第47話 いつまでも少年の心を持つ回

 子どもたちは見たこともないような、そしてテーブルいっぱいの様々な料理にテンションが天元突破して、興奮するだけした後にスイッチが切れたように寝てしまった。




 ブレイドさんとヒーロさんと共にいた冒険者たちも、何か緊張の糸が途切れたのか、もしくは俺たちに気を使ってくれたのか、子供を連れて寝に行ってしまったので、今、宴のあとの場にいるのは俺たちだけになっていた。




 皆がいるときは全員で会を楽しむためにライオネンもシンサールも控えめに会を楽しんでいた。


 それが、ようやく4人がゆっくりと再会することが出来て、無言ながらも長年の夢を叶えた充実感に満たされたような、そういう空気に包まれていた。




「しかし、相変わらずバカだなお前は」




「ああ、ほんとにバカだ」




「そう、バカなのよこの人」




「おいおい、酷いな皆……」




「いや、酷いのはお前だ。なんで何も言わずに姿を消した」




「そのせいでどれだけの人間が心配したんだと思う」




「そうよ、もっと言ってやって」




「ヒーロまで……確かに悪かったと思ってる。でも自分だってこうなるなんて考えていなかったんだから、事前に知らせるのは無理だよ」




「……知ってるけどな……」




「ほんとにな……知ってるんだよ……」




「痛いほど、なのになぜ私はこの人のこと追っちゃたんだろう……」




「そうだよ、ヒーロもそうだぞ……」




「ブレイドに付き合うと皆、馬鹿になるんだよなぁ……」




「いやいや、酷いぞ皆」




「酷くない……ただなぁ、ぐずっ……生きていたことだげは……、それだげで、許じてやるよ!」




 いつのまにかライオネンの瞳には涙がいっぱいになっていた。


 ライオネンの叫びをきっかけに、全員が肩を寄せ合って大泣きし始めた。


 俺は、少し離れた場所でその姿を見て、号泣していた……




 ひとしきり泣ききった後にポツポツと今までのことをブレイドさんが話してくれた。


 最初は本当に軽くダンジョンを見ておく偵察目的だったこと、途中で出会ったパーティと意気投合して、予定より少し深く潜ることになった。


 幸か不幸か、そのパーティの不安部分をブレイドさんが埋める形となって、トントン拍子で深層へと進むことが出来てしまった。運が良かったのも大きいとブレイドさんは語っていた。




「うまく行き過ぎて、楽観視しすぎた……俺も久々のパーティ活動が楽しくて、ついな……」




「だったら、俺たちを……いや、いい。先を続けてくれ……」




 嫉妬してるライオネンがかわいい。




 第4階層ぐらいから旗色が変わってきてしまった、敵が強く苦戦続きになってしまう。


 流石に引き返すと全一致で決まった時に不幸が訪れた。


 敵のパレードに襲われてしまう、想像以上の数に必死に逃げた結果、運がいいのか悪いのか5階層への階段にたどり着いてしまった。結局避難的なために5階層に降りることになってしまう。


 4階ではとても突破できそうの無い敵が多数うろついており、五階層の外に出てしまったのも攻められない、結果として、全く同じ状況が起きてしまった。


 


「ブレイドの強運、というか悪運に巻き込まれてしまったんだな……」




「ほんとに最高についているのか最高についていないのかわからないから……」




「結局、7階層にたどり着いてしまったんだよ。この階層で安定した食料の確保と、動物たちと仲良くなったり、何度か脱出のための探索を繰り返していく中で遭難していたヒーロと合流したり、まぁ、ダンジョンの変化の秘密を知ったり、諦めてダンジョン内で生活基盤を作ったり、もう村にしちゃえーって感じで……」




「ヒーロも奇跡みたいなことが起きたんだな……」




「ええ、絶対に死んだと思った時にブレイドに助けられたときは……その時ブレイドは腕を失ったの……」




「そしてブレイドに心底惚れたヒーロは猛烈なアタックをしてさすがのブレイドもその気持ちに気がついた、と」




「ちょ! ……あってるけど……あってるけどー!」




「んで、それからは子どもたちと犬たちとこの階層で暮らしているってわけさ」




「相変わらず、なんというか、無茶苦茶だな……」




「変なことを聞くがブレイド、ダンジョンから脱出するってことでいいんだよな?」




 シンサールの問に、ブレイドさんは即答しなかった……




「……ああ、皆は返してやりたいし、子どもたちに外も見せてやりたい」




「でも、俺は最深部まで行きたい」




 ブレイドさんはライオネンの問に答えなかった。




「皆でチャレンジしましょうよ」




 その空気を俺が壊す。




「はい? ツユマル、お前何言ってるんだ?」




「他の冒険者の人達と子どもたちを外に送ったら、準備してダンジョン制覇しましょうよ、俺達で」




 ライオネン、シンサール、そしてブレイドはそれぞれ目を合わせ、ブルリと体を震わせる。




「ツユマルさんはいいのかい?」




「ツユマルでいいよ、俺もブレイドって呼ぶから。


 だって、行きたいんでしょ? それに、ライオネンもシンサールも一緒に冒険したいんでしょ?


 もう、顔見ればわかるよ。俺も、皆の手伝いしたい、そして冒険したいって思っちゃってるから」




「……はぁー……男って……ブレイド、腕も、足も治って、やりたいことやって帰ってきてよ。


 子どもたちは任せて! 待ってるからね」




「ヒーロ……ライオネン、シンサール……また、迷惑をかけることになるぞ?」




「そこはブレイド、一緒に行こう! でいいんだぜ」




「ツユマル、ありがとう。ライオネンもブレイドもアホだからな、俺とツユマルでちゃんと手綱をひかないとな」




「お前も変わらねーだろ、ありがとうツユマル……君と出会えてよかった」




 ブレイドの分厚い手に自然と皆が手を乗せてくる。


 いい年したおっさんたちの冒険は、まだ、終わりそうにない。 

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