第11話 3日ぶりの出勤

いつもよりかなり早く目が覚めた。




久しぶりにぐっすり寝られたのが嬉しかった。




ベランダに出ると、ひんやりとした空気と町の静けさに少し安心した。




部屋着の上にコートを羽織り、近所を散歩した。




それから、シャワーを浴びて、着替えて、いつもより手の込んだ朝食を食べ、化粧をすませて、髪を結わいて、、、




prrrr....


母からだった。




「もしもし?お母さん?どうしたの?」


「どうしたのじゃないわよ!早く1chつけなさい!」


「え?なんで?」


母はなぜかとても慌てていた。


不思議に思いながらもテレビのチャンネルを変えるー。


あっ。と思ったと同時に母が大きな声で言ってきた。


「お兄ちゃんが出てるのよ!つけたの?」


「うん。」


笑ってしまった。兄が街頭インタビューを受けている映像が流れてた。


それ自体が面白いのではなく、それくらいのことで、急いで電話してくる母が微笑ましかった。


「お兄ちゃんたら、出るなら言ってくれればよかったのにねぇ。」


「ふふっ。お母さん電話してくれてありがとう。」


なんか元気出た。


「今日も会社でしょ?気をつけて行ってらっしゃいね。」


「うん。行ってきます。」




昨日とは打って変わって、身体が軽かった。


会社へ向かう足取りも軽かった。




ただ久しぶりに行くからか、少し緊張していた。


同僚からどういうふうに見られるかとか、考えれば、不安は尽きないくらいあった。


でも、今日はなんだかいけそうな気持ちだった。








「おはようございます!」


みんなが振り返って私のことをギョッと見てくる瞬間。


ドキッとしながらも笑顔をつくる。




だが、周りの反応は、何にも見えていないかのような反応だった。




やっぱり何にも変わらないや。一瞬落ち込んでいると、一人だけ私に駆け寄ってきた人がいた。


「お久しぶりです!花宮先輩!心配してましたよ。元気そうで良かったです。」




柴田翔だった。忘れていた。


はぁ。とため息をつきそうな私と、この人は他の人とは違って、いつも私の存在を見てくれていたんだ、と少し感謝する気持ちになった。




「ありがとう。」






こんな気持ちはすぐに消えることとなった。




「花宮くん、ちょっといいかな?」


課長からの呼び出しだった。

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