勇者の嫁は旦那を捨てて、獣人にガチ恋します!

水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴

第1話 勇者の旦那が帰ってきた!

「奥様!旦那様が帰ってきました!」


 メイド長のアンナが叫びながら、居間へ走り込んできた。

 

「え、クリフォードが!?」


 居間で優雅に紅茶を飲んでいたコニーは、思わず吹き出してしまった。


「はい、奥様。本当ですわ。今、玄関に馬車が止まっています」


 あたしの旦那――クリフォード・ロレンスは、いわゆる「勇者」だ。

 あたしは、勇者の嫁だ。

 クリフォードとは、幼馴染で許嫁。銀髪で緑の瞳のイケメン。

 あたしたちは二十歳になって、すぐ結婚した。

 ラブラブな新婚生活……と思いきや、1年も経たないうちに、魔王ネロが封印から復活して、世界征服に乗り出しちゃった!

 クリフォードは、隻眼の剣士アルスと、光の魔術師ドロシーとパーティーを組んで、あたしをひとり置いて旅立った。

 世界を救うため、魔王と戦いに。

 「行かないで!」と泣いてすがるあたしに、「俺はSランクの勇者だ。だから世界を放っておけない」と言って。

 もう2年も経っていたから、死んだと思っていた……


「ちょっと馬車の中で待ってもらってちょうだい!」


「え、奥様??」


「服も着替えないといけないし、化粧も直さないと……」


 コニーは2年間も旦那がいなかったから、貞操を守るため、他の男性と会わないようにしていた。

 社交界へも顔を出さず、お屋敷に引きこもり、旦那の帰りを待っていた。

 あまりにも引きこもり生活が長すぎて、化粧もせず、一日中パジャマで過ごしてばかりいた。

 すっかり、干物女になっていた。


「はあ……奥様、だから言ったでしょう。いつ殿方にお会いしても大丈夫なように、普段からレディとして、恥ずかしくない身なりにしておかないと」


「もう!お小言はやめてよ。とにかく待つように言って!」


「はいはい」


 アンナは呆れた顔をして玄関へ向かった。

 急いで自室へ戻って、着替えをする。

 呼び鈴をガンガン鳴らしまくって、メイドたちを呼び出す。


「早くして!クリフォードが帰ってきたのよ!とびっきりキレイな女にしてちょうだい!


 メイドたちは困り果ててしまった。


 熟成された干物女のコニーを「立派なレディ」に戻すのに、いったい何時間かかるだろうか……

 ボッサボサの髪をなんとかキレイな巻き髪にして、倉庫の奥深くに眠っていたドレスをぜんぶ引っ張りだした。


「奥様、まだですか?もう一時間も経っていますよ!」


 アンナが部屋へ呼びに来た。


「あと少しー」


 どのネックレスをつけるかで、コニーは迷いまくっていた。


「はあ……奥様。ネックレスなら、こちらをおつけになられては?」


 それは……クリフォードがあたしに初めてくれたネックレス。

 白い真珠とダイヤモンドのやつ。

 

 メイドたちの奮闘で、なんとかコニーは最低限レディらしくなった。

 

「みんなありがとう。さあ、帰ってきた勇者様をお出迎えしましょう!」

 

 

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