ゆきそら、秘密咲く

蒼水 アザミ

第1話 上陸

 人工島【フロスト・タートル】。日本本土と隔絶されたような海上に存在するこの場所は、人工的に生み出された特殊能力を持つ人間の実験島だ。

 人工衛星からの写真を見た事があるが、この島は巨大なカメの甲羅のような透明な外壁で囲われているらしい。いくつもの六角形で空が区切られているのを実際見ると信じざるを得ない。

 俺【粕谷 京谷かすや きょうや】は、本土からこの人工島に送られてきた特殊能力者で、いわゆるスパイだ。本土の方にも特殊能力者は存在するが、本土政府によって匿われるか、ある教団に捧げられるかの二択だ。

 このフロスト・タートルはがっつり教団側で、今回俺は敵情視察ということでここに来た訳だ。

「……って」

 ただ、政府に……とりわけ上官に今回の任務にあたって注意点を何個か言われている。

 スパイであることはもちろん秘密だ。ただ、それよりも

「どこココ……?」

 臨時協力者に連れてこられたのは、まっさらな草原だった。

 注意点のうちの一つ。俺の事だ。

「……とにかく、歩いて第一村人発見と行きたいとこだけど」

 内心焦りながら、辺りをきょろきょろと見回す。目印になりそうなものが一切見当たらない。

「……動けねぇ」

 俺は、目印がないとまともに歩けないほどの方向音痴だ。

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