第8話 七

「あぁ、そういえば、超イケメンの身体が空いてたわね……」


「え? じゃあ、そっちで!」


 まだ、なんとなく夢とかそんな感じがする。現実感がないというのか……。というよりも、夢にしたい俺がいると言った方がいいのか……。


「半漁人だけど、そっちがいい?」


「半漁人?」


「身体が魚で、人間の手足がそれに付いている感じね」


「……」


「とってもぴちぴちしてるわよ」


「え? じゃあ、こっちでいいです」


「っていうか、なんか人ごと? 普通なら、自分が死んだとか聞いたらもっと落ち込んだり、信じられない! って騒いだり、泣き崩れたりするんじゃないの?」


「あーうん……。ごめん、まだなんか現実感がないっていうか……。なんだか、アニメを見てるとかラノベを読んでいるとか、そんな感じなんだ」


「まぁ、いきなり死んだって言われても、この状況じゃ確かにね……」


 それもあるけど、俺、これからどうすればいいのか分かんないってのもある。これがアニメやラノベなら、なんか魔王を倒しに行くとか、とりあえず冒険とかあるんだろうけど……。俺の今の状況って、応急処置? そんな感じなんだろう?


「とりあえず、今日のところは帰るわ」


「え? 帰る? 俺、どうすれば?」


「普通に過ごしてればいいんじゃない?」


「普通って言われても……。俺、この子のこと何も知らないし……」


 未だに現実感もないし、このままじゃどうしていいんだか……。


「明日、また来るわ」


「……」


「そろそろ、限界だしね」


「限界?」


「そう。この部屋だけ、別の次元の扱いになってるのよ。あなたと話すのを邪魔されないようにしたかったし……。それに、場合によっては色々と……ね?」


 ね? って何? なんか嫌な感じがするのは気のせいだろうか?


「ということで、今日はもう限界だから明日ね」


 なんだろう? なんかの魔法を使っていて、それのタイムリミットってことなのか? 


「明日、また来るから詳しい話はそのときね」


「待って!」


「何?」


「これって、本当に夢じゃないのか? ここってどこだ? 俺はどうなったんだ?」


 アナトが、ふぅっと溜息を吐いた。


「自分の状況を少しは理解してきたってところ?」


「理解するもなにも、何の説明も無かったんだが? これで、どうやって理解しろと? 夢だと思うのが一番無難だろ?」


「だから、そういうのも全部、明日ね」


 アナトがそう言い終わると、凄い勢いでドアが開いた。


「ミーナ! お父さんたち心配して帰ってきてくれたよ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る