第2話 one

 言い終わると少しの間を置き、頭を上げた。男性にしてはきれいすぎる顔立ちが画面いっぱいに映し出され、更に悲鳴にも似た歓声が響き渡る。続いてどこか南の海にあるような民族衣装の少女が二人、立て続けに映し出されたが、周囲の人々の関心は薄く、先ほどまでの歓声が消え、静けさを取り戻した。


 


 本来なら通行人も車も絶えずに動き回るだろう街中は、不思議なほど人影も車も無く静だった。立ち並ぶビルに囲まれるように、わずか数人が固まっているだけの様子は、どこか不自然さを感じさせる。最初に画面に現れた少女が、カメラへ向かって説明を話し続けている。先ほどまで優雅な笑みを浮かべていた燕尾服の人物、秋月は真剣な表情でモバイルノートパソコンに似たものを手に持ち、画面を覗き混んでいる。その横で、メイド服の少女、夏月がタブレットPCのような物を、小首を傾げながら見ていた。対面に居る南洋の民族衣装を着た少女達は、困り果てたような表情で手にした機械を見つめている。


「だいたい把握した」


 その言葉に、夏月は秋月へ尊敬の眼差しを向ける。


「夏月は?」


 そう訊かれ、夏月は困った表情を浮かべて目を逸らす。その様子に、秋月は軽くため息を吐く。そのまま、秋月は説明を続けている少女へ視線を移した。タイミングよく、少女は説明を終え開始宣言を高らかにした。とたん、秋月は踵を返し走り出す。すぐに、一緒に走り出すと思っていた夏月の姿がないことに気がつき足を止めた。振り返ると、対面に居た少女達と同じく、まだ小首を傾げながら手にしたタブレットPCもどきを見つめている。慌てて引き返し、秋月は夏月の手を取った。


 いきなり手を取られ、引きずられるように夏月は走り出す。


「しづきちゃん?」


 秋月の行動に、不思議そうな視線と声を投げかける。


「地の利と文明の利があるうちに、さっさと終わらせよう」


「う、うん……」


 力なく返事をしながら、手を引かれビルへと向かう。二人の様子に気がついた南洋の少女達は、慌てて香月達の後を追い始めた。


 秋月の言うとおりそう時間をおくこともなく、画面には夏月の勝利を知らせる文字が現れる。自分の勝利を知り、力が抜けたように崩れ落ちた。そして、なぜこのようなことに参加する事になってしまったのか、今ここにいる自分の不運についてため息を吐いた。思い起こせば一年前、来客を知らせるチャイムから全ては始まった。

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