第21話新たな決意を胸に抱く回

 馬車が大通りをかなり進んで人通りが落ち着いたあたりで停車する。




「まずはギルドで手続きをします。ライオネンさん、お願いします」




「おう、ツユマルも頼むぞ、ソードもな」




「わかりました」




「お供します」




 周囲の建物よりも一回り大きく、なんというか歴史を感じる立派な建物が王都のギルド本部、この王国のギルド施設のトップということになる。


 なんとなく周りを歩いている人たちもやり手の冒険者のような気がする。


 そして、ギルドの厚い扉を開けると、ライオネンさんの偉大さを理解させられた。




「お、おい! あれ、刃風のライオネンだぞ!」




「す、すげー! 引退したって聞いたけど……」




「あ、握手してもらってもいいですか?」




「おうおう、構わんぞ、それにそこの君、俺は現役に復帰するぞ!」




「ま、まじっすか!! 応援してます!」




 完全に有名人というかアイドル。羨ましくなんてないんだから……






「ライオネンさん、冒険者に戻るんですか? マスターの仕事はどうするんですか?」






「副ギルド長が十分に引き継げるさ、俺はもうツユマルとの冒険に心を奪われてしまったからな」




「俺とですか? いや、もうそういう危険なことは……」




「そうですよ……」


 


「ひっ……」




「いや、サーナ殿あえて言わせていただくが、ツユマル自身が冒険を求めたら止められんよ、その時に俺が側にいたほうが安心できるだろ?」




「……はぁ……その話はとりあえず王都での要件が済んでからにしましょう。


 ツユマル様にもどうせ何も相談していないんでしょうから……」




「たしかにな、よし、ツユマルこの話はまた後でな」




「は、はい……」




 なんとなく生返事をしてしまったが、俺の頭の中ではライオネンと冒険している姿を想像してドキドキしてしまっていた。するいんだよなー、こんな時に急にそんな話を……


 俺のそんな様子を見ていたサーナさんが、少し諦め気味にため息を付いていた。


 ばれたなこりゃ。




「とりあえずツユマル様、今は王国のグランドマスターに事前のお話を済ませることに集中してください。お気持ちは、理解しているつもりなので……」




「はい、わかりました。すみません、いつもいつもサーナさんには気苦労ばかりかけて、申し訳ないです……」




「そんな謝らないでください、私としてはツユマル様のお力をできる限り正当に知ってもらって、そのうえで身の安全と自由を手に入れてもらうために動いています。


 すでに私の領土は何物にも代えられないほどのお力添えをいただきました。


 何よりもツユマル様は私の命の恩人ですから」




「サーナさん……本当に、本当にありがとうございます」




 こんな素敵な女性にそこまで言ってもらえて、思わず目頭が熱くなる。




「もう、ツユマル様腫れた目では格好がつきませんよ?」




「はい、俺もそのお気持ちに答えられるように頑張ります!」




 もう一つこの世界で頑張りたい理由が出来た。ここまでしてもらってこの世界を好きになれたのはサーナさんのおかげだ。この方の迷惑にならないように、俺は頑張らないと!


 漠然とした気持ちに一本筋が通った様な、そんな熱が俺の中に生まれてくれた。




「こちらでお待ちください」




 ギルド本部の奥、立派な応接室に通され、ゴージャスなソファーでかけて待つように言われる。




「相変わらず、金持ってんなぁ本部は……」




「ここは城からの偉い人も通すからしかたないんですよきっと」




「それにしたってもう少し地方の人員の待遇を上げてくれたっていいと思うんだが……」




「すまなかったな。これでも中央は地方への不満を抑える壁になってるつもりなんだがな」




「……相変わらずだなシンサール。気配を消して部屋に入ってくるのはやめろ趣味が悪い」




 確かに、急に部屋の中に男の人が現れたのかと思った。




「お前はすぐ気がついたじゃないか、それなのにしっかり最後まで嫌味を言いきりおって」




 ライオネンさんと同い年ぐらい、体つきは細いが、なんというか隙が無い。


 鍛えぬいて絞りぬいた肉体という印象を受ける。


 細目だが周囲の状況を常に把握して一切の隙が無い。


 ライオネンさんとの話し方からして、きっと凄腕の冒険者だったんだろう、なんといっても隙が無い。


 中年の渋さとクールさが相まってこりゃ若い女の子ならいちころですよ旦那! って感じだ。




「初めましてシンサール様。私はサーナ、しがない地方都市の領主をさせていただいております」




「俺の紹介はいらないな、今日の主役はこちらのツユマルだ」




 隙のないシンサールさんがこちらに向き直り、すっと全身を一瞥された。


 なんとなくそれだけで全てを見透かされたような気分になる。




「は、初めまして。迷い人の露丸 出涸と申します」




「王都ギルドでマスターをさせてもらっているシンサールです。


 初対面ではありますが、一つだけ助言を、あの筋肉と一緒にいると毒されますよ」




「ふはは、いやいやライオネンさんには大変お世話になっております」




「そうだぞシンサール、それにツユマルは俺より圧倒的に強いぞ」




「なっ!?」




「自分の力じゃなくてもらったものですから……」




「信じられん、全盛期の俺でも5回に一度くらいしか勝てなかったんだが……」




「ついでにいえば、俺は今の方があの頃より強くなったぞ。


 それもツユマルのおかげだ」




「……今日の面会をライオネンの名前を使わずにサーナ殿からの正式な形式にしたのはそれが理由というわけですねサーナ殿」




「はい、名高いシンサール様のお名前をお借りしたく参りました」




 なにやら、難しい話になってきて、着いていけるか心配になってきたぞ……


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