第88話 運営上層部の一幕
とある企業のオフィスの一室にて、男女4人がソファに座って会議をしていた。
「――それで、
「いやぁ、やっぱり面白いね。管理者デバイスで俯瞰視点で見てたけど、あそこまでぶっ壊してくれるとこっちも楽しめるね」
そう言いながら、『overcommon』代表取締役である蕁は愉快そうに笑う。
「笑ってる場合ですか社長。彼女サービス開始から1ヶ月と経たず既に
「1人くらい良いんじゃない? 闇属性の中に他にいる訳では無いでしょ」
「八重沢さん、その考え方がゲームを終わりに導くんです」
「なら
「いる訳無いでしょう、まだ共鳴度1の人すら僅かなんですよ! そもそも、誰がこのタイミングでルートに入るなんて予想出来るんですか……」
バランス調整なども担当する開発部の彼女は、1人が独走している現状に頭を抱えていた。だが、そこに追い討ちをかけるように蕁が話す。
「私はそれなりに予想出来てたけどね」
「はい?」
「彼女のことだから、あの本をあそこで渡せばぶっ飛んだことしてくれると思ってね。しかも今後も続けてくれるらしいし、ちょっかい出した甲斐があったよ」
「…………うちの社長が考えてることが全く分かんない」
「まあ、一般人には狂人達の思考を予想することなんで出来ないということじゃないかな」
この八重沢は『ヤエ』として、ゲーム内でもう一方の狂人とも面識があった。
「社長本人を前にして言うことですか……」
「ははっ、別に構わないさ。うちの会社はそういうものだろう?」
今も会議と称して集まっているが、雰囲気はただの雑談と化している辺り、『overcommon』は相当緩い会社なのは間違いないだろう。
「ところで乾君、次のイベントの企画もう出来たんだって?」
「はい社長。次のイベントはビル群での攻城戦を予定しております」
「ほう、待ちに待ったPvPイベントか」
「社長の待ちに待ったPvPイベントです」
2人が顔を見合わせて不気味に笑うところに、バランス調整に苦悶していた開発部の彼女が口を挟む。
「乾、それゲームバランスは大丈夫よね。前回みたいにエリア丸ごとぶっ壊すみたいなこと起きないわよね?」
暗に、第1回イベントで1人のプレイヤーが鬼そっちのけで他のプレイヤーを倒したという、ゲームの流れをガン無視したプレイングのことを話している。
「まあまあ、今から話しますから。まずこのイベントはゲーム内時間で準備に30日、本番に7日かかる長丁場のイベントです。ランダムにプレイヤーを数百、数千人のグループに分けて、30日でビルの防衛設備と攻撃形態を準備してもらおうという訳です」
「7日って現実世界で1日以上よね。ログイン制限とかもあるわよ?」
「そこも作戦ですよ。ガチの戦争を体感して貰いたいですからね。さっき話した例の彼女も、そのプレイスタイルは正攻法の1つですから何も問題ないですよ」
「そうね、それなら安心ね。これならイベントをぶっ壊される心配も……」
そこに再び追い討ちをかけるように蕁が口を挟む。
「さっき見てた時、彼女地面とか電柱とか破壊してから今度は物理的にビルとかぶっ壊してくるんじゃないかな?」
その一言で2人の表情は、企画部の乾が明るく、開発部の彼女は暗く変化する。
「なるほど、それはまた面白くなりそうですね」
「あああぁもう、1人でどこまでインフレ進める気なのよ……」
また頭を抱えていた所に、八重沢が肩に手を置いて話しかける。
「まあ、バランス調整頑張って」
「あなた広報部だからってそんな呑気な……。バランス調整失敗したらプレイヤー達のヘイトはどこに集まると思う?」
「ゲームをぶっ壊していくのを許容して気にしなければ良いんじゃないかな?」
「それが出来るのはあなたみたいな変人か社長みたいな狂……社長だけなのよ」
一瞬狂人と口に出しそうになったがすんでのところで止まった。
「でもあなたもそこまで下方修正してませんよね? スキル1つの弱体化に留めて1つは強化してましたし」
「別にスキルの強弱はさしたる問題じゃないのよ、正当な方法で取ったんだから。問題はスピードなの、このままじゃ1年と経たずサービス終了するわよ」
「それも社長を前にして言うことでは無いと思うけどね」
「はっ!? すみません社長!」
「構わないよ。それより、今共鳴度が1番高いプレイヤーは2で合ってるかな?」
「は、はい。そうですね」
乾が手元のタブレットで情報を確認して答える。
それを聞いた蕁は神妙な面持ちで話し出す。
「10に辿り着いた時のイベントも今のうちに始めておいてくれるかな」
「もうですか……少し早いのでは?」
「このシステムに気付いていない人も多いけど、気付いてからはすぐになるんじゃない?」
「八重沢君の言う通りだろうね。各属性の
「そうですか、あれらの強さの調整は行いますか?」
「そこは君に任せるよ。プレイヤー達の後手に回ることにはならないよう頼むね」
それから暫くは真面目な会議が続き、蕁1人が部屋に残る。ソファに腰掛けてタブレットでプレイヤー達の情報を閲覧しながら、一言呟いた――
「私を楽しませてくれることを期待しているよ、プレイヤー諸君?」
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