第12話 個別で特訓

 大会に出場するメンバーの5人で集まって、何度か練習を繰り返した。俺は、その練習を後ろで見て各々にアドバイスをする。


 とある日、チームの中では一番年上の西木くんが相談してきた。


「俺に稽古をつけてくれませんか?」

「稽古?」

「このままの腕前じゃあ、他の4人に迷惑をかけてしまうので。それに、ゲームでは負けたくないから。彼らよりも強くなりたい……!」

「なるほど」


 彼の腕前が低いわけじゃない。日本ではトップクラスの腕前だろう。だけど、他の4人と比べてしまうと劣っている。それが、正直な評価だった。


 しかし西木くんは、その評価を正面から受け止めている。チームで練習した中で、そのことを自覚したようで。それで、俺を頼ってきた。感じたことを正直に打ち明けながら、特訓してほしいと頼んできた。


 その負けん気と、向上心は素晴らしい。


「もちろん、君の練習に付き合おう。俺の持っている知識やテクニック、経験などをできる限り君に授けよう」

「ありがとうございます!」

「だけど、厳しくいくよ」

「はい! 望むところです」


 スケジュールを調節して、マンツーマンで西木くんの特訓を行うことになった。




「さっきの攻めで、前線の戦いを援護しなかったのは何故だい?」

「後ろからの奇襲を警戒していました。前は、二人のプレイヤーを確認していましたけど、残りの位置が把握できてなくて。後ろから攻めてきた時に備えました」


 俺の質問に、即座に考えを述べる西木くん。しっかり考えてプレイしていることが分かる。


「うん、そうだね。だけど、一気に前を攻めて壊滅させる、という作戦もあるよね。その場合は、どう動けばいい?」

「右のプレイヤーをカバーしながら、前の進めば良いですか?」


 他にも戦い方が色々とある。作戦とパターンを多く用意して戦うことが、大会などでは必要になると俺は考えている。一つの答えだけじゃなく、他の方法を考えるように誘導していく。


「ちゃんとマップを見て。それで良いかな?」

「あっ! そうですね。こっちのルートだと、スナイパーの警戒が必要になるのかもしれません」

「そうそう。ちゃんと射線を意識して、マップによっても動き方を変えて。遠距離の攻撃は、強く警戒することを忘れずに」

「はい」


 一つ一つの試合で反省点を洗い出して、細かく指摘していく。戦い方が正しいのかどうか、繰り返し問いかけていく。


 ゲームを遊ぶだけならば、こんなにも厳しくする必要なんて無いだろう。プレイの内容を何度も指摘されるのは、想像以上に辛いだろう。だけど、チームメイトに負けないために、大会で勝つためにやらなければいけないこと。


 厳しく教えても、彼は投げ出さずに辛抱強く腕を磨いていた。


 大会出場に向けて練習をしている中で、一番成長しているのは彼だろう。大会での活躍が楽しみだった。

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