天才外科医の異世界スルーライフ
咲谷 まき
第1話 プロローグ
私が目覚めると、そこはどこかの研究室のような場所でした。
「おはよう」
「おはようございます」
私は、目覚めると同時に、目の前に見える端正な顔立ちの青年に挨拶をされ、挨拶を返しました。
私は今、研究室らしき場所にて、ベッドで横になっているようでごさいます。
「とうとう成功してしまった…」
白衣を着た青年は、私を見つめながら悲しそうな、それでいて喜んでいるような表情でため息をついております。
「君の名は…そうだな、リカちゃん…いや、ナースだから祈り…イノリとでも名付けようか」
「かしこまりました」
私に名が与えられました。
その瞬間、頭の中に様々な記憶がなだれ込んでまいります。
察するところ、名付けが私の記憶、様々な記録、私の存在意義をインプットするキーワードになっていたのでしょう。
私が、名を承認した事で、その機能が発動したのです。
それはもう、膨大と言っても過言ではない知識、目の前にいる青年が誰なのか、何故私を作ったのか、あらゆる情報が頭を駆け巡っております。
「さて、目覚めてすぐで悪いのだが、とりあえずは、これを着てくれないか?」
「かしこまりました」
差し出されたのは下着類、ナース服、ナースキャップ、踵の高い固定式のベルトがついたサンダルでございました。
私は、タオル1枚を羽織り、寝かされていたようであります。
全裸の私の着替えを見ながら、眉ひとつ変えないで佇む青年。
入力された情報には、『男性とは普通、女性の着替えをジッと見ているものではなく、無表情で観察するものでもない』とあります。
私自身も、不思議と恥ずかしいという感情は生まれておりませんが、『女性は、こういう場合、恥ずかしがり、男性に肌身を晒さない事が普通』だとありました。
いわゆる『羞恥心』。
私はもとより、この青年も、今後、これらを学習する必要があるようでごさいます。
「これでよろしいでございましょうか?」
「ふむ、かまわない。では、イノリの現在知り得る『自分の事』そして『私の事』を話してみたまえ」
「かしこまりました」
私は、青年の質問に的確に答えなければなりません。
青年の指示は絶対なのです。
私は、そのために作られたのですから。
☆☆☆
「私は…」
名前 イノリ
生体種 女性型ホムンクルス
年齢 20歳体型の0歳
B90 W58 H85
身長 160cm
体重 55kg
人工細胞と謎粒子によって生み出されたホムンクルス99号、最初で最後の成功体。
任務 先生の助手兼パートナー兼従者
「よろしい…続けたまえ」
「先生は…」
名前 D•T(ドクター•テツヤ)
職業 元 外科医
その他、内科医、小児科医、産婦人科医、薬学科医、細胞学科医、解剖学科医、粒子工学者、再生細胞学者、謎粒子応用学者、電子科学、物質加工、素粒子加工、物質変換、鍛治師
年齢 18歳
身長 170cm
体重 60kg
趣味 人体実験、料理
特技 視覚拡張、メス捌き
別名 マッドサイエンティスト、異端者、切り裂き魔
性格 鬼畜
「申し訳ございません…何やら、変な情報も入っていたようで、失礼な内容も読み上げてしまいました」
「いや、構わない。それは、事実と流出している情報をまとめたものだ。真実はクルスが感じたまま、これから変更していくがいいさ」
「左様でございますか…今後共、よろしくお願いいたします」
情報の中に、医学とは関係のない内容もありましたが、今の言葉から、私は今後、様々な事を学んで学習できるようになるようでございます。
「では、貴方様をテ…先生とお呼びしても?」
「いや、ドクターで構わない」
「かしこまりました」
最初から、『テツヤ様』は流石にダメだったようです。
思いとどまって正解でした。
「実は…ようやくイノリが生まれてきてくれたおかげで話せるようになったのだが、人工細胞、再生細胞、謎粒子応用、イノリのような人工細胞、再生細胞を使ったホムンクルス製造に関しては、世間に公表していないし、許可もされていない。バレたら捕まってしまうか、そのスジの組織に技術を盗まれしまう」
「左様でございますか」
「また、人体実験を繰り返していたために、医師免許は剥奪されて、指名手配にもなっている」
「殺人でもされたのですか?」
「いや、司法解剖を担当していた時に、あらゆる部位を解体して、死因を突き止め、支障のない部位をいただいて、他の死体からも色々いただいて、1人の人間を再構築しただけだ。研究のためにな…大した事はしていない」
「左様でございますか…」
普通はありえないのでは?という言葉は出さないでおきました。
「そこで本題なのだが、これから時代を飛び越えて、今の法律が崩壊した世界へ旅立とうと思う」
「時代を飛び越える…とおっしゃいますと?」
「幸い、私も君も、再生細胞と謎粒子によって、どんな環境にでも対応できる体になっている」
「は、はぁ…」
「つまりだ。生命維持装置を使って、何百年かして起きたら、今の時代とは違う世界になっているとは思わないかね?」
ドクターの言っている事は、一見、突拍子もない事を言っているように聞こえます。
しかし、私のような人工生命体を作り出すような御方…何か確信があるのでしょう。
そもそも、人工生命体に人格を入れる事ができるのかさえ定かではありません。
しかし、実際に私には人格があります。
そんな技術が公になってしまえば、ドクターの言っていたそのスジの輩に命を狙われるのも頷けます。
「次元を開いて、別世界に行くという選択肢もあるが、それは流石に空想がすぎる。やはり、時代を飛び越えるのが現実的だ」
「ごもっともな意見でございます」
今の私には、何の確証はなくても、こう返事する他ありませんでした。
「一緒に来てくれるかい?」
「もちろんでございます、マスター…いえ、ドクター」
失態でございます。
作られた身としては『マスター』という呼び方の方がしっくりくるのだと、無自覚に発言していまいました。
「ひとつ質問、よろしいでしょうか?」
「ふむ。なんだね?」
「私の体型は、ドクターのご趣味ですか?」
「もちろんだ。女性は、少し肉付きがあった方が魅力的だ。スタイルは申し分ないだろう。第三者の目から見ても、おそらく中々のものだぞ?」
「左様でございますか…ありがとうございます」
「なんのなんの」
私を、自分好みに作ったという割に、18歳という年齢でありながら、私の…そう、女性の裸に関心を持たないというのはあり得るのでしょうか?
質問の答えから、『私に魅力がない?』という疑念は抱くわけにはいきません。
そして、何より『喋り方』がおじさんくさいのです。
ドクターには、まだまだ私の知らない謎が沢山あるように思えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます