第76話 一時の凪

「うぶっ……おぼ゙っ、お゙ぇぇっ!」


「ふふっ、まだ出せますよね?」


「ごほっ! かはっ……はっ、はひゅっ……」


 この紫髪の少女、ソフィアは玩具として凄い良い見た目なんだけど、駄目になるのが早いなぁ。


 水を限界まで飲ませた後、空になるまで吐かせるのを2回繰り返した。その結果、目は完全に焦点が定まっておらず、肌の色は赤を通り越して紫に、口から出る水には血が混じっていた。

 声は出ているので気を失ってはいないらしいが、意味のある言葉は全く出ないので思考は止まっているようだった。


「さて、3回目と行きましょうか。と言っても聞こえていな……、あっ」


 話している間に消失してしまった。どうやら強制ログアウトが実行されたらしい。


 もう駄目かぁ。まぁ反応無いのもつまらないから潮時だったのかもね。


「今度はもっと遊びましょうか、ソフィア?」


 聞けるはずもないがそう呟いた。彼女はミコと並ぶ程好みの見た目だったので、また会えることを願って。


 道草はここまでにして……と、その前に覗き見してるそこの男だけ殺しておきましょうか。


 壁の陰から顔を出している男に向かって、《狂風》で接近して、剣で首を切り裂く。


「あ待っ……ぐぁっ!」


 なるほど、《狂風》には変化無しね。それじゃあ、今度こそ公園に向かおうか――



 再び公園に向けて歩きだしたが、人の姿が全く見えない。《心の目》を使っても反応が無かった。


 範囲は変わってなさそうだから、《深淵-領域拡張》で強化されるのは状態異常関係のみで間違いないか。

 それより、さっきまではチラホラ人の姿はあったのに一体何が…………まあいいか、別に全員殺したい訳でもないし。


――特殊エリアに転移します――


「えっ」



 突然アナウンスが流れて転移が始まり、気が付くと緑のオーロラの浮かぶ黒い空間に出ていた。


「……ライブラ、あなたは一体何をしているんです」


「《チュートリアル》さんですか、お久しぶりです。此度はどういったご用件でしょうか」


 ここに来るのは3回目だけど、何も無いタイミングなのに呼ばれる理由って……


「分かりませんか、あれはやり過ぎです。というかあなたの頭どうなってるんですか」


「どう……とは?」


「《チュートリアル》で守られてる相手に何を考えればあそこまで思いつくんです。そもそもLv20以下と分かれば引くことを考えて…………は貰えないようですね」


「ええ、優先するのは常識より殺人欲求ですから」


「はぁ……。ライブラ、あなたには現実時間で3日間のログイン停止が求められています」


 …………は? 3日間も楽しみを止めろと?


 非常に困る言葉に苛立ちを隠せなくなる。


「処罰の意味では無いらしいですね、こちらは運営からです。Lv20以下のプレイヤーも惨殺されるとなるとゲーム人口の流出増加、流入低下が見込まれる。その対応のシステム変更を行うため、申し訳ないですが時間を頂きたい。とのことです」


「何故初めからしないんです、それに時間かかりすぎでは?」


「運営には奇人や変人はいても、あなたのような殺人に長けた狂人はいないのです。あなたの被通報数が全プレイヤー中圧倒的最多とはいえ、止める意思も理由もありませんのでご安心下さい。ともありますね」


 はぁ…………殺す相手がいなくなるのは私も困るから、しょうがないか。


「分かりました、待ちましょう。ですが、3日後からは殺戮に一切の遠慮なく行きますので」


「ええ、助かりました。運営の不手際でログインを停止するということで、補填は行われますのでこちらもご安心を。ここの空間までは入ることが出来て、掲示板にはアクセス出来ます。それでは3日後にまた……」


 その言葉と同時に、各種UIの画面と『ログイン制限 残り2日23時間59分59秒』と書かれたウィンドウが表示される。


 承諾したとはいえ、中々苛立たしいものがあったが、実際問題拒否権など無いので渋々納得する。


「ログアウトするか……」




 自室のベッドの上で目を覚ます。


「はぁ……次は3日後かぁ」


 次殺人を出来るまで3日間悶々と過ごさないといけないのか。これは中々辛いかも。何しようか……


 ――ピコン! ピコン!


 通話の着信音が鳴り出した。発信者を見ると『秋川莉桜』、コスモスだった。


「秋川さん、どうしましたか?」


「どうしたもこうしたも無いよ! 突然ライブラの状態がログインでもログアウトでも無く、『ログイン制限中』の表示になったから何かあったのかと思って」


 あの空間に転移して今まで、10分も無い気がするんだけど、何があればそんなに早く……まぁいいか。


「特に問題はありませんよ。3日で終わるものですし、私に咎があった訳でもありませんから」


「そう? なら良かった! 殺人のし過ぎでBANされちゃったのかと」


「大丈夫ですよ。全プレイヤーの中で私が1番被通報数が多かったらしいですが、それは理由にならないそうですから」


「へ、へぇ……それは良かった、のかな? でもシステム的に良いのかな、それ」


「それは私たちの気にすることではないですから、良いのでしょう」


「そっか、そうだね! そうだ、これからは莉桜って呼び捨てで呼んで! 向こうでも呼び捨てなんだから」


「分かりました。これからは莉桜と呼ばせて貰いますね」


「うん、これからもよろしくね月華!」

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