引きこもりビジネス

連喜

第1話 息子

 俺は50代のシングルファザーだ。家には小学校時代から引きこもっている息子がいる。もともと繊細な子で、小1でいじめに遭ってから学校に行かなくなってしまった。小2でちょっとだけ行くようになったが、また不登校になり、小3は数回しか登校していない。今は中学生。


 見た目は細くて小柄でなよなよしている。見るからにいじめに遭いそうなタイプだ。顔はかわいいと思うけど、誰にも会ってないからイケメンでも不細工でも関係ない。

 

 習い事もしていないし、一人っ子で遊ぶ相手もいない。勉強もしないし、本当に困っている。今はまだ未成年だから働きにも出れない。別に不登校でもいいと思うのだが、引きこもりはさらに深刻だ。親もなすすべがない。家族以外の人に会うこともできないから、外出は無理だ。


 最近は、1日ベッドに寝転んでYouTubeやTickTokを見ている。引きこもりYouTuberでも何でもいいから、何かクリエイティブなことをやって欲しくて、俺も協力してYouTubeに挑戦したのだが、動画を上げても収益化までは到底足りなかった。はっきり言って、ほとんど俺が再生回数を回しているだけ。YouTubeは、同じPCから何度も見ているとカウンターが回らなくなるのだが、取り敢えず、俺は仕事の合間もちまちまと動画を見て、見た目だけでもと思って回していたが、再生回数が全然増えなかった。女の子ならともかく男だし、誰も見ないと思う。みんな知ってるかもしれないけど、YouTubeの収益化基準は再生時間4,000時間で、チャンネル登録者数は1,000人が必要だ。


 彼ももうすぐ中学を卒業するから、最近はネットを使ったビジネスを考えているようだ。どうしても、外で働きたくないらしい。ちょっと前はヤフオクとメルカリをやっていた。偉そうに言っても、土日に近所でバザーなんかがあると、買いに行ってそれを転売するというせこいビジネスだ。あとは本を買ってそれを転売するやつ。メルカリも数年前まではけっこうよかったらしいが、コロナ寡で断捨離する人が増えて、ほとんど売れなくなってしまった。


 今は円安に便乗した輸出ビジネスをやっている。英語がちょっとできるから、eBayをやっていて、家にあるものを勝手に売っている。一応、「売っていい?」と聞いてくることもあるけど、やつのページを見ると、俺が許可してないものまで載っている。今はちょっと儲かるかもしれないが、そんなの一生はできない。


 英語ができるというのは、実は息子は帰国子女なのだ。幼稚園は海外で、小学校で日本に戻ってきたけど、雰囲気が合わなかった。年間150万ほどかかかる有名インターに通わせるような経済力は俺にはない。だから、漢字は読めないし、文章はネイティブじゃないレベルだ。そうなるまで放っておいたのは、失敗だったと思う。


 奥さんはどうしたかというと、海外にいた時からうつ状態で、日本に戻ってさらに悪化した。自殺未遂を起こして入院もした。最終的には、現状に耐えられずに出て行ってしまった。妻が家を出てからは、俺も息子も一度も会っていない。母親の自殺未遂は子どもの人生にも大きな影を落としている。自分のせいではないかと考えているようだ。俺は息子がかわいそうでたまらなくなる。


 俺は管理職でありながら、引きこもりの息子という重い十字架を背負って生きている。家では息子が待っているから、アフターファイブの付き合いなどは一切できない。俺に興味を持ってくれる女性がいないでもないが、引きこもりでさらに思春期の連れ子がいるとわかると、手のひらを返したように逃げて行く。


 家に帰ると息子が嬉しそうに「今日は〇〇が売れたよ」と言う。何も売れない時もある。俺は一緒に喜ぶ。利益なんて数千円あればいい方だが、彼の小遣いになるし、家もすっきりする。家の中の一部屋は彼の抱えてる在庫でいっぱいだ。そのうち、親子で起業しようかと思う時もある。こいつを残して死ぬのが心配で仕方がない。


 でも、はっきり言って起業のために何をやっていいかわからない。普通に外に働きに行った方が絶対に効率がいいからだ。


 今は中学生だけど、卒業したら外で働かせるか、どうしようか迷っている。


「これからどうすんの?」

 俺は毎日聞いてしまう。

 こういうのが子どもにプレッシャーを与えてしまうらしい。

「わかんない」

「何かした方がいいんじゃないか?英語とか。英語ができれば翻訳とかもできるし。プログラミングを習って、プログラマーになるとか・・・」

 俺は提案する。

「じゃあ、英語やる」

 でも、彼はやらない。オンラインだと恥ずかしいそうだ。俺が隣に一緒にいないとだめで、それでも続かない。

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