ふたつの鳥籠

輿水ナシオ

籠の中

 目が覚めて最初に思ったことは身体が窮屈だということ。


 俺は手足を縮めてどこかに横たわっていた。冷たい。コンクリートではない。タイルでもない。もちろん木のぬくもりもない。肌に刺さるように冷たい。鉄。いや、鉄でなく、もう少しやわらかい。金属であることは間違いないが、俺の知っている金属の名前がすぐに出てこない。


 そもそもそんなことはどうだっていい。ここはどこなんだ。狭い空間。腕を伸ばしてみる。よほど固まっていたのか、筋が痛んだ。まっすぐに伸ばそうとして、何かにぶつかる。


 床面と同じ素材。金属。暗闇に慣れてきた目をこらして、じっと見てみる。長い棒が何本も見える。柵。鉄柵のようだ。今度は両腕を伸ばして目の前の二本を掴む。太く、頑丈である。この柵はどこまで続いているのだろう。隣の、そのまた隣の棒を掴んでは離し、掴んでは離し、同じように続けていくと、自分を中心にぐるりと一周回った。俺の周りには何本もの金属の棒でできた柵がある。そのどれもが頑丈で、棒と棒の間は自分の顔すら入らないだろう。


 窮屈だと感じたのはもちろん底面の狭さもあるが、自分を取り囲むこれらの鉄棒たちの圧迫感が大きいのかもしれない。息苦しさから逃れるために、今度は上を見る。暗くてよく見えない。だが、まるで鳥籠のようにドーム状になっていることは、かろうじてわかる。


 鳥籠――そうだ、鳥籠だ。ぴったりと当てはまる言葉があった。俺がいるのは巨大な鳥籠の中。しかも不安定だ。もしかして吊られているのか。試しに片方に重心を傾けると、足元がぐらりと揺れる。間違いない。地面からどれほどの高さかわからないが、俺のいる鳥籠は何かで吊られている。もしもその何かが切れてしまったら。ああ、何も考えたくない。ただでさえ人間である俺が巨大な鳥籠に入れられているという悪夢のような状況だというのに。


 囚われている。考えたくない事実だが、俺はこの巨大な鳥籠に囚われている。誰がこんなことを。いつからだ。どうして俺はこの鳥籠に囚われている。いったい誰が。何のために俺を。


 ああどうしよう。困った。脳が現実を受け入れようとしない。どうすればいいのか。


 決まっている。現状を受け入れていないからだ。そうに決まっている。むやみやたら叫ぶよりも、何とかして状況を知りたい。自分の置かれた状況が非現実的すぎて、理解が追いつかないのだ。まずは知ることが大切だ。改めて俺は目の前の鉄柵を両手で掴み、上下左右に揺らしてみた。当然のことながら、引き抜ける気配すらない。


 それどころか柵を揺らしたせいで鳥籠が大きく揺れ、巨大なブランコに乗っているかのような浮遊感に胃がすくんだ。俺は目をつむり、鳥籠が平常に戻るまで待った。するとどうだろう。さっきまでは聞こえなかった音が聞こえるようになった。金属と金属が擦れ合うような鈍い音。上から聞こえる。この鳥籠を吊っているものだろうか。もしかして鎖だろうか。もしも切れてしまったら――考えてはいけない。この鳥籠がどれほどの高さに吊られているかなんて考えてはいけない。


 鳥籠の外はどうなっているのだろう。相変わらず視界は暗い。この空間には明かりがない。それでも何とか物らしきものとそうでないものは判別できそうだ。俺は狭い鳥籠をぐるりと歩き、自分以外の何かがないか探した。何でもいい。鳥籠の外がどうなっているのか知りたい。


 鼻を使う。臭いをかいでみる。金属の臭いのほかに、かすかに薬品の臭いもする。消毒のような。アルコールのような。だがそれ以外は、やはり何もわからない。


 整理してみよう。俺が囚われているのは巨大な金属製の鳥籠。鳥籠は何かで宙に吊られている。真っ暗だが、目が暗闇に慣れてくると、うっすらと輪郭は見えてきた。が、特に自分以外に何かがあるというわけではなく、この場所にいるのは俺だけのようだ。


 最後の記憶はいつだ。大学、いや高校の大会。インターハイか。試合の後。それとも前。それすら曖昧だ。とにかくハイジャンで飛んだことは覚えている。いや、飛んでない。落ちた。そうだ思い出した。俺は優勝目前の計測で落ちたんだ。いつもならばたやすく飛べるはずの高さだったのに、なぜか身体が重くて、バーを越えきれずにそのまま落ちた。


 それからどうなった。わからない。それが最後の記憶ではないことは確かだ。あれはもう五年近く前の記憶。拉致されたときに頭でも殴られたのか、薬でも投与されたのか。とにかく何らかの作用で、俺の記憶は一部がすり抜けてしまっている。


 苛々する。腹が立ってきた。理不尽な現実に無性に腹が立ってきた。


 俺は鉄柵を殴った。ずううんとした痺れが全身を伝う。鳥籠は音を立てない。俺は気のすむまで殴り続けたが拳がいくほうが早かった。悔しい。ついに俺は叫んだ。叫びながら俺は鉄柵を蹴り、両手でガンガンと揺らし、狭い鳥籠の中で暴れまくった。ぎいい、ぎいいと鳥籠を吊る何かが軋んだが、すぐにまた静寂を取り戻した。


 俺は虚しかった。全力で抵抗しても、鳥籠はびくともしない。この鳥籠から逃げ出すなどという考えは捨てるしかなかった。出られるわけがない。俺はここで死ぬ。運よく助けが来たとしても、そのころには俺は死んでいるだろう。餓死か衰弱死か。両方か。


 鳥籠の中はもちろん、視界に入るところに食料はない。水もない。絶望的だ。一口でもいい。水が飲みたい。水が飲みたい。水が飲みたい。ああ、考えてはだめだ。一度考えてしまったら、どうしても水が飲みたくなってしまう。水が飲みたい。水が飲みたい。


 こうなってしまったら、そうだ寝よう。寝るしかない。今が何時なのかは見当もつかないが、一度ぐっすりと寝て、体力を回復しなければならない。俺は目覚めたときのように手足を縮め、底面に横たわる。


 いったいいつまで鳥籠の中に囚われていなければならないのだろうか。考えるな、考えるな。寝ろ。寝てすべてを忘れてしまえ。次に目が覚めて、それでもまた同じ悪夢の中にいたら――そのときは早く死ぬ方法を考えよう。



     ◇



 死のう。目が覚めても、現実は同じだった。俺は相変わらず狭い鳥籠の中に閉じこめられ、身動きすらままならない。この状況下では死ぬことすら不可能のように思える。


 どうやって自分自身を殺せばいいのか。首を吊る紐はない。胸を指す刃物もない。溺れる水もなければ、焼き尽くす炎もない。ああどうしよう。死ねない。自死するためにはやはり餓死するほかないのか。鳥籠に閉じこめられてからどれだけの時間が経ったのかはわからないが、きっと俺はあと数日、いや二、三日で死ぬ。


 今、俺は何がしたいんだ。考えろ。現実的な考えを持つんだ。今の俺は脱出不可能な巨大な鳥籠に閉じこめられている。手の届くところに食料はない。自分以外何もない。周りを見る。鉄格子の間からは何が見えるのか。何も見えない。続くのは果てしない闇。


 頭上を見上げる。ドーム状の鉄格子。と、鳥籠を吊っている何か。これが切れたら、俺は鳥籠ごと落ちる。どのくらいの高さかわからないが、俺は吊られている。


 どうして俺がこんな目に。俺は何もしていない。俺はどちらかと言えば不幸な人生を歩んでいると思っている。俺には兄弟がいた。


 兄は優秀で、俺はいつも劣等感を抱いて生きてきた。俺は兄が嫌いだった。比較される人生が嫌で、高校に上がった頃は面と向かって死ねと言ったこともある。それからしばらくして、兄は死んだ。あっけなく死んだ。俺なんかをかばって、車に轢かれて死んだ。俺は兄を責めた。周りも俺を責めた。お前が死ねばよかったと。


 そうだ、そうだ。思い出した。兄が死んで数日後がインターハイだった。俺が飛べなかったのは兄のせいだ。死んだ兄が俺の足を引っ張ったんだ。兄に引きずり落とされた俺は――俺は、そのあと、どうなったんだ。ああやはり記憶があいまいだ。中途半端に思い出すんじゃなかった。今さら涙が出てきた。思い出したくなかったのに。大嫌いな兄の存在なんて。


 俺が死んだら兄と同じ場所へ行けるのだろうか。会いたいけど会いたくない。きっと兄は俺を恨んでる。かばったのはとっさの判断だろう。兄は優しいから、とっさに身体が動いてしまったに違いない。俺なんかのために死んだなんて可哀想だ。兄は俺なんかよりも何倍も、何百倍も期待されていたのに。兄はどんな顔をしていたのだろう。顔を合わせることが少なかったせいか、はっきりと思い出すことができない。


 兄はどんな声をしていたのだろうか。兄は俺の名を呼ぶことが好きだった。ショウ、と。俺がどんなに嫌がっても、ショウ、ショウ、と俺を呼び続けた。優秀な兄だったが、出来の悪い弟である俺を心底可愛がった。俺はそれが疎ましかった。兄の名を呼んだことなど、一度もない。と思う。


 ――ショウ。


 兄の声。聞き間違えか。いや、ここの空間で兄の声など聞こえるはずはない。幻聴か。疎ましい兄の声すら、死んだ兄の声すら聞こえるようになってしまったのか。


 ――ショウ。


 やめてくれ。あんたの声は聞きたくない。頼むから俺の中から消えてくれ。俺はまだ、あんたに会うわけにはいかないんだ。俺は死にたくない。あんたと同じ世界になんて行きたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 俺は髪をかきむしる。脳内から兄を消すために。それでも兄の声は響き続ける。隙間という隙間を兄の声が這いずり回る。


 ――ショウ。目を開けて、俺を見るんだ。


 俺は兄に逆らう。より強く目を閉じ、兄の声を拒絶する。


 ――ショウ。ショウ。ショウ。


 うるさい。うるさい。うるさい。


 ――聞こえているだろ。俺を無視するなよ。俺を見るんだ。俺はお前の目の前にいるぞ。


 何を言っている。早く俺の中から消えろ。消えろ。消えろ。消えろ――。


 気づけば俺は叫んでいた。兄の声を消し去るために、俺は鉄格子に頭をガンガンと打ちつけ、言葉にならない感情を叫んでいた。


 ――ショウ。やめるんだ、ショウ!


 その瞬間、俺の視界は真っ白に染まり、幾千もの光の筋が俺の眼球を突き刺した。明かりが点いたのだ。真っ暗だったこの場所が瞬時に真っ白な光に包まれたのだ。


 俺は絶叫した。暗闇に慣れた瞳が強烈な光を吸収したのだ。両眼が痛い。痛くてたまらない。


 ――ショウ? 大丈夫か。何があった?


 兄の声は消えない。おそるおそる目を開けた俺は、あまりの白さに圧倒され、しばらく声が出なかった。明るすぎて不気味だ。壁も天井もすべてが真っ白の部屋。暗いときにはわからなかったが、この部屋はそこまで広くなかった。テニスコートぐらいだろうか。


 その真っ白な部屋の中心に、俺が閉じこめられている鳥籠は浮いていた。


 鉄格子の間に顔を寄せ、下を見てみると、完全ではないが、やや鳥籠の影は見てとれた。それほど高い位置に吊られているわけではなさそうだ。正直、俺は安心した。俺が囚われている部屋が真っ暗な牢獄から真っ白な異空間へと変貌したからだ。


 もしかしたら、まだ夢の中なのかもしれない。それでも、悪夢ではなく、良い夢だ。明るいだけでこうも心持ちが変わるのかと、自分でも驚いた。だが、それよりももっと驚くべき事態に、俺は気づいた。


 俺の目の前に、もうひとつ、鳥籠があったのだ。


 俺は鉄格子に張りついた。もうひとつの鳥籠の中が見たかった。俺と同じように、この巨大な鳥籠に囚われた人間がいると信じたかった。


「誰か! 誰かいるのか!」


 俺の声が届いたのだろう。鳥籠の中の人物がゆらりと起き上がる。囚われ人の姿を見て、俺の身体は凍りついた。ふたつの鳥籠の距離はおおよそ五メートル。肉眼でも、その姿ははっきりと確認できた。


「……あんたは? あんたは誰なんだ?」

「忘れたのか。俺はキョウ。兄を忘れるだなんて酷い弟だな」


 は? 何を言っている。

 俺と会話している男は、いったい何を言っている。死んだはずだ。兄は死んだ。死んだはずだ。それなのに――。


「あんた、何で生きてるんだ?」


 俺と同様に鳥籠に囚われている男は、生前と変わらぬ姿で俺と対面した。




 キョウ。俺の兄。事故で死んだはずの俺の兄。大嫌いだった俺の兄。俺が鉄格子にしがみつくと、キョウも同様に鉄格子にしがみつき、俺と顔を合わせる。


 兄だ。見間違えなどではない。俺の兄だ。


 あの目も、あの顔も、あの身体も、全部兄のものだ。生きていたときの兄がそっくりそのまま現れたのだ。


「ショウ。俺の声は聞こえるか?」

「答えろ。何で生きてるんだ?」

「声は届くようだな。よかった。会えて嬉しい。元気そうで何よりだ」

「俺の質問に答えろ! どうしてあんたは生きてる? あんたは俺の目の前で死んだ! 葬式も出した! 俺が見間違えるはずはない!」


「なあ、ショウ。お前はどこまで覚えている? お前の記憶はどこまで正しいんだ?」

「馬鹿なこと言うな。全部に決まっている。とにかく俺の質問に答えてくれ!」

「狭いなあ、この鳥籠は」


 鉄格子の感触を確かめたキョウは、その場をぐるりと回り、とうとうとショウに語り続ける。


「お前がここに来る前から、俺はここにいたんだ。この鳥籠は狭くて、不安定で、危険な場所だ。狭い檻に閉じこめられ、脱出の見こみはない。外部からの助けがない限り。お前は何度か抗おうとしたが、結局は無駄だろ。自分ひとりでは何ともならない。絶対に逃げ出せない。ひとり、死を待つしかない。お前は頑張ったほうさ。俺はお前よりも早くつぶれた。ショウ、お前が来るまで、俺は抜け殻同然、ただ死を待つだけだったんだ」


 キョウが話す間、俺は彼の姿を見ていた。キョウが語る言葉は正しい。


 俺自身、確かに救いのない現状に絶望し、死を恐れるものの、結局は死にゆくしかないという現実を見つめはじめていたのだ。だが――。


「だが、俺にはお前がいた。ショウ。死ぬ前にお前に会えて、本当によかった」


 ――自分と同じように鳥籠に囚われていた男。実の兄であるキョウ。彼が現れたことにより、俺はほんの少しだけ希望が持てた。ひとりで死んでいくわけではない。少なくとも、死ぬときには自分以外の誰かの存在を感じたまま逝くことができる。孤独ではない。


「ショウ? どうしたんだ、ショウ。もしかして泣いているのか?」


 兄が問う。そんなはずはない。俺は泣かない。目元に手を伸ばす。涙だ。兄に指摘されるまで気づかなかったが、俺は泣いていた。ここ数年泣いたことはなかった。感情的な人間じゃないと思っていたから。泣くことすら忘れていた。


 最後に泣いたのは兄の死と向き合ったとき。あれが最後だ。ああ、そうだ。キョウの死は俺にとって大きな出来事だった。


 当たり前だ。家族の死だ。


 俺は隠れて泣いた。人に見られることが嫌だったから。でも今はひとりじゃない。もうひとつの鳥籠に最後に涙を流した相手がいる。どうして俺は泣いているんだ。


「ショウ。どうして泣いている? 俺が生きていて嬉しい? 悲しい? それとも恋しかった? お前、俺に会いたかっただろう」

「……ああ、そうだ。会いたかった。会って、話がしたかった」

「可愛いな、ショウは。俺もお前に会いたかった。会って、話がしたかった。どうだ、最近。元気にしてるか?」

「俺は元気だ」


「お前、今いくつ?」

「二十一」

「大学生? どこ行ったんだ?」

「覚えてない」

「はあ?」

「覚えてないんだ。信じられないかもしれないけど。キョウ、俺の記憶はどこかが抜け落ちてる。俺は俺なのに俺のことがわからない」

「そう悩むなよ。いつか思い出すって。それにしても老けたな、キョウ」

「あんただって同じだ」

「いや、俺のほうが年相応だ。鏡で顔見てみろよ。お前のほうが老けてる」

「鏡がないからわからない」

「そりゃそうか。じゃあお前。もっと顔見せてみろよ。俺に見えるように。俺もそうするから」


 キョウが鉄格子ぎりぎりまで顔を突き出したから、俺も同じようにする。


「見えるか、ショウ。これがお前だ」


 俺から見えるのは――俺の顔だ。昔からそっくりだと言われ続けた、俺の顔だ。そしてキョウの顔でもある。俺たちは双子の兄弟だった。


「正確に言えば、俺のほうがいい男だ。お前は老けてるんだよ。というよりも疲れか。それだ。疲れが顔に出てる。顔色悪いぞ」

「当たり前だろ! 閉じこめられているんだ!」

「わかったよ、そんなに苛立つな。無駄に体力を消耗するのはよくないぞ」

「どうせここからは抜け出せない」

「現実的なこと言うなよ。ショウ。俺だって怖いんだ」


「……キョウ、あんたはいつからここに」

「お前の意識が飛んだ日からかな」

「いつだよ」

「自分に聞け。それよりもどうするか。暇だな」

「暇って。そりゃ暇だが他に考えることがあるだろう?」

「例えば?」

「ふたりで協力してここから出る方法とか」

「むりむり。俺たちは出られない」

「悲観的だな」

「違う。楽しんでるんだ」


「ますます意味がわからない。イかれたのか?」

「お前よりかはな。俺のほうが長くここにいるんだ。壊れてもおかしくないだろう」

「俺は嫌だ。早く出るか、早く死にたい」

「俺の前でお前を死なせるわけないだろう。大事な弟なのに」

「うるせえ、一生言ってろ」

「あいかわらず手厳しいな。そういうところが可愛くてしょうがないんだ」

「きめぇ」


「ははは、楽しい。それにしても暇だな。お前を見ながらシコってもいいか?」

「は?」

「引いた? でも俺はずっとしたかった。ショウが可愛くて可愛くてたまらなかった。この鳥籠さえなければ」

「……きもい」

「でもお前だってそうだろ? 双子だもんな。お前、俺のこと好きだろ」

「そんなわけないだろ。馬鹿なのか」

「この鳥籠さえなければ、すぐに抱きに行くのに」

「きもい。死ね。話しかけんなクズ」

「頼むよショウ! 一回だけ」

「うるせえ! 黙ってろ俺に話しかけんな死ね!」


 俺が絶叫したとき、事態は急変した。


「キョウ!」


 俺の目の前でそれは起こった。兄を捕らえていた鳥籠が地に落ちたのである。


 そして俺の鳥籠も。

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