第2話 異世界転生

「異世界か…」


最初は夢だと思っていたが、イザベルと話しているうちに、徐々にリアルかなと思うようになっていた。そして、いま目を開けてみると、そこには見たこともない光景が広がっていたのだ。


「月が2つか…。地球でないことは確かだな」


俺は川の近くであおむけに寝ていた。そして目を開けると、いわゆる半月の形をした月が上空に2つ浮かんでいたのだ。


俺はのろのろと起き上がる。

今は夜だが、月明かりのおかげでかなり明るく、あたりを見渡すことができる。


さて、目の前の世界がリアルか確かめよう。

夢か現実かをはっきりさせたい時は『五感を働かせてみよ』とどこかに書いてあった。夢では五感があいまいになるが、リアルではしっかりと感覚があるからというのが理由だ。


それではと足もとに転がっている石を拾い上げる。表面をなでてみたら石のざらざらとした手触りを感じるし、石の重さも感じられる。それに、甘い花のにおいもさっきからずっと感じている。きっと、近くで咲いているだろう。


やはりリアルのようだ…。


「何てこった。夢だと思って深く考えずに引き受けてしまったぜ…」

「日本にいる俺の体は大丈夫なのか?魂無しで腐ったりしないのか?」


しばらくブツブツと愚痴をこぼしていたら、何かが頭の中にジュンと染み込むような鈍い感覚を覚えた。それと同時に、いろいろなイメージや言葉が頭の中にあふれ出す。


何が起きたか、わかってきたぞ。

俺の頭に入って来たのは――この世界で生きてきたリュウの記憶なのだ。

この体の元の持ち主リュウの知識が俺と同化したのだろう。いや、俺の魂がリュウに同化したと言うべきだな。


「俺は冒険商人のリュウになったのだ」


そう独り言をつぶやくと、何だかずっと昔からリュウという男だったような気になって来た。


リュウの知識によると、リュウは冒険商人という職業で、仕入れた商品を別の町まで運んで高く売ったり、依頼を受けた品物を目的地まで運んだりして利益を得ていたようだ。

街と街を結ぶ街道沿いには危険な魔獣が出ることが多く、冒険商人はそれなりの戦闘力がないとこなせない職業らしい。それに、商人としてのコミュニケーション能力も必要だ。

他の職よりも稼ぎが多いため、この世界では冒険商人はエリート職の一つとされているようだ。


俺はとりあえず、自分が身に着けている服や装備を確認することにした。

俺の服装と装備はこんな感じだ。


・上半身は、薄いこげ茶色の長袖シャツの上に、革製のベスト型の防具と肩あて、肘あて、手甲を装備。

・下半身は、濃いこげ茶色のロングパンツの上に、腰から膝上までの革製の防具と膝あてを装備。

・左側の腰から刃渡り80センチメートルくらい、柄の長さが30センチメートルくらいの両刃の剣を下げている。

・右側の腰に、依頼品と旅の装備が入った携帯用マジックバックを装着。

・足は厚手のソックスの上に革製のショートブーツを履いている。


さらにリュウの知識を探っていると、面白いものを見つけた。


「ステータス・オープン!」


そう唱えると、目の前に半透明のプレートが出現する。これで俺の現在のステータスを見ることができるらしい。


この世界では15歳で成人した時に、教会で女神イザベルからギフトが与えられる。

それぞれのギフトにはランクとレベルがあって、ランクは一生変わらないが、レベルは経験や訓練で上昇させることができる。

そして、ランクやレベルに応じて、さまざまなスキルを使用することができるのだ。


俺のステータスは次の通りだった。


【名前】リュウ

【種族】人

【年齢】21

【ギフト】

   闇魔法:ランクS(レベル1/20)

   火魔法:ランクB(レベル1/20)

   剣術:ランクA(レベル1/20)

   収納:ランクA(レベル1/20)

   φ∇∂σ:ランク∞(レベルo/∞)


イザベルにお願いした通り、闇魔法はしっかりランクSになっているし、リュウの記憶と比べると火魔法と剣術もランクアップしていることがわかった。それに、ランクAの収納ギフトもある。


よくわからないのが、最後の「φ∇∂σ」というギフトだ。これは俺がもともと持っている能力のことだろうか?この世界の能力じゃないから文字化けしているのかもしれないな。

でも、<ランク∞>って、<無限大>ということか?それともこれも文字化けか…。


さっきは愚痴っていたが、このステータスを眺めていると、異世界で魔道具を探すというのも悪い話ではないと思い始めた。何と言っても、性に合った物探しができて莫大な報酬がもらえるのだ。


俺は物探しや人探しが好きだ。

対象を探していろいろな街を訪れることができるし、対象が逃げ出さない限り急ぐ必要もなくて、マイペースで仕事ができるからだ。

また、広い世界の中から対象を見つけ出すことに、俺は大きなやりがいを感じてもいる。

そして今は何と言っても、成功率を格段に上昇させる特別な能力があるのだ。

これらを駆使すれば、案外簡単に依頼を達成できるかもしれない。そうしたら、莫大な報酬をもらってバラ色の人生の始まりだ!

10億の金塊のことを考えると、頬も緩むぜ!

せっかく異世界に来たのだから、観光だと思って街々をめぐりながら、依頼をこなすとしよう!


こんな感じで、とりあえず方針が決まったので、さっそく行動を開始する。

移動を始める前に、まずは自分のスキルの確認だ。

自分が使用できるスキルを把握しておかないと、いざというときに何もできずに頓死ということは十分にあり得るからだ。


俺はリュウの記憶にある火魔法や剣術のスキルを一つずつ試して行く。


「ファイアーボール!」


炎の球が現れると前方に向かって飛んで行く。そして目の前の川面にドンという音と大量の水蒸気を巻き上げて着弾した。

これを何度か繰り返すことで、スキルを<自分のもの>にして行くのだ。


1時間ほどかけて火魔法のスキルを一通り体に染み込ませた。

次は剣術だ。

腰に下げた剣を抜き、仮想の敵をイメージしながら剣を振るう。

剣道や剣術なんてやったことがなかったが、リュウの体が覚えているのだろう、すさまじい速さで剣が空気を切り裂く。


ランクアップしたおかげだろう、リュウの記憶よりも火魔法の威力や剣のスピードが増している。良い感じだ。


しかし、問題は闇魔法だ。リュウの知識では闇魔法の使い手は非常に珍しいらしく、リュウも会ったことがないようだ。そのため、リュウも闇魔法の知識をほとんど持ち合わせていない。

教会に行けば、鑑定の儀と言う儀式を行うことでスキルがわかるらしいが、それにはかなりの金が必要らしい。

それ以外には、魔導書と呼ばれる魔法の解説書を読む方法もある。リュウが生前に目指していたボドルガという街には魔導書を扱っている本屋があるようなので、そこで適当な本を買うことにしよう。


というわけで、闇魔法以外はスキルの確認が一通り終わったので、俺はボドルガに向かって歩き始めたである。

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