エンジェルカラー

@hisagi69

第1話 無色透明

俺は大学生活に失敗した。特に何かそれと言ったキッカケや大きなミスとかがあった訳では無い。単純に、面倒くさくなってしまったのだ。大学の講義・課題・人間関係・サークル等、その他あれこれに面倒くさくなって、大学に行くのをサボり出して、そのまま引きこもりになった。家で1人で過ごす時間は気楽で良い。好きなときに寝て、好きなときにメシを食って、好きなときに漫画読んで、アニメ見て、YouTubeを見る。そんな自適悠々な生活をおくっている。生活資源は親の仕送りで何とかしている。特に物欲も無いのでそんなに困ってはいない。

「あー、退屈だな。」何となく呟いた。特に何も起こらなかった。「なんだよ、こういう時はよ、何かしら起るべきだろ?急に俺に不思議な力が湧いてきて、それで謎の敵をぶっ殺しまくる!」幼稚な妄想だ。いつもこんな妄想をしてる。漫画の影響だろう。俺はいわゆる厨二病という不治の病に侵された病人らしい。暇な時間があれば、現実には起こりえない妄想を繰り返し、その度に自分は何をしてるんだろうと、自己嫌悪に陥るまでが一連の流れだ。「はぁ、俺の目の前に急に美女があらわれて来んねぇかなー」そんなことを思ってたら、突如ベランダから大きな物音がした。「ん?なんだ?」随分と大きい物音だった。恐る恐るベランダに近づき、ベランダに続く戸を開けてみる。そこには、綺麗な白髪ロングの女が転がってた。「…ん?」驚いて声が出なかった。(待って、誰なんだこの綺麗な白髪ロングの巨乳美女は?!いやいな、てかなんで俺の部屋のベランダに?)色々な疑問が頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。だがとりあえず平静を保ちつつ、女性に声をかけるとこに。「あの〜、大丈夫ですか?どこかお怪我でもされてるんですか?」「ん、…ここは?」女性が気がついた。「あの大丈夫ですか?」「あっ、はい!大丈夫です!すみません急に!」「いやいや、それは全然大丈夫なんですけど、どうしてここに?何があったんですか?」「天魔大戦だす…」てんまたいせん?この女性が言葉にしたその単語の意味が理解出来なかった。「あの、それってなんなんですか?ゲームか何かの設定?」「いえ、そんなものではありません。我々天使と、我々の天敵である悪魔達の戦争の総称です。」言ってる意味が分からなかった。「戦争?まてまて、本当に何を言ってるの?」「貴方達人間には理解が及ばないのも当然です。これは天界で起こったものなのですから。」「…まあ、とりあえず色々あるんだろうけど、俺の聞きたいことは1つだけ。何故俺の部屋のベランダに?」「それは、貴方に重要な役目が与えられたので、それを伝えに参りました!」「重要な役目?誰から?」「我等が主、大天使ミカエル様です。」「ミカエル?あのミカエル?」「はい!あのミカエル様です!」この、女性の言ってることが本当かどうかは分からないがどうでもいい。何となく面白くなりそうだから、彼女の話を聞いてみることにした。「あの、それで俺に与えられた重要な役目っていうのは?」「はい!貴方に与えられた役目とは、悪魔を倒すという役目です!」「…はい?」「ですか、悪魔を倒すと仰ったのです!」「ふーん、そうなんだ〜」「はい!頑張ってくださいね!」「うん!任せろ!」つい勢いに任せて返事をしてしまった。悪魔を倒すとは具体的にどういうことをするのだろうか。まあ、なるようになるだろう。そんな軽い考えのもと、俺は悪魔を倒す役目を全うしようと決意した。それがどんな事態を招くかも考えずに。「で、あなたの名前は?」「ああー、申し遅れました。私はマリア。天使が一人マリアと申します。以後お見知りおきを!」「マリアさんね、俺は佐藤楓。気軽にかえでって呼んでくれ。」「かしこまりました!楓様!」「様はなんか照れくさいなー」「うふふ、あっそうだった!諸々説明しなきゃですね!」「ああ頼む」俺は色々聞いた。天魔大戦が起こった経緯。この戦争は人間界をも壊しかねないとんでもないものであること。そして、悪魔と戦い倒す方法。「なるほどなー、要するに、あんたの上司の大天使さんと、悪魔の上司の、悪魔王のいざこざが原因なのね〜」「はい!簡単に言えばそういうことですね!」「そんないざこざが、どんどん大きくなってしまい、人間界をも壊しかねないヤバい事態に発展したのか。でもよ、人間界っていうか、俺たちの世界には今のところ何も変化とかは無いぞ?」「たしかに、今は何とも無いかもしれないです。ですが事態が悪化すれば…」「分かった。俺はマリアさんのことを信じて、悪魔と戦うよ」「本当ですか!ありがとうございます!」正直、怖い。悪魔がどんなのかは知らないが、恐らくとてつもなく恐ろしい存在なんだろう。「そういえば、マリアさんの姿って…」「はい!これは私達天使の能力で、貴方達人間に変化してるんです!」「へぇー、やっぱり天使ってだけあって、色んなことができるんだなー」そんなことに感心していた。「あっ、でも悪魔と戦うって言っても、どう戦えば良いんですか?俺にはそんな能力とか無いと思うんですけど。」「そこは心配なさらないでください!私が貴方に能力を授けます!」それを聞いた途端ワクワクした。俺にも特殊な能力が目覚めるのか!と。「どんな能力をくれるんですか?!」「それは分かりません!」「…は?」「ですから、分かりません!」何を言ってるんだこの女はと思った。「私達が貴方に施すのは、ただあなたの中に眠る潜在能力、色(カラー)を目覚めさせるだけです!」「カラー?」「はい!このカラーというのは人によって様々なんです。ですから、どんな能力を授かるのかは私達にも分からないのです!」「なるほど、面白いね!早く開花させて!俺のカラーを!」俺は楽しみだった!俺の中にどんな力が眠ってるのか、どんな凄い能力を得るのか。(なんの力なんだろう?やっぱり炎とか氷を操る能力か?それとも身体能力強化か?或いは時を止めたりなんどのチート能力だったりしてー!)そんな妄想を繰り広げた後に、俺の潜在能力を開花させる儀式が始まった。「それでは、儀式を始めます。」「はい!お願いします!」「主よ、我が天使の声を聞きたまえ。主よ、彼の心に呼び掛けよ。今ここに目覚めよ色(カラー)。エンジェルカラー!」彼女の呪文?と共に俺は光に包まれる。「おお!なんだ、力が湧いてくる!」少しすると光は収まった。どうやら儀式が終わったらしい。「儀式終わったの?」「はい!完了です!貴方の色(カラー)が目覚めました!」「おおー!どんな能力なの!炎とか操れる?時止め能力?」「待ってて下さい、確認します!」そう言って彼女は俺の胸辺りを見始めた。それから数分の間無言になった。「あのー、どんな能力だったんですか?」恐る恐る聞いてみた。「…あなたの色(カラー)は、無色です。なにも無いんです…」「え?いやいや嘘?」「本当です。色が無いんです。能力も…」理解出来なかった。ワクワクしてたのに、無色?能力がない?「そんな馬鹿なことあるのかよ!」「分かりません。普通なら何かしらの色が出てきて、その人の能力が顕現するはずです。これは今までにないケースで、私にも何がなんやら…」絶望した。能力を目覚めさせても俺には何か特殊な能力は無いらしい。現実でも上手くいかず、こんな特殊な状況でも、俺には何も出来ないらしい。全く笑い話にもならない。ゴミみたいな話だ。「…悪魔と戦わなきゃダメ?」「私は強制しませんが、色(カラー)が目覚めた以上、悪魔達は貴方を放って置くことは無いです。」「要するに、無能力で悪魔と戦うしかないと?」「…はい」「ふふ、へへ、あははははは!」

「?!」笑いが込み上げてきた。意味もない、感情もない笑いが。「はぁ、分かったよ。やってやる。どんな手を使ってでも。悪魔を倒す。」「はっ!では私と共に戦ってくれるのですね!」「ああ、良いぜ。」「良かったー、ホっとしました!」「悪魔を倒したら、次はあんたら天使達だ」「…え」俺はどうでも良くなった。能力が開花しなかったのもそうだが、そもそも今の人生がウザかった。だから、こう思った。(悪魔だろうと、天使だろうと、そして、人間も全て俺が潰してやる。)とち狂った決意だった。だが、この決意は俺が今までしてきた決意とは、重みも覚悟も凄みも全く違う。本当に全てを壊したいと心から思った。「私達も倒すんですか?」「ああ、そうするさ」「なんで?」「簡単さ、気に食わないから、それだけだよ。」マリアは戦慄した。こんな人間は見たことが無いと。目には光が宿ってない。全てを暗闇に落とし込もうとする。そんな巨大な闇が感じられた。彼女は思った。彼が本当の悪魔なのでは?と。そして疑問に思った。本当に彼には色が無かったのかと。これから始まるのは、世界の平和を守るための戦いでも、正義と正義がぶつかり合った戦いでもない。佐藤楓のムシャクシャを晴らすための、世界への八つ当たりに過ぎないのだ。

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