第34話 王との面会と能力が明かされる回

 ようやく呼ばれたのは、30分ほど経ってからだった。


 なんというか、日本でもお役所仕事は待たされるけど、混雑していたから我慢したけど、明らかに権威的な物を示すためにこういう行動を取られるのは好きなやり方じゃないよなぁ……


 まぁ俺は王政の国の出身ではないので、受け入れるしかないんだろう。


 郷に入っては郷に従えってやつだ。


 自分の主張を声高に叫ぶのなんて疲れるだけ、それなりに妥協して、それなりに受け入れて、それなりに避けていく生き方がいつの間にか身についている物なんだよおっさんは……




「何ぶつくさ言ってるんだ、行くぞ」




「あれ、声出ていた?」




 過去の灰色の記憶が噴き出して変なスイッチが入っていたみたいだ。


 国の役所、県の役所、市の役所、保健所、衛生所、うっ頭が……




「リースタニア家当主サーナ、王の御前に」




 王座の間を守る兵士が、言葉を告げて扉を開く。


 体育館ぐらいはあるであろう王座の間、左右には近衛兵が並んでいる。


 王座の近くにはたぶん文官であろう人たちが並んでいる。




「サーナ・リースタニア。参りました」




 俺はサーナ様の斜め後ろで教えられた通り膝をついてうつむく。


 ライオネンも同様の仕草を取る。




「うむ」




 王様の声かな、思ったより若い気がする。




「面を上げることを許可する」




 これは別の人間の声だ、こういわれたら顔を上げていいと言われている。


 顔を上げると、こえええ、周りの皆がこっちを見ているような気がする。睨んでる?


 王様は……なんというか、痩せ細っていて、威厳は……ないかな……


 たぶん、年齢も50くらいなんだろうけど、痩せすぎていておじーちゃんみたいだ……


 シンサールも言っていたが、なんというか、苦労性なんだろうなというのが見て取れる。




「迷い人を保護し、その力が国のためになるということで、直接の謁見まで求めたそうだな」




「はい。こちらのツユマル デガラシはこの国の危機を救い、大いなる益をもたらす者に間違いないと考えまして、王の保護を求めるべくやって参りました」




「報告には先ほど目を通したが、正直信じられん。


 今までの迷い人の能力から逸脱しすぎている。よって、儂の目で見て真偽を見定め、今後を決めることとする」




 王様が横にいる大臣的な人にうなづくと、自分たちの右手側の人だまりがスーッと下がって空間が出来る。そこに、見知ったギルドの職員が準備を始めている。


 テーブルに置かれたコンロに鍋、打ち合わせ通りこの場で神薬ネクタルを作るみたいだ。


 王城付きの鑑定士が3名、ギルドから2名、計5名の鑑定士が控えている。




 打ち合わせ通りに多くの臣下の前で一つ一つ能力を説明していく。


 鰹節を出して、鑑定、食べて、鑑定、出汁を取って、鑑定、昆布を出して、鑑定、食べて、鑑定、出汁を取って、鑑定、合わせ出汁にして、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定……




「次に効能の実践……冒険者に協力してもらっている」




 腕を失った冒険者や、片目を失った冒険者、足、指、胸に大きな古傷のある冒険者が治験に呼ばれる。


 俺の合わせ出汁を飲むと、キラキラとした不思議パワーが集まって、腕や眼球や足などが再構築された。これには流石に騒ぎが起きた。




「静まれ! まだ検証は続いている!」




 それからは王城の料理人に俺が出した物で出汁を作ってもらって、鑑定と実践。


 以前行った実験と同等の結果が得られた。




「信じられん……そのカツオブシ、コンブはいくらでも出せるのか?


 しかも、痛まないだけではなく、同じ空間の食物を腐らせにくくすると……」




「流石に実証に時間がかかる物は纏めて資料を提出させていただきます」




「……素晴らしい……これだけでも王国を光が照らす……


 しかし、まだあるのだな?」




「はい、場所を移動させていただきます。港へ向かいましょう」




 次の実験は海の浄化だ。


 はっきりした手ごたえを感じながら、意気揚々と港へ向かう。


 懐かしい匂いが立ち込める濁った海、打ち寄せる波が波止場に当たり泡立っている……


 流石に王都の港は大きいが、何とも悲しい風景になってしまっている。




「それでは、始めますね」




 俺は心の中で、頼んだぞ昆布! と声をかけて能力を使う。


 左手から勢いよく昆布が何本も吐き出されて、港のいたるところに自分を植えていく。


 粘液も大量に噴き出し、みるみる海水の濁りを吸着し浄化する。


 


「……進化してるなぁ……」




 この広大な港の汚れをまた吸い込むのかぁと思っていたが、勝手に浄化までしてくれている。


 これなら回収をしなくても済む。


 悪臭混じる潮風が、気持ちの良い潮風に変るのに長い時間は必要としなかった。




 奇跡とも思える目の前の光景に、兵士たちや大臣たち、そして王は言葉を失っていた。




「これで港の内部は浄化されています。あとは昆布が自分で領土を拡大して浄化範囲を広げていくと思います」




 一通りの浄化を終えて、俺は昆布の射出を止める。


 静まり返った周囲からパチパチとまばらな拍手が聞こえたと思ったら、どわーーーーっと歓声が上がった。




「すまない、もっと早くそなたの声に耳を貸しておれば……愚かな王で済まない……」




 サーナ様が王自らに手を取られ謝罪を受けている。




「救世主だ! 王国を救う救世主が現れたぞ!」




「救世主ツユマルに感謝を!」




「ツーユマル! ツーユマル!」




 目立たず生きるという目標は、この時、完全に消え失せるのであった……

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