたり曲げたりすることが出来る。


無彩の片刃-極悪非道 Lv.1

耐久力:1000/1000

黒色の短剣。無尽蔵な残虐性はその刃を闇に纏い全てを包む。意志のまま刃を闇属性攻撃に変化させることが出来る。


※双剣の耐久力は均衡を保ち、片方の耐久力が減少した場合もう片方の耐久力によって補填する。

□□□□□


 なるほどね。白と黒で性能が分岐したのね。

 それと、耐久力は常に2つが同じようになるってことか。……まるで天秤みたい。


 双剣を両手に構え、試しに形を変えたり闇を纏わせたりする。

 白い方は変形するだけ、黒い方は闇を纏うだけで、それぞれが全く違う性能の様だった。白の方の変形は、体の周りを1周させる分までは伸ばせる。MPとかの代償は無い。


「かなり良いねこれ」


 正直かなり好奇心をかき立てられる性能で、今すぐにでも六天の所に行きたい。


 よし決めた、余った魔道具じゃない方の道具で強化したらすぐに行こう。


 両方のLvを10まで強化した所で残りの素材が無くなったため、足早に博物館のロビーから地下へと向かった。

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