第88話 へっぽこ兵器大国転生者と謎だらけの科学帝国
「おいおいおいおい!お前、俺の領地で何やっちゃってくれてんだよ!!」
ふむ。
なにやら、後ろで怒声を浴びせてくる奴がいる。
ブチッブチッブチッブチッブチッ
今、制御ケーブルを引きちぎっているアンドロイド兵士には、声帯機能が組み込まれていない。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
という事は、今、後ろで喋っているのは兵器開発の中心人物。
つまり、この世界に送られてきたミリタリーヲタクの転生者という事になる。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
が、後ろを振り向く気はない。
今、俺は忙しいのだ。
この世界から、ちゃっちゃとおさらばするために、早くアンドロイド全員の制御ケーブルを切って、一体でも多く無力化して、閻魔経由で地下施設に運び込まなければいけないからだ。
制御ケーブルを引きちぎる際、アンドロイドの構造は把握している。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
アンドロイドの機能には、声帯機能がない、制御の信号は電気ではなく、電波でもなく、異世界ならではの念話…いや、もっと繊細な思念伝達で各個別々の指示を与えていると思われる。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
発信源があるから受信できるわけなのだが、3万体ものアンドロイドを別々に3万通りの命令を一気に伝達するのは、尋常じゃない能力だ。
これだけで、転生者だとわかる。
転生者には、転生者特典というものがあるらしいからな。
(あいにく、勝手にその場から立ち去った俺には与えられなかった特典だがな…)
その転生者特典に、知識神がその知恵を与え、その知識を形にするために、技術神が能力を与えた…といったところだろう。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
(ふむ。順調)
「まてこらぁー!!人の話を無視して、俺の兵士をどんどん無力化してんじゃねーよ!!」
おや?
わざわざ追いかけてきたのか?…声の感じから、ざっくりと10kmは移動していたみたいだ。
まぁ俺は、片っ端からアンドロイドを無力化しているので、転生者の声から距離を測定しただけなんだが…。
「ずいぶんと…」
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
「お怒りじゃないか」
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
「だーかーらー!俺の兵士達を無力化してんじゃねーよ!!この侵略者め!!つか、人の話を聞けぇーーー!!」
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
うるせーなぁ…。
「え?聞いてるけど?」
仕方なく振り向くと、転生者らしき男は、遥か後方に地団駄を踏んで、顔を真っ赤にしてフーフー言っている。
プッ!
体力無さすぎだろ?お前…。
と、心の中で指を刺して笑ってやった。
☆☆☆
しばらく見ていると、何だが哀れになってきたので、俺はしばらく待ってあげる事にした。
建前としては上等な理由だろう。
(まぁ、兵器は回収済みだしな…あちらはイノリ達が段取り通り進めているだろうしな)
これが本音である。
俺が兵器大国の物質をマルっといただき、イノリ達が科学帝国のナノマシン除去及び、設備をマルっといただく。
性能の悪いナノマシンが埋め込まれた人体では、いずれ細胞から劣化して治療が出来ない謎の病気で死を迎えてしまう。
そして、遺伝子操作されて培養されたバイオ食料では、これまた人体に多大な悪影響を及ぼしてしまう。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
兵器大国は、明らかに科学帝国に対して、武力を持って敵対しているのは明らかであり、どう考えても知恵神と技術神の加護が、悪い方へ偏って付与されたのは言うまでもない。
そして、統括神の他力本願的管理も…だ。
神なら神らしく、こんなに世界がこじれてしまうまでに何とかできたはずなのである。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
結論から言えば、この世界は別世界からの移住者で成り立つ世界にしてしまおうという計画である。
悪人の地獄送りは決定しているが、その他、俺の飛ばされた世界で保護をした奴隷などの罪なき住民は、とりあえず地獄で住まわせているのだ。
閻魔曰く、「地獄が地獄ではなくなってきた」とか、「いっそ魔界にしたら?」とか、クレーム対処に追われているとの事。
『魔界』とか、天界に仇なす命名は原神たる俺の望むところではない。
魔界→魔族→魔王
この流れはいただけない。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ
地上で封印されるような弱い魔王は眼中にないし、次元牢獄や無限牢獄などの異空間に隔離された手のつけられない魔王の核は、ことごとく俺が体内に取り込んでいる。
地獄が魔界になってしまうと、俺が魔王になる可能性が出てくる。
まぁ、全部閻魔に押し付ける事にはなるだろうが…。
また、あの世界で保護した住民は、そのまま残していると、いまだ放置している支配神に目をつけられて、これまた面倒くさくなるので、あえて地獄で保護という形にしてあるのだ。
って、まだ来ない…。
え?待ってないだろうって?
いやいや、余裕で3秒は待った!
それで追いついてこない奴が悪い!
俺は忙しいのだ!
☆☆☆
チュィィーーン!!
ズッドォォーーン!!
そうこうしているうちに、事は起きてしまった。
科学帝国が、兵器大国に対して攻撃を仕掛けてきたのだ。
「え?」
流石の俺も、これには度肝を抜かれた。
まぁ、もっとも俺がすべての兵器を回収し、起動しなくなった兵士を回収した、ただの要塞、城壁に向かってだが…。
そりゃあ、対抗する兵器や武器も、応戦する兵士もいないがらんどうの建物なら、攻撃し放題だ。
ピカドンならぬ、チュイズドン。
見た限りでは、レーザー光線の類だと推測できる。
…が、建造物は消し飛んでおらず、瓦礫の山になっているだけだ。
意味がわからん。
いっそ、すべて消し飛ばしてくれたら、後々助かるのだが、ちょー中途半端である。
「イノリ!そっちで何が起こっている?」
『いえ、わかりません!点在している科学帝国の、どこかが何かをした…としか…』
ふむ。
全く答えになっていない。
とりあえず、イノリ達がいる区域以外からの攻撃らしい…という事はわかった。
が、イノリ達は、ヨーコ、ミーコ、レーコ、チーコの総勢5人とチーコの眷属になったレッドマウスライム数百匹。
それなのに、他の区域を意識できていない。
つまり、俺的には「ナノマシン除去に時間かかりすぎじゃね?」って事だ。
何が起きている??
俺は、いつまでも追いついて来ない兵器大国の転生者の事をすっかり忘れ、科学帝国の様子に一抹の不安を感じていた。
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