02
あいつには手を焼いた。
あいつはまるで普通に会話をしていたんだ。聞き屋のところには単純に人恋しくて会話を求める輩が圧倒的に多い。
あいつも始めはそんな輩の一人に過ぎなかった。
人を殺してみたいんだ。
突然あいつがそう言ったのは、出会ってから三ヶ月も過ぎてからだった。
そのために銃を自作している。今度試し撃ちをしたいんだけれど、どこかいい場所知らないかな?
この街のことは大体把握しているが、試し撃ちに適した場所はない。物静かな場所はあるけれど、人のいない場所がない。何処にいたとしても、銃声は誰かの耳に届いてしまう。そんな距離感の街なんだ。まぁ、隣町に行けばそんな場所も多いけれどな。
結局俺は、隣町ではないけれど、伊勢原の射撃場近辺の山中をオススメした。あの辺りは住宅があってもその距離感が遠い。そしてなにより射撃の音に紛れてカモフラージュができる。例え誰かの耳に届いたとしても、いつものことだと思われてお終いだ。
あいつは俺に、一緒に行ってくれないかと言ってきた。
断る理由はないけれど、受け入れる理由もなかった。
俺は基本銃が嫌いなんだよ。命を奪う為の道具は好きになれない。ナイフや爆弾は、そもそも殺傷目的以外で発展しているんだから仕方がない。後は使う側次第ってことだ。まぁ、刀なんてものはその起源も銃と同じかも知れないがな。
その日は他の用があるんだ。別の日ならついて行くけどな。
敢えて予定日を聞き出してからそう言った。
するとあいつは俺の思い通りの言葉を返してくる。
そうだね。この次またお願いするよ。今回は様子見がてらだし。実際に撃つかどうかも決まっていないんだ。
まさか俺で試すってことはないだろうな?
俺はほんの少し頭を下げてあいつを見上げるようにしてそう言った。
そんなまさか。あいつはハニカミそう言った。そしてこう続ける。
標的はちゃんといるよ。
誰なんだ? っていう言葉は声にはしない。
総理大臣・・・・ もしくは天皇だよ。
人って奴はわざわざこっちから聞き出さなくてもペラペラよく話してくれるんだ。少しのきっかけと視線で誘導すればな。
動機なんて必要ないね。僕はただ人を殺したいだけなんだ。けれど、誰でもいいってわけじゃない。世界中が騒ぐようじゃないと意味がないんだ。僕はオズワルドになりたいんだから。
俺はジッとあいつを見つめた。その目の奥にある真実を掴まなくてはならない。
あいつは嘘をついているのか? そうとは思えないな。けれどあいつに闇があるのは確かだ。それを調べる必要はあるなと感じた。
試し撃ちが上手くいったらまた来るよ。
あいつはその他にもペラペラ喋った後にそう言った。そしてここから立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます