第22話自分の心のある感情に気がついちゃう回

「隠し事なく単刀直入に言います。ツユマル様は神薬ネクタルを作ることが出来ます」




「なっ……!?」




「こちらが鑑定士であるケムリ氏の書面です。それに、ここにいるライオネン殿も証人です」




「シンサール、賭けてもいい、本当だ」




「何か特別な、そうだ、特殊なものが必要だとか……」




「キッチンを貸していただければここで作りますよ」




「キッチン!?」




 何を言ってるんだふざけてんのかこいつは? って目で睨まれてしまった。お口にチャックだ。




「そちらの鑑定士の方を読んでいただいて目の前で作っていただいても構いません。


 さらに、ツユマル様が創造魔法で造られる物を利用すれば、誰にでもネクタルが作成可能です」




「……は?」




「もちろんツユマル様自身が作られるネクタルは、もうなんというか、ネクタルの域を超えてくるのですが、死以外の部位欠損を含むすべてを癒す薬としてのネクタルは、誰でも作れます。


 私も作りました」




「もう、何が何だか……」




「信じられないのも無理はない、お前もネクタルで作った料理を食べるといい、旨いぞー」




「ね、ネクタルで作った料理?」




 お口にチャックで静かにしていたが、サーナさんとライオネンさんが目で促してくるのでマジックバッグから煮込み料理を取り出してお皿によそってみる。




「鶏肉と野菜のスープです。煮込むのに出汁、じゃなくてネクタルを使っています」




 部屋にいい匂いが広がる。咳払いでごまかしたけどサーナさんの喉が鳴った。


 ライオネンさんの腹の音がやかましいので二人にもいくつか料理を出してあげた。俺も。




「う、旨い! い、いや……大変美味しい。これは逸品ですな。


 普通の食材を使用しているからよりおいしさがわかる……」




「シンサール、左手の具合はどうだ?」




「うん? 相変らずだ、どうにもこいつは気分屋で……ひねると……びりっと……しない……


 ん? いや、そんなはず……」




 シンサールさんは自分の腕をひねったり伸ばしたり、とんでもないスピードで振ったりいろいろし始めて、いつの間にか立ち上がって夢中で素振りを開始し始めた」




「あいつは昔負った傷のせいで、左手にある程度以上力を込めたりひねると、ビリっと痛みが出るようになっちまったんだよ」




 ライオネンさんが説明してくれた。 




「わずかな痛みだが、繰り返すと辛いもんでな。あいつがまだ実力があるうちに引退になった一つの要因になったんだ」




「どんなポーションでも治せなかったのに……それではまさか……本当に……」




「万病、どんなものも治すんだよ。さらに、その料理食いながら洞窟でも籠ってみろ。


 今の状態で、現役を軽く飛び越えて強くなれるぜ」




「なん……だと……」




 困惑しながらも、少年のように目を輝かせている。これが冒険者って生き方なのかな?




 それからは、本当にキッチンで出汁を取ったり、俺が出した鰹節と昆布でギルドスタッフが出汁を取ったり、鑑定したり、薄造りの鰹節を食べたり、生昆布でつまみを作ったり、色々としたが、最大の事件は……




「味噌と、醤油と、酒と味醂だ!!」




 流石王都、東の国の調味料があるというので期待したら、案の定ありました!


 料理の神器! さしすせそ!


 ええ、すぐに大量に買う様におねだりしましたよ。ええ、ええ、なんといってもこの間のダンジョンの報酬で小金持ちなんです僕。ふっふっふ。




「なるほど、異国情緒あふれて非常に美味しいですね」




「故郷の味に近づけたほうが好みに合うかもしれませんね。色々と研究します」




 そうだよね、俺にとってはようやく出会えた故郷の味だけど、ここでは海外料理だ。


 それでも感覚としては悪くない反応だ。


 店を出すときには研究しよう。


 やっぱり料理を作って喜んでもらえると、俺は嬉しい。


 冒険者がやるお店なんてのも珍しくないらしいし、俺の生きる道の選択肢の一つだ。




「……とんでもない迷い人ではないですか……」




「そうなんです、国家にとっても非常に重大だと再三、国には言っているのですが、ようやく、ようやく謁見を許可されて、しかも、こんな扱いではツユマル様の将来が不安で……」




「お恥ずかしながら、今、国の中枢は疲弊していますから……」




「その問題もツユマル様が解決できるのかもしれないのです。何より、わが町では海産物の漁が復活しました! 農作物の収穫量も4倍になりました。それもこれも全てツユマル様のお力なのです!」




 いや、俺の力じゃなくて、俺の持ってる能力の力だから、俺は鰹節の粉とか粘液で土壌改良が出来るんじゃないかなー、肥料になるんじゃないかなーって思っただけだから……


 余計なことを言うとサーナさんが泣きながら俺のことを褒めてくるからお口にチャックだ。




「そんなとんでもない物を、確かに逆に凄すぎて詐欺とかを疑われているのかもしれませんね。


 それと、実際にその能力が明らかになって、今の王国が暴走するのが怖い……


 なるほど、サーナ殿の慧眼は恐れ入ります。では、私としてのお力添えも理解しました。


 ツユマル様のお力は、ギルドとしても喉から手が出るほどの物です。


 ツユマル様個人の自由が最大限尊重されつつ、そのお力が最大限で活かせるように、粉骨砕身頑張らせていただきます」




「相変わらず真面目だなーシンサールは! しかし、ツユマル。こいつは約束は破らん。


 困った時、俺やサーナ殿が近くにいなければギルドをたどってシンサールの名を出せば基本的に平気だ」




「そうですね。とりあえず、こちらの書面をお渡しします。


 ツユマル様の行動のすべてをギルドマスターが保証するという内容になっております」




「な、なんだかすみません……」




「いえ、ツユマル様はこの国の人々の希望です!」




「そうですよ、いつも言ってるじゃないですか。もうちょっとだけ自信を持ってくださいって。


 あんまり自信過剰で欲深くなられるのは困りますけど」




 そう笑ったサーナさんは最高にかわいかった。ああ、好きだ。
























 ん???

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