それゆけ、宇部市未来企画部地域盛り上げ課!
宇部 松清
第1話 リアルを極めし車エビの化身
何事も、人のせいにするのは良くない。
そりゃあ誰かのせいにしてしまえば楽だ。だって非はこちら側にはないのだ。そこから改善策を練ることになったとしても、完全に『無関係の他人』あるいは『何なら巻き込まれた被害者』辺りの立場で上から意見を述べることだって出来る。
だけれども、そこに胡坐をかいてしまえば、成長はない。
だから何事も、まずは誰かのせいにしないで、こちら側にも何か落ち度はなかったか、もっと事前に出来ることはなかっただろうかなどなど、話し合いを重ねることが重要なのではないかと思うのだ。
思っていたのだ。
自分がこんな姿になるまでは。
「いらっしゃいませ~、宇部ドッグいかがですか~!?」
「きゃー、がざみん可愛い~! 写真良いですか~?」
「はーい、かしこまりん~!」
この近くにある高校の女子生徒が、きゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいる。彼女らの手にあるのは、ごてごてにデコレーションされたスマートフォンと、それから『宇部ドッグ』という、まぁいわゆるB級グルメカテゴリのホットドッグである。
「あっ、エビ太郎もいんじゃん。エビ太郎も撮っとく?」
がざみんとの写真撮影を終えた女子高生が、俺の存在に気付き、隣を歩く友人に声をかける。
が。
「えぇ? エビ太郎は良くない? 何かキモいし」
「わかる。なんか変にリアルすぎるんだよね。キモカワなんて一部にしか需要ないでしょ」
「だよね」
わかっている。
自分がキモいことくらいわかっている。
いや、その言い方は語弊がある。
俺自身はキモくない。そう思いたい。
キモいのはこの着ぐるみであって俺ではない。
ゆるキャラの枠に収まるようなデフォルメされまくったエビの着ぐるみで良かったはずなのに、「キモ可愛い路線で行きましょう! こういうのは多少突き抜けていた方が話題になるんです!」ってどこかの馬鹿が言ったのだ。
確かに多少突き抜けていた方が話題にはなるのだろう。実際、初登場時にはそれなりに話題にはなった。ただ、話題を掻っ攫っていったのは俺ではない。
俺の相方である『がざみん』が、中の人も相当可愛い(後に元地下アイドルだったらしいことがわかった)ということで、顔をしっかり出すタイプの萌えキャラ的路線だったのである。モチーフがガザミ(蟹)なので、ハサミに見立てた上向きツインテールのウィッグに、全年齢対応の露出控えめな甲殻類っぽいワンピース姿。これが大いにウケた。大きいお友達はもちろんのこと、小学生以下のキッズ達からも特撮やゲームに出て来るヒロインみたいだと好評だったのである。
が、俺はというと。
リアルもリアル。
なぜそこまでリアルを追求してしまったんだ、と頭を抱えたくなるほどのリアル。このままエビ専門店に就職出来るんじゃないのかなっていうくらいのリアルな仕上がりなのである。もちろん就職といっても板前とか、客引きではない。水槽の中に沈んでいるやつだ。いやいや、大きすぎるだろ! ってここは笑うところである。
いや、全然笑えないんだけど。
とにかく俺は、リアルを追求しすぎた車エビの着ぐるみで、しかも、エビの方にしっかりと脚があるにもかかわらず、もちろんそんな細こい脚で自立出来るわけがないため、手足が出せるようにあけられた穴から、にょっきりと自前の手足を出している。リアルなエビの胴体からまさか私服の人間の手足を生やすわけにはいかず、俺は真っ白い全身タイツ装着を余儀なくされた。どうしたってうっすら透けてしまう己のすね毛が気持ち悪い。ただこれも見ようによってはエビの身体の模様のように――いや、無理がある。
そんでもちろん、視界の確保は重要だ。いくらリアルを追求したと言っても、視界が不明瞭では危険すぎるし、顔を完全に隠してしまうデザインだと熱中症も怖い。
という理由で、エビ太郎の顎の辺り――果たしてそこがエビの顎なのかはわからないが――に大きな穴があいているのだ。観光地にある顔出しパネルをイメージしてほしい。あんな感じのやつだ。リアルなエビの顎部分に、これまたリアルな人間の顔があるのである。悪夢かよ。そこはもっとどうにか出来なかったのだろうか。お陰で俺は、口からも鼻からも呼吸し放題ではあるし、飲食も出来たりするわけなんだけれども。
「あのデザインで顔が丸々出るとか、マジ意味分かんないよね」
「ね。予算なかったんじゃない?」
予算はァ!
ありまァす!
ありましたァ!
何せここまでリアルな着ぐるみを発注出来たわけですからァ!
何ならがざみんより金かかってますからァ!
こんなでっかい穴があいてんの、そこだけ予算をケチったとかじゃないですからァ!
一応、顔バレは色々厳しいということで、サングラスを装着しているものの、それもそれで怪しさを増すだけだ。
そんなこんなで俺、
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