柳一郎の想いと莉子の想い

「私、誰とも付き合ってないよ」

「へっ!?」

「だからぁ、誰とも付き合ってない!」

「だって、『好きな男の子にずっと好きでいてもらいたい』って言ってたのに……」

「もう、私が好きなのは、ず〜〜〜〜〜っと、柳一郎りゅういちろうなの!!」

 顔を真っ赤にして僕に向かって叫んだその言葉は僕の中に染み込んできた。また、涙が溢れる。


「僕、こんなに情けないんだよ」

「それなら、私の為に変わって。胸を張って私の隣に立てる様になってよ」

「そんな事言われてもすぐには無理だよ」

「そんな事はわかってます。私が一体どれだけの間 柳一郎りゅういちろうの事を想ってると思う?」

「あの日からずっと?」

「そうだよ。私は柳一郎りゅういちろう、貴方に好きでいてもらう為に頑張ってきたんだよ。だから、柳一郎りゅういちろうも、もう卑屈になるのを辞めて……」

 そう言って涙を溢す莉子りこの表情は真剣なもので僕はその想いに応えたいと強く願った。多分、この時を逃せば僕はもう二度と変わる事ができないんじゃ無いかとそう思える程に強く、莉子りこの想いは僕の心を揺さぶった。


「すぐに変われないかもしれない。それでも莉子りこは僕を見ていてくれる?」

「ぐすっ、私は、ずっと、柳一郎りゅういちろうの事、気にかけてたんだから。これからも、見てる」

 僕の肩に顔を埋めて想いを伝えてくれる莉子りこ。彼女の為にも僕は変わりたい。


 少しの間そのままで気持ちを落ち着かせる。

 莉子りこが僕の肩から離れたところで改めて気持ちを伝える。ここからが僕が変わる第一歩なんだから。

莉子りこ、不甲斐ない僕だけど、隣に立てる様に努力するよ」

「うん……」

「だから、莉子りこの意見も聞かせて欲しい」

「うん?」

「えっと、とりあえず形から入る方がいいのかな?」

「…………」

 あら、何か失敗した?


 二人の間に沈黙が流れ、言葉を都合としたその時、僕の部屋の扉が勢いよく開け放たれた。そこにいたのは優璃ゆりと両親……

「もう!そういうところしっかりしなさい!!」

 母の叫びに何を間違ったのか思い至る。


柳一郎りゅういちろう莉子りこちゃんのことが好きなの、どうなの?」

「好きです!!」

「なら、その事をきちんと伝えなさい!!」

「はいぃ!!」

 母親の有無を言わせぬ発言に逆らうこともできずに公開告白をする羽目になった。莉子りこも顔だけじゃなく真っ赤になって俯いている。

 ほら、早くしろという三人からのプレッシャーを感じながら僕は莉子りこと向かい合う。大きく息を吸う。

莉子りこ、僕とけ、結婚してください!!」

 ポカンとした表情を浮かべる莉子りこ。どうしたの?え、やっぱり僕じゃだめ?

「アンタねえ、普通は付き合ってくださいでしょう。どうしていきなり結婚の申し込みしてるのよ」

 呆れた様な視線を三人から感じる。莉子りこからの反応がない事が気になるけど。改めて莉子りこに告白するしかないと思い彼女の顔を見つめる。

 明らかにいつもと違うホワホワとした表情を浮かべる莉子りこと目が合う。

莉子りこ

「不束者ですけどよろしくお願いします!!」

 僕が改めて告白する前に返事が返ってきた。きてしまった。


「よし、じゃあ、柳一郎りゅういちろうはこれから莉子りこちゃんに相応しい男になれよ」

「これからはたくさんダメ出しするからね。覚悟しなさい」

 父さんの言葉はともかく、母さんの言葉は嬉しくない。

莉子りこ姉さん。これからもよろしくお願いします」


 僕と莉子りこの婚約?は深夜だというのにその日のうちに莉子りこの両親にも伝えられた。

 莉子りこの両親も起きていたのかうちに集まって来た。

 久しぶりに会ったけど思っていたよりも好意的に受け止められているのは莉子りこのおかげに違いない。

 きっと幼い頃から僕のお嫁さんになるって言い続けて来たんだろう。それを莉子りこの両親が受け入れてくれているから今の関係が許されているんだろう。


 僕はこの人達の期待にも応えられる様にならないとな。

 気持ちを引き締めないといけないな。


 そんな僕の決意をよそに両親達は酒盛りを始めた。

「皆んなは適当に寝なさいよ」

 その母親の言葉を最後に僕達はリビングから逃げ出した。


「ふふっ、莉子りこ姉さんは柳一郎りゅういちろうさんと一緒の部屋にしますか?」

「「えぇ〜!?」」

 流石にそれはまだ早いというか、心の準備が。

「冗談ですよ」

 優璃ゆりの冗談は心臓に悪い。


「二人は明日デートして下さい。柳一郎りゅういちろうさんは美容室に行って莉子りこ姉さんのアドバイスをもらって髪を整えてください。その後は洋服も買って来ましょう。外見から変わってください」

「でも、僕そんなにお金持ってないよ」

 アルバイトをしていない高校生が潤沢な資金を持っている筈はない。

「そこは大丈夫です。お義母さんにお願いしています」

 そう言った優璃ゆりの手には諭吉さんが三枚あった。

莉子りこ姉さんにこれは預けておきます。柳一郎りゅういちろうさんをかっこ良くしてくださいね」


 僕に対する信頼性のなさよ……


 明日の時間だけ打ち合わせをして僕達は寝る事にした。

 それにしてもこんな事になるとは思ってもいなかった。気持ちが昂っていて寝つけそうに無い。


 結果としてはこれ以上ない程だけど、これから僕は頑張らないといけないな。

 先ずは今まで手を抜いていた勉強を頑張ろう。漠然と進学する事を決めていたけど志望を莉子りこの通う大学に決める。今のままの僕の学力だと難しいのは分かっている。


「何か目標を立てないと頑張れないもんな」

 難しいからこそ頑張れる。それが自分の好きな人の為なら。

 今になって莉子りこが言った言葉の意味がわかった気がした。

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