04



 あいつの誘いは断ったけれど、俺は後をつけることにした。あいつが出かける日は分かっている。後はあいつの居場所を知ればいいだけだ。普段ならこの街のコミュニティを利用することも多いけれど、そのときは俺の勘が一人での行動を薦めていた。

 俺の行動は常に迅速だ。立ち去ったあいつの背中が視線から消えるとすぐに椅子から立ち上がる。そしてそのまま追いかけていく。

 俺の居場所は俺がいなくても守られている。俺はたまにギターを弾いて歌ったりもするがギターは常に置きっ放しだ。以前は毎日持ち運んでいたけれど、今ではその必要がなくなっている。ギターをケースごと置ける隙間がある。そこに置けば雨にも濡れない。例え俺が地べたに置いたままいなくなっても、街の連中が片付けてくれる。椅子も畳んでくれるよ。

 まぁ、俺はこの街に甘えている。

 あいつの家は遠かったよ。歩いて五十分。急な坂道を何度も上がっていく。

 電車を使っても帰ることは出来るけれど、最寄り駅からでも二十分は歩かなくてはならない。待ち時間やらを考えると歩く方が楽だと考えてもおかしくはない。あいつはコンビニに寄って酒とおにぎりを買っていた。それを歩きながら楽しんでいたようだけれど、追いかける側とすれば大きな疲労でしかなかったよ。酒も飲めなかったしな。

 あいつは一軒家で家族と暮らしていた。驚いたよ。あいつには妻がいて、子供が二人もいたんだ。なにがどうすればあんな思考になるのか不思議だ。

 あいつはその日、家族と共に出かけて行った。どういうつもりなんだ? 俺も一緒に家族サービスの予定だったのか?

 まず先に向かった先は俺が薦めた場所ではない。車感覚では近くではある、子供も楽しめる大きな公園だった。

 俺はあいつの後を車で追いかけた。普段の尾行やら追跡にはバイクを使うことが多いが、高速道路を利用する際は物凄く目立ってしまう。小回りの効く愛車を使用した。

 目的地に着いたとき、俺も家族を連れて来ればよかったと一瞬感じたよ。まぁ、あいつは家族を降ろすと一人山中に車を走らせたんだけれどな。

 俺は距離を取って後を着いていく。山中での尾行は街中よりも難しい。

 山道のちょっとした路肩で停車したあいつは、トランクから取り出した大きめの鞄を肩にかけて山の中に入っていた。

 俺は少し先まで車を走らせる。あいつからは見えない場所で車を止めた。まぁ、あいつの行動は読めているからなにも問題はなかった。

 パァン! パァン!

 車のタイヤがバーストしたような乾いた響きが聞こえてくる。

 バンッ! バンッ!

 少し重たい響きの音が後に続く。

 あいつが試し撃ちをしていることを確信した。

 ほんの僅かだけれど、火薬の匂いが飛んでくる。

 俺も山の中を進んでいく。あいつの姿は見えなくても、銃声は聞こえてくる。二種類の銃声。あいつの銃声は、重たく響く。

 それは単純に手製だからってだけじゃない。あいつの感情がこもっているからだ。

 俺はあいつが銃を構える姿を目にしている。あいつの眼差しが怖かった。

 あいつは御丁寧に顔写真付きの的を用意していた。時の総理大臣と天皇陛下。二種類共に顔面に命中している。胸にも穴が開いていた。

 あいつのお手製銃は、物凄い性能だった。

 その後も俺はあいつを尾行したけれど、他には特に怪しい動きはなかったよ。公園の駐車場に戻り、家族と合流して休日を楽しんでいた。

 翌日も俺はあいつのことを追いかけた。現在と過去の情報を手に入れる。そしてあいつの闇を知った。

 あいつは今、幸せに暮らしていた。それは、過去を捨てたからだ。あいつはたった一人血の繋がっている母親との縁を完全に切っている。

 後にシャシャリ出てくる叔父っていうのは実在ではあるけれど、あいつの過去には全く絡んでいない人物だ。その殆どが作り物だった。妹ってのも同様だ。あいつの周りには架空の人物がやたらと多い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る