校庭の端っこにて
ある日の放課後。校庭の端っこ。白いローファーで地面をほじっている少女の後ろ姿を、委員会の活動を終えたばかりの穏はぼんやりと眺めていた。程なくして、ゆったりと振り向いた彼女は、数度瞬きしてから、
「どうかしたの、時雨さん」
「いや、それはこっちの台詞なんだけど、嵐さん」
穏の突っこみに、嵐は不思議そうな様子で、なにが? と聞き返してくる。穏がすかさず、掘られたばかりとおぼしき浅い穴を指差すと、少女は、
「穴だよ」
と応じる。
「いや、なんで掘ってるのかって聞いてるんだけど……」
「理由とかいる?」
真顔で聞き返してくる嵐の目には後ろめたさの欠片もない。穏も思わず、そっかぁ、と流してしまいそうになったが、いやいやいや、と首をぶんぶん横に振る。
「普通はしないって」
「そうかな?」
「そうだよ」
「ふぅん」
そうなんだ、と応じる嵐の顔は納得したようにもそうでないようにも見受けられる。頭が痛くなりそうになりながらも、穏は、まあいいけどさぁ、と雑に口にしてから、
「他の人に見られたら変に思われるから気を付けた方がいいよ」
自身が持ち合わせる常識の範囲内で助言を送った。普段のかかわりはほとんどないものの、クラスメートが心無い人におかしいと思われるのはどこか忍びなかった。
「変に思われて、なにか悪いことがあるの?」
だからこそ、嵐の不思議そうな声にびくっとする。
「友だちがひいたりするかもしれないじゃん」
「私がやりたいことでいちいち友だちの顔色とかを窺ったりするの?」
変なのと付け加えた、嵐の声はひどく平坦だった。
もしかして、変なのは私? 穏はそう錯覚しそうになる。
「時雨さんもやってみない? 楽しいよ」
一転して無邪気に提案してくる嵐に、辛うじて首を横に振ることで応える。嵐は夕日で赤く色づいた髪を撫ぜながら、そっか、と残念そうに言って穴掘りを再開した。
帰るタイミングを逸した穏はなんとはなしに学友の横顔を眺めた。その力の抜けたくしゃっとした顔は、心から楽しげで、いつになく子供っぽく思えた。
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