第28話 専念する

「それは……」


 大会に参加する主要メンバーから退く。思いがけない言葉だった。今まで練習してきて、色々な大会に参加して経験を積んで、素晴らしい結果も出している。


 なのに彼の口から、そんな言葉が出てくるとは予想していなかった。


「俺より、上瀬さんの方が実力は上です。大会に優勝するためには、俺がメンバーで出るよりも、上瀬さんが出たほうが確実だと思っています」


 チームセブンが優勝するために、俺が大会に出たほうが良いと西木くんは語った。そのために、自分が抜けると。だけど、それで良いのだろうか。彼が今まで頑張って練習して、積み重ねてきた努力を出せる場所。その立場を、俺が受け取ってしまって本当に良いのだろうか。


「君は、それで納得しているのか?」

「もちろんです。これは、俺から言い出した提案なので。すでに、代表の中西さんと相談して、色々と考えて出した結論なので」


 西木くんは、考えていた内容について語ってくれた。


「さっき言った通り、実力は確実に上瀬さんの方が上です」

「うーん」


 彼の練習を見て、色々とアドバイスしてきた。だけど、彼もどんどん成長して強くなっている。今はまだ、俺の実力の方が上かもしれない。けれど、いつか越されるかもしれないのに。


「出場するメンバーを変えるのなら、なるべく早めに決めていおいたほうがいいかと思ったので。直前にメンバーを変えて、連携とか崩れたりするとマズイので」

「なるほど」


 確かに、それはあるかもしれない。大会直前になって急に出場メンバーが変わってしまったら、混乱するだろう。主要メンバーを決めて、早く連携の練習とかしておく方が良いはず。だから彼は、早めに退くことを決めた。


 彼の気持ちは、分かるような気がする。だけど、その決断は非常に覚悟がいることだろう。


「実は、もう十分に満足しているんですよ。あのメンバーで色々な大会に出られて、優勝まで経験して。とても幸せでした。だから、交代するのに全く未練が無いんです」

「そうだったのか」


 西木くんの表情は、とても清々しいものだった。ちゃんと自分の意思で決めたことなんだ。


「これからは、実況動画の方に専念しようと思っています。それで、チームセブンに貢献していけるように頑張ろうかと」

「それはいいね」


 やりたい事があるなら安心だった。俺は、それを素直に応援したいと思う。協力もしていきたい。


「でも託したからには、絶対に優勝してくださいよ! 去年は優勝を逃してしまったポーランドの大会で。その他の大会でも」

「もちろん! 全力で挑戦して、優勝してみせるさ」

「頼もしいですね。期待しています!」


 西木くんから激励を受けて、やる気が出てきた。絶対に優勝しよう。

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