第86話 ゴミ処理

 眩しさで目を閉じてすぐ、全身に熱湯をかけられたような熱と痛みが走る。

 光線は約10秒間降り注ぎ、やがて光の檻と共に光は消え去った。


「はぁっ……。これで巨悪は去っ……なっ!?」


 鎧騎士の男は息切れしながらもほくそ笑んでいたが、光の中から現れた姿を見て声を荒らげた。


「なるほど、441。大して減ってないね」


 死ぬどころか大した外傷も無く、光の檻があった場所に悠然と立っていたのだから。


「なんで攻撃通ってないんだ! おかしいだろ?!」

「はぁ……うるさいったらありゃしない。今度こそ死んでもらうから」


 再び刀を構えて鎧騎士の方に歩き出す。先程の攻撃でMPが尽きたのか剣を構えた。


「言っておくけど、幾ら阻もうと何を言われようとこれを止めるつもりは無いから。もし止めようとするなら、私はその都度全力で殺しにかかる。だから……」


 鎧騎士は剣を防御のために構えようとするが、それを気にすること無く刀を真横に振り……


「邪魔なゴミは一度ここで死ね」


 鎧ごと胴体を2つに切り裂く。

 鎧騎士は体の中身を飛び散らせながら崩れ落ち、そのまま消失した。


「さて、残りのゴミ処理と行こうか」


 周りを見回すと男女半々の20人程が残っていて、全員が段々とにじり寄って来ていたが、攻めてくる様子は無い。


「ほらどうしたの、来ないの? もしかしてこれが怖い? なら……ふふっ、これでどう?」


 刀を《インベントリ》に仕舞い、素手の状態で微笑みかけて挑発する。

 すると、1人の男がこちらに走って突っ込んでくる。


 さてどう来るのかな、走って来て……走って…………え?


 何をするでもなく接近してきたので、腕を取った後横腹で顔を挟む。そして、そのまま【狂化・壊】の『破壊効果付与』を使って顔を押し潰す。


「ぐへぇぁっ!」


 何だったんだ。それじゃあ次は?


 この男を皮切りに一気に複数人が接近してくるようになる。……素手で攻撃をしないまま。


 この集団の意図が分からないまま一人一人順に殺し尽くす。


 正面から来た男はそのまま首を掴んで握り潰す。後ろから、それも姿勢を低くして来た女は脚を使って顔を挟み、押し潰す。正面に突っ込んで来て飛び込んで来た女は、首に腕をかけた後、自分の身体と腕で挟んで絞め殺す。走って来ておいてすぐ近くになるとうつ伏せになって止まった男は、本当に何がしたいのかよく分からなかったが、頭を足で踏み潰しておく。


 何とも不可解な集団は結局何かをしてくる訳でもなく、最後の1人の大の字に寝転がった男の局部を踏み潰し、アスファルトに蜘蛛の巣状のヒビを入れた所で終わった。


「正にゴミ処理ね」


 そう呟いた後、辺りに誰も居なくなったのを確認して《狂化》を解除する。


「ふぅぅっ……」


 感覚が普段通りに戻ったところで、今までのことを振り返る。


 楽しかった、確かに楽しかったけど、色々思う所があるというか言いたいことがある。


 口調どうしてああなったの……。今までの《狂化》ってあんな感じじゃなかったでしょう。確かに理性が無くなるという点で考えれば変わってないでしょうけど。

 というか、明らかに5分どころでは無かったと思うんだけど。《深淵-領域拡張》のお陰で制限時間が伸びたとか? そんなことなら時間確認しておけばよかったかも。


 ここで一度自分の身体を見回した後、周辺の景色も見回す。


「それにしても酷い」


 身体には見える範囲だけでもかなりの場所に返り血が付着している。臓物などは付着していないようでそこは安心した。


 周りの景観に関しては一言で言うと、著しく破壊されていた。アスファルトにはあちこちに亀裂が入り、その下の砂のような層が剥き出しになっている部分もある。街灯や街路樹は数本が折れて倒れており、信号機も柱に人を打ち付けた影響で傾いていた。


 なんと言うか……災害でも起きた後みたいだ。直るかどうかは知らないけど、まぁいいでしょ。


 さて、そろそろ行こうかな。眼帯も付けて、と。近くに人は…………って、あ。


 念の為心の目を使って周囲を確認すると、背後の150m程離れた所に1人の姿が見えた。敵である可能性を考慮し、《無形の瘴霧》を使用して近付く。



 少し離れた後方から接近してみると、そこには双眼鏡で例の交差点を観察する人の姿があった。

 容姿は身長が低めで短い茶髪と、見える所の顔つきも相まって何とも中性的な見た目で性別の区別が付かない。


 玩具としての見た目は悪くないけどLvは…………って8か、じゃあ駄目かぁ。


 Lv20以下への拷問、もといお遊びはNGを受けたので流石に控える。だが、何もしないというのもつまらないので少しだけ遊ぶことにする。


 向こうは気付いてないし丁度いいか。


 眼帯を外した後、もう一度《無形の瘴霧》で霧化して正面に位置取る。そして、双眼鏡のレンズに目を合わせて出現する。


「え? …………っぴぁあああっ!?」


 一瞬の沈黙の後、腰が抜けたのか膝から崩れ落ちてすぐに消滅した。


 あー面白い! 結局性別どっちか分からなかったけど、楽しかったしいいか。


 そういえば、私公園の鯉竜を倒す為に外出たんだよね。寄り道し過ぎた。

 流石にそろそろ行こう。この返り血とか靴のトリモチとか洗い流すのにもちょうどいいし。


 三度目の正直ということで、今度こそ公園に向かうことにした。

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