人格矯正プログラム
ボウガ
第1話
AIが人間社会の中心を支配するようになった近未来のある国の事。
刑罰も進化し、死刑は残虐なものとして廃止され、その代わり重罪人にはある更生プログラムが適応された。初めは死刑廃止に対する反対の声も多かったが、実際それが実行されるようになってから人々の見る目が少しずつ変わっていった。かつて一切反省の色をみせなかった重罪人が、自分の罪を重く反省したり、人が変わったように、態度がよくなったり、犯罪に巻き込まれた被害者や周囲の方々、加害者周囲の人間にもそのプログラムは好評だった。
様々な憶測がたち噂がされていた。事実その更生プログラムには、秘密が多い。噂では犯罪に巻き込まれた人々が更生プログラムに参加しているとか、私刑めいたものが実行され、犯罪者の心に攻撃を加えるのだとか、あらゆる噂がながれた。
だが、刑務所を担当する法務部門のAIは国民にこう説明していた。
「私刑は絶対にありえない、そんなものでは、極悪人の心は生まれ変わらない、秘密のプログラムを実行しているだけだ」
それでも人々が疑問に思わなかったのは、その国は超高齢化により人的資源が少なくもう社会の大部分を知的なAIにまかせて運営していたからだ。AIが何を秘密にしていようが、何が影で行われようがそんな国に、それを調べたり、そのために関心を集めたりという余裕などなかった。
一部の人間だけが、その更生プログラムの内容を知っていた。機械が支配していてもその機械を監督する仕事につく重役の人間もいて、彼らだけがその事実をしっていた。たとえば法務部門なら法務担当AIの監視をする人間がいるのだ。彼らの知るところによると、事実として私刑などは行われていなかった。ただ少し非人道的な事も行われていたのだった。けれどそれに対する不満や反対の声をAIたちは沈めていった。多くのコミュニケーションのリソースをさく事と、情報の偽造などによって。
とくに極悪人、それも、一切反省しない犯罪者に行われる更生プログラムはナノマシンを利用した、細胞レベルでの“更生”だ。ナノマシンを無理やり寄生、強制させ、感情や思考の働きを常人のソレに置き換える。そう、“反省”などというものを知らない犯罪者もいるわけで、彼らを反省させることは不可能なのだ。そう判断したAIは彼らを更生させたり無理やり更生したように見せかけるのではなく、彼らを“置き換え”それを犯罪に巻き込まれた人間たちに見せることによって、犯罪によってうまれた苦痛や、悲劇を社会から抹消しようとした。それは事実として成功した。この事実をしる人間たちを黙らせたり、反対する人間たちを説得することのほうが、変わる意思をもたない犯罪者を更生させるより、何倍も簡単だったからだ。
もちろん真実を知った時には、人は愕然として言葉を失う。たがAIは真実をしった彼らにこう説明するだけでよかった。
「あなた方の社会は、“まともな人間”つまり“平均的な倫理観を持つ人間たちのための社会”だ、それを逸脱した人間と理解しあえるだの、本気で思わないほうがいい、事実そんなプログラムは組めなかった、刑は、罰は、“まともと思われない人間に対する罰”だ、生まれながらにして、人間に憎悪をもったり、倫理観を持たない人間たちに対して、あなたがたは“人道的”に支配をしたり、攻撃を加えたり、罰を与えたりしてきた、それは倫理観を植え付けようとしたのだ、同じように私たちAIは“人道的支援”をして、“まともな人間”に更生する、人々は、彼らの死は望まずとも彼らの生まれ持った人格を必要とはしていないのだ」
人格矯正プログラム ボウガ @yumieimaru
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