第4話 three

 夏月の言葉に何かを思い出したかのように、一郎は足下に置いてあった鞄から、そう大きくはない箱を取り出した。


「すみません。これを渡しに来ました」


 箱の蓋を開け、中身を見せる。小型のタブレットPCと思われる者が入っており、夏月は小首を傾げた。少し考え込み、これは押し売りというものだろうか? と悩み出す。


「あ、あの……。う、うちお金ないので無理です……。ごめんなさい……」


 押しつけられる前に帰ってもらおうと考え、夏月は頭を下げる。何かがおでこに当たり、すぐに頭を上げた。一郎が持つ箱の中の小型タブレットPCのような物が光っている。それを見た夏月は、泣きそうな顔になった。


「ごめんなさい!」


 ぶつかったときに壊してしまったのだと思い、必死に謝るが、一郎とジョンは気にもせずに箱の中を見つめていた。


「夏月?」


 謝罪を口にしながら、何度も繰り返し頭を下げていた夏月の動きが止まる。恐る恐る振り返ったその目に映った姿に、思わず表情が緩んだ。


「お客さん?」


 救いの神でも現れたかのように、夏月は嬉しそうに何度も頷く。新たに現れた人物に気がついたのか、一郎とジョンも箱の中身から視線を向けた。


「あ、すみません。お兄様ですか?」


 そう尋ねる一郎に向かい、秋月は冷たい視線を送る。


「姉です」


「……え?」


 一瞬の間の後に、一郎の口から疑問の声が漏れた。


「姉……?」


 秋月が頷く。


「それで、弟が何か?」


 あまりにも遅いので疑問に思い、玄関へ来てみると必死に謝罪を繰り返す夏月の姿と、スーツ姿の男性が二人、ウチ一人は白人という様子に何があったのか疑問だらけという状態であった。


「……え?」


 同じように一郎が疑問を繰り返す。


「弟……?」


 どこからどう見ても、少女にしか見えない目前の相手へと視線を移す。


「弟?」


 夏月が頷いた。それを確認した一郎は、まるで時間が止まったかのように動きを止めた。十秒ほど経ったのち、我に返ったように慌てて足下に置いてある鞄の中をあさりだした。すぐに、大量の紙の束を取り出す。必要な物を探すかのように次々と紙を捲り、不必要なものはその場に放り投げる。その背後で、ジョンが必死になって投げ飛ばされた紙を拾い集めていた。目的の物が見つかったのか紙を放り投げる仕草を止め、一枚の紙を確認する。紙を持つ手がワナワナと震え始めた。


「あ、あの……。稘 秋月さんは……?」

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