張元伯という男
方糖
第1話
「おい、
「はいよ!」
活気のある小さな
ゆっくりと茶を
「おい、おやっさん。こっちにも包子5つ。」
強引に空いている席へと滑り込んできた4人の見るからに人柄の悪そうなゴロツキが先に座っていた細い
青年は床に落ち、土まみれになった包子を見て名残惜しそうに眼を
皿に残る1つきりの
逆光によりその
歳は自分より若いだろうか、十七・八歳くらいのその若者はゆっくりと身体を折ると自分が居座っている座卓から見えなくなるまでしゃがみ込み、先ほど惜しまれた土まみれの
よもや、その落ちた包子を食べようというのか!?実は何日も何も食べていなくて!?
私は慌てて手を伸ばして若者の行動を制そうとした。そんな物食べなくていい、そんなにお腹が空いているならこのもう1つの
「痛てぇ!なんだ!!」
「うきゃぁあ。」
痛いのは相手なのに思わず自分の口からも奇声をあげてしまい、すぐさま口を手で覆った。いやいやいや、ありえないだろう、何をしてくれてるのだこの人は!
「お前たちが落とした
私の心配をよそにその若者はまるで木のように真っすぐに直立し、なんとも凛々しい。この男こんなに細身で私と変わらない書生のような容姿なのに、実はすごく腕が立つのでは?と若者の頭から足元まで見返しながら期待に口を
何せ彼は額に青筋を立てた自分の頭分大きいゴロツキ4人を目の前にしても、全く微動だにせず鋭い
「お前かぁ?俺の頭に物投げたのはぁ。」
期待したのも束の間、世は無常なり。
ひときわ大きいゴロツキが唾を飛ばしつつ怒鳴りつけたのは自分だった。私は虐められた亀のように縮こまり、手と頭を振って否定する。だが、ゴロツキ達の勢いは止まらない。
「何言ってんだ!あそこに落ちてるのはお前の包子じゃねえのかぁ?」
別のゴロツキが落ちている包子を指さして迫ってくる。
「そ、それはそうですが…はは……」
もう笑うしかない。どうせ勝てっこないから反抗するのを我慢したというのに、結局自分が相手をする事になるとは。私はこの現場を作り出した張本人へと視線を送った。彼はゴロツキ達の後ろに追いやられ、自分を指し頭を
店の中で睨みあう、否、一方的に睨みつけられる中、店主が迷惑そうに「喧嘩するなら外でやんな。」と声を張り上げるので、律儀にもゴロツキ達は私を外へと押し出した。
周りを見回すも私以外居ない。助けはなさそうだ。私は絶望した。これから始まる痛みを少し…いや凄く我慢すれば済むことだ。まさか死にはしないよね?
ゴロツキ達は拳の準備運動をしながらじりじりと私に近づいてくる。私はから笑いしつつ後ずさる。万事休す、自分の拳の倍はありそうな岩が振り上げられ、私は唾を飲み込んだ。
「待て。」
今にも振り下ろされそうだった拳がぴたっと止まりゆっくりと降ろされると同時に、店の中から出てくる若者へゴロツキ達の視線がいっせいに向く。
彼は私の隣までくるとやはり自信満々に直立してゴロツキ達を見据えた。待ってました!というか遅いよ、君。
「暴力をふるうのは見過ごせない。お前たち、揃いも揃って大の大人が恥ずかしくないのか。」
「なんだてめぇは!」
ゴロツキ達は今初めて気づきましたというように彼に
「関係ないやつは黙ってろ!」
ゴロツキの言葉に私は少々恥ずかしくなりながらちらっちらと指で彼を指した。彼こそがあなたの頭に包子を投げた方ですよ。
「君子にあるまじき行為だ。見過ごせない。」
うんうん、かっこいい事言ってますが原因あなたですからね?包子を頭に投げつけるのは君子なんだろうか。
私は矛先がそれてホッと胸を撫でおろした。どうやら痛い思いは免れそうだ。それから暫く彼とゴロツキ達の言い合いが続いた。
そろそろ解放してもらいたい。お腹も空いたし。
「元はといえばそいつが包子を投げるのが悪いんだろうが!」
ゴロツキが急に自分を指差す。
ああ、また矛先が戻ってきた。いや、言う相手間違えてますけどね。
「先に無礼を働いたのはお前達だろう。先に謝れ。」
私は半ば呆れ気味に若者の凛々しい顔を見つめる。
「もういいですって。お互い謝って終わりでいいじゃないですか。」
「元はといえばお前が。ええい、面倒な。一発殴れば済むことだろう。やっちまえ!」
ああ、やっぱり最終的にこうなるんですね。まあ仕方ない。さあ、君、やっておしまいなさい!
私はやれやれと首を振って彼に期待の眼差しを送った。彼は私に深く
???
「逃げるぞ。」
彼が私に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でぼそっと呟くと次の瞬間、私が理解するより早く半ば強引に引っ張るように走り出した。
「ああ!待て、この野郎おおお!!!」
出遅れたゴロツキ4人は巨体のせいか足が遅い。自分達との距離はどんどんと開いていくのであった。
ー続くー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます