第2話爆誕、鰹節剣
「ゴブッ!? ゴ、ゴブブ!!」
ゴブリン(仮名)達は一生懸命昆布を体から剥がそうとするが、そのヌメヌメとした昆布の体液エキスによってうまく行かず、むしろどんどんこんがらがっていく。
「お前守ってくれるのか……」
左手から伸びた昆布に話しかけるおっさんの図の完成である。
イライラしているゴブリンはさらにずるずると昆布を引き出していく。
「俺の手からはどれだけ昆布が出るんだ……」
ゴブリン三匹はヌメヌメの昆布にどんどんからめとられていく。
「よ、よしこのまま……」
「ゴ、ゴブ!! ゴブゴブゴブ!」
その時、一匹のゴブリンが気がついてしまった……昆布は食べると美味しいことに……
突然昆布にかじりついてムシャムシャと食べて切断して抜け出すというテクニックを手に入れてしまった……
気がつかれてしまえばそれまで、今までコントのように昆布にからめとられていたゴブリンの体からあっさりと昆布が剥がされてしまう。
「ゴッゴッゴ……ゴブゴブー!!」
再び3匹のゴブリンが俺に襲い掛かろうとする。
「ゴ、ゴブー??」
しかし、こん棒がつかめずに四苦八苦している。
ほかのゴブリンも派手に地面に撒き散らかされた昆布と粘液に足を取られて転倒している。
ああ、こういうのバラエティ番組で見たことある。
すっころんでは立ち上がろうとしてまたすっ転んで、こん棒を持とうとして滑って落として足に直撃して悶絶したり。
「ぷ……ぷぷ……」(笑っちゃいけない笑ってはいけない)
笑いというものは我慢すればするほど堪えられなくなる。
絡み合う3匹のゴブリン、再び昆布がまとわりつき始めてはかじりついて、繰り返しているうちに少し気持ち悪くなってきたみたいで動きが鈍くなる。
「この隙に……逃げられるよな……でも……」
追いつかれたら……襲われる……何とかしないと……
「でも、近づけないし……」
その時、まるで俺を使えよ。とでも言ったかのように右手に鰹節が握られている。
「これで殴るとか? 鰹節ソード! とか言っちゃったり『ズン』なんかしちゃって」
ズン?
妙な手ごたえを覚え、右手を見れば、握った鰹節が細く変化してゴブリンを貫いていた。
「ゴ、ゴボゥヒュゥ……ゲボォ……」
「うっわ……えぐっ……」
胸の真ん中を鰹節で貫かれたゴブリンは言葉にならない声を上げて大量の吐血をして力尽きた。
刺さった鰹節にゴブリンの体重を一瞬感じるが、まるで蕎麦を切るかのようにス―――っとゴブリンを斬りながら何事も無かったようにその位置に固定されている。
「斬れ味がエグイ!」
自分の持つ鰹節が恐ろしい。
切断面から見えるゴブリンの中身が俺の胃を捻じり切る。
こみ上げたものをとりあえず出し切ると、ゴブリン達は狂騒状態で昆布の海から脱出して逃げ出していた。何度も転びながら向かってきた北ではなく東の森の方向へと逃げ帰っていくのだった。
「……これ俺も殺ゴブリン犯になってしまった……」
一面の昆布は左手をかざすと吸い込まれてくれて、そこには大量のゴブリンの血液と、無残な死体が残された……
鰹節剣もしゅるりと手の中に収納されたが、刃についていた血液と脂は吸い込まれる際に手にべったりとこびりついた。次からはきちんと拭いてからしまうことにしよう。
とりあえずそのあたりの葉っぱと昆布の粘液で落としておいた。手がつやつやになった。
「お墓でも……掘ろうかな……」
ゴブリンの死体の前で放心していると、だんだん血液が白く変化して、どんどんゴブリンの死体も真っ白に変化していく。
「おお? なんだこれ」
ゴブリンの体に触れてみるとサラサラサラっと粉になって消えてしまった……
「そ、そういう仕様なのかな?」
その時、突然の突風が吹いてその粉をぶわっと俺の方に舞い上げてくれた。
不幸にも口の中までさっきまで死体だったゴブリンの粉が入り込んでしまった。
「うっわ!! うっわ! ぺっぺっぺ、ってしょっぱ! これ塩かよ!」
口の中に大量の塩をぶっかけられたような味だ。
あまりのしょっぱさに昆布を口に突っ込んだ。
「……うまい」
塩昆布だ。
「ん? なんだこれ」
塩が吹き飛んだ場所に綺麗な宝石が落ちている。
恐る恐る伸ばした棒状の鰹節でつついたが、特に動き出したりはしなさそうなので拾ってみる。
「綺麗だな、敵を倒したドロップかな?」
RPGではお約束だ。ポケットにないないしておくことにする。
「……魔物が出る世界なのか……」
落ち着いたらいやーーーーな事実を突き付けられたことを理解した。
この見たこともない場所、どうやら俺を襲ってくる魔物的な存在がいるらしい……
「昆布と鰹節がなければ死んでいたな」
何も知らない人が聞いたら、俺の脳味噌が死んでいるのではないか? と疑ってしまうようなことをつぶやいてしまった。
「鰹節は、剣だった……」
いよいよヤバくなったなと思われそうなことを言ったが、これは事実だ。
試しにもう一度鰹節剣を作り出してみる。
「形状もいろいろできる。しかも、自分の体の一部みたいに扱える……
これがあれば、戦えそうだ……鰹節剣……ドライフィッシュソード……ふふっ……………………」
ここは……静かだな……
「なんにせよ、注意して進もう……」
いろいろとあったが、俺は戦う力を手に入れた。
再び北を目指して歩き始める。
まるで最初の強制イベントを終えたかのように、しばらく歩くと明らかに刈り取られた道に出ることが出来た。
「おお! これは道だな! 間違いない、なんか轍とか蹄の跡もあるし!
よっしゃ! この道に沿って歩こう!」
どうやらこの世界にも文明というものが存在していそうだ。
魔物がいるという圧倒的不安材料もあったが、文明がありそうという明るい材料も手に入った。
俺は、比較的楽観的な性格をしているので、前者の情報は簡単に塗り替えられるのであった。
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