第44話 飛翔訓練

 次の日、ログインした私は……




 ――パァン!!


 ログインと同時に頭が破裂し、すぐさま強制ログアウトされる。


「はぁっ…………はぁっ………何、今の」


 現実世界の方で目が覚めた。息が荒くなっている上、酷い冷や汗をかいている。


 死ぬまでの一瞬、猛烈な不快感と痛みが頭に巡った感覚がある。考えられるのは【侵食】の影響だろうか。

 もう一度ログインし直してみよう。それでもまた起きるようなら今日はやめておこう。





「……大丈夫かな?」

 今度は特に何も起きなかった。ステータスを見ても、さっきの死亡によってHPとMPが半分になった以外は異常は無い。【侵食】も無くなっている。




 しばらく考えた結果、あれは【侵食】によって蓄積される不快感をログアウトしていたために消化出来ず、一気に流れ込んだことによると結論付けた。

 一応この推測も含め、一連の流れを検証班のスクラさんにチャットしておこう。


 さて、周囲を確認してみるが、誰もいない。博物館のセーフティエリアのまま変わりは無い。


「セーフティエリアでも死ぬのね……」


 魔物にも人にも攻撃されない場所だから死なないと思い込んでいたけれど、自殺やスリップダメージで普通に死ぬことは考えていなかった。


 でも逆に考えると、セーフティエリアにいる人を殺せないことはない、と考えられる。それなら悪いことでは無いか。



 ログインして早々情報が幾つも入ってきた所だけど、私は既にやりたいことがある。

 そう、【自由飛翔】の試運転だ。秋川さんは……ログインしてないのね。


 昨日現実世界の方で秋川さんとチャットしたが、互いにやりたいことが出来たという理由で別行動することは決めてある。


 それにしても、どこで使ってみよう。上手く使えるかどうかはさておき、飛ぶこと自体見られたくない。

 このダンジョン内では高さが足りないし、間違ってもあの立方体の所には行きたくない。


 夜に山の方で使ってみようか。それなら人目に着くことはないだろう。



 私は京都駅に戻った後、電車を乗り継いで山の方に向かった。


 途中で迷いそうになったが、この辺りには何回か来たことがあったお陰で自力でたどり着けた。



 やっぱりこっちの方に来て正解だったね。駅近くだとこの格好もあって凄い見られるし。少し山を登り開けたところに出たら始めよう……




 ――さて、ここら辺でいいね。ステータスからMPも見ながら……《自由飛翔》!



「うわっ……と」


 1m程浮き、その位置のまま浮遊する。


 ちょっと止まるには慣れが必要そうかな?でも凄い、浮いてる。このまま動くとどうなる?



 ゆっくりと移動することは出来た。水中を泳ぐ感覚に似ているが、それよりも抵抗感なく楽に移動出来る。高さの変更も容易に出来ている。


「どれどれ、MPは……」


 飛んだ瞬間に5減った後は、ずっと5秒おきに1ずつ減っているようだった。

 それじゃあ次に加速だ。それっ……


「ちょっ! やばいっ!」


 空を蹴って加速すると予想以上にも時速80kmくらいの速度が出て、周りの木々より遥かに高い所まで飛んだ。


「やばい、楽しい…………」


 現実ではどうやっても不可能な空中飛行を成し遂げた私は、これまでにないくらいテンションが上がっていた。



 それから私はMPがギリギリになるまで飛び続け、MP切れで墜落する前に着地した。


「あー……楽しかった!」


 後半はほとんど遊んでいたが、仕様や使用感は一通り確認出来た。まとめると……


・常時5秒に1MP減る。

・開始と加速時に5MP減る。

・一度加速したら少しずつ減速するけどMPは減らない

・機動力高め、方向転換、飛翔中の戦闘も容易

・常に《自由飛翔》を使っている判定のため、スキルの使用は《二刀流》を使って1つまで


 こんなところかな。まさか今まで使い道の無かった《二刀流》がここで使えるとは思ってもみなかった。


 他にも《密殺術》を使えば姿を消せることや、《狂風》で移動速度を上げられることなどを確認出来た。


「あとは私の技量次第かな」


 戦闘に活用するには中々難しそうだ。移動手段か、回避手段にするくらいなら簡単そうだから、次のイベントにも使えるかもしれない。


 あ、次のイベント、飛んだらどうなるんだろう。まぁ、対空中の攻撃方法も持ってるよね、遠距離攻撃を応用するだけでいいし。


 何だかんだイベントの実施日は明日だ。


 そういえばタブレットから交流マップに行けたよね?今からちょっと行ってみてもいいかもしれない。



 そうして私は山の中から、交流マップに転移した。

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