第2話 そして落胆へ――けれど馬!
朝のショックから立ち直れなかったものの、なんとか無気力で登校してきた年洋は机に顔を突っ伏していた。
「どうした? トシ。元気ねえな」
教室に入ってきた天瑠が声をかけてくる。
「オレなんて、今日も塩里ちゃんに会えると思うと、嬉しくてしかたないんだが?」
「……なぁ天瑠。昨日、お姉さんの話をしただろ?」
年洋は顔を突っ伏したまま、声を絞り出す。その声は、生気を感じられない。
「してたな。オレには塩里ちゃんという大切な人がいるから、キープだが」
「……お前、ストーカーになれる気質が有るよ」
「ほめるなよ」
「ほめてねぇ。それはどうでもいいんだ。そのお姉さんが人妻だったんだよ」
「人妻……甘い響きだな……。それだけでエロい」
と、天瑠はうっとり。
「……お前はなんでもいいのか?」
「エロければ。で、人妻なのは確実なのか?」
「……ああ、娘さんがいたんだ」
その娘が塩里さんなのは、言わない。いや、言えない。
「オレなら、その娘を狙うぜ」
もう狙ってるのだが? 塩里さんを。
「そんなにキレイなお姉さんの娘なら、娘もキレイだろ?」
確かに塩里さんもキレイだ。姿勢も、書く字も、歩き方も、何もかも。天瑠以外にも、塩里さんを狙っている人はいる。
「
「……最終的にお姉さんを落とせと言うのか? 禁断すぎるだろ、それ。旦那に殺される」
丁度その時、塩里さんが教室へと入ってきた。
塩里さんは華が有るし、美しい。入ってきただけで、教室の雰囲気が変わった気がする。本当に華やかなオーラが見える気さえする。
――キレイなお姉さんの娘はキレイ。
確かに間違ってはいない。珍しく天瑠の言葉に納得する。
だが、お姉さんの事が頭から離れない。
(……ひょっとして、俺の方がストーカー気質なのかな?)
年洋はふと思ってしまった。
放課後。
天瑠はさっさと部活に行ってしまった。天瑠は剣道部で、ああ見えて部内でもトップクラスに強いらしい。人は見かけによらない。クラスじゃタダのエロ将軍なのに。
年洋はいつものように一人で帰ろうとする。
生徒昇降口の方へ曲がろうとした時、昇降口側から来た誰かとぶつかりそうになった。
「おっと、すいません」
年洋が足を止めると、目の前には塩里さんがいた。
塩里さんの身長は年洋よりやや低いぐらい。年洋自身は身長が高い方でも無いが、塩里さんは女子でこの身長になると、高い部類に入る。
「え……」
突然の出会いに、年洋は戸惑っていた。
「あ、あなたは同じクラスの……。――ゴメン。今名前が分からないけど、朝ウチの近所にいなかった? なんとなく見覚えあるから」
「近所というか、家がはす向かいです。今朝、塩里さんが家から出てくるの、見ました」
ちょっと怪しい人物と思われるかな? なんか自分で『見てた』と言ってしまったが、その行動はずっと見ていた感が有った。どう考えてもストーカーっぽい。
しかし、
「え? 家がすぐ近所なの?」
驚く塩里さん。そこは気にしていない様子だった。
「だったら、一緒に帰らない? ちょっと忘れ物取ってくるから、そこで待ってて」
「え?」
年洋が返事をする前に、塩里さんは早足で教室へと戻っていった。
「――あのぉ……馬、来ちゃったんですけど?」
一人、廊下に残された年洋は再び戸惑ってしまう。
転校生と一気に距離が縮まっている気がする。この事は天瑠に黙っておこう。絶対に。
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