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アカツキ

第1話 コンティニュー


『おぉ勇者よ、お主にはこの世界に突如として現れた魔王を討伐してきてほしいのだ、そこでまずはここから近いところにある酒場で仲間を集めて行くのだ勇者よ!必ず魔王を倒しこの国に平和を取り戻すのだ!』




 一方、酒場では各地からやってきた冒険者同士がテーブルを囲い話し合ったり酒を飲んでいたりしていた。

 そこに酒を飲んで酔っ払っている男三人組がテーブルに座る一人の女戦士に対して自分たちのパーティーに入らないかと勧誘をしていた。

 その女戦士は見た目が美人なせいか周りの注目の的にもなっていた。


「なぁ~そこのお嬢さん、俺たち暇なんだけどさ今から一緒に魔物の討伐に行かないか?」

 

 女戦士はその男から発せられる強烈な酒の匂いにも表情一つ変えずにその男の誘いを断り続けていた。


「すまないが私は人を待っているんだ。申し訳ないが他をあたってくれないか?」


 女戦士は軽々と断ってはいるがどうしてもその女戦士とパーティーを組みたい男三人組はさらにその女戦士に踏み寄ろうとした。

 

「そうはいってるけど~さっきからずっとここでその人のこと待ってるじゃん。そんな人よりも俺らとクエスト行く方が絶対楽しいって!」


 先ほどとは別の男がそういうと『そうだそうだ!』と他の二人も声を揃える。

 どうやらその男は先ほどから女戦士の様子をずっと見ていたらしく女戦士が何もせずにただじっとこのテーブルに座っていることも知っていたらしい。


 その女戦士はしつこくパーティーに誘い込んでくる男三人組のことを無視し続けながらも深いため息をついてこの酒場にやってくるであろうある人のことを待ち続けていた。


 そんなテーブルとは別の席ではパーティー四人組の冒険者たちが集まって会話をしていた。


「いや~今日も助かりましたよ、ありがとうございます!」


「本当に魔導士さんのおかげで今回のクエストも楽に済みましたよ~」


「いえいえ、またよろしくお願いします!」


 女魔導士は元気にそう言うと各々に分けられた四人分の金の入った袋の一つを取りその場から離れる。


「今日はまだあともう一クエストぐらいだったらいけるかしら……他に空いてるパーティー探さないと……」


 女魔導士はそうつぶやくとクエストの依頼が張られている場所へと向かう。



 そのクエストの依頼が張られている横ではカウンター席が並んでいてそこにいる店主は並べてある樽ジョッキを丁寧に拭いておりそのカウンターの傍らには杖を抱えた僧侶の女性が人が寄りそうにない場所に一人で座っていた。

 その僧侶は白いフードを被って顔を隠しながら酒場の人達の様子をその場からチラチラとうかがっていた。


「……はぁ~どうしようかな……」


 僧侶は店主がタダで出してくれた一杯の水を飲みながらため息をついていた。



 するとその酒場にある青年の男が店に入ってきた。


「ここが酒場か……うん!確かにここなら強そうな仲間を集められそうだな!とりあえずこの店のマスターにでも聞いてみるか!」


 先ほど王様に酒場で仲間を集めろと言われ門番の兵士に場所を聞いてやっと来れた勇者が酒場に入るや一直線に店主がいるカウンター席の方へと向かって歩いていくと先程から男集団に絡まれていた女戦士はテーブルを通り過ぎた勇者の身に付けていたあるものに気が付くと驚いた表情を浮かべた。


「……あいつが身に付けていた物ってまさか⁉」


 酒場の入り口から店主の目の前のカウンター席までやってきた勇者は席に座らずにそのまま樽ジョッキを拭いている店主に話しかける。


「ねぇマスター、ここで仲間を集められるって聞いて来たんだけど……」


 すると店主は勇者の話を聞くためにちょうど拭いていたグラスをその場に置いて勇者の質問に丁寧に答える。


「はい集められますよ、この酒場にはいろいろな地方からやって来られた冒険者の方々が大勢いらっしゃいますからね……もしよろしければこの店に来ていただいている常連のお客様であれば何人かおすすめの方をご紹介できますがいかがいたしましょうか?」


「そうだな……じゃあせっかくだし聞いておこう……」


勇者が店主に話だけでも聞いておこうと思い店主に聞くと突然背後から先ほどまでテーブル席に座っていた女戦士がこっちに来て話しかけてきた。


「仲間を集めていると聞いたのだが……もしよければ私と組んでもらえないだろうか?」


 話しかけてきたその女戦士は美人でスタイルもよく身に付けている装備なんかは過度な露出が多くて目のやり場に困ってしまう様な格好をした人だった。

 そんな人が急に話しかけてきたので勇者は気が動転してしまう。

 女戦士の露出が多い装備に目がいってしまい話に集中できなくなってもこれはしょうがない男なら…………。


「急に話しかけてしまって申し訳ない……あなたの格好を見たところ駆け出しの冒険者の様に見えて……私にあなたの冒険のサポートをさせてくれないだろうか?」


勇者は動揺を抑え一旦冷静になって女戦士の言ったことをそのまま受け入れる。


「……確かにあんたの言う通り俺はまだここに来たばかりで正直知らないことばかりだし迷惑も掛けるかもだけど……それでもいいっていうなら……」

 

 勇者はそういうと無言でその女戦士の前に手を差し出し握手を求めようとすると女戦士も理解して互いに誇らしげな表情を浮かべながら握手を交わす。


「あぁ構わないさ!私の名前はセレーナだよろしく!」


「こちらこそよろしくな!セレーナ!」


 こうして以外にもあっさりと勇者は最初の一人目の仲間セレーナを加えることができた。


 そして勇者は再び仲間をもう一人加えようと店主に聞こうとすると巻き戻ししたかの様に勇者とセレーナの横から一人の女魔導士が話しかけてきた。


「ねぇそこのお二人さん……私の職業魔導士なんだけど良かったらあなた達のパーティーに加えてもらえないかしら?」


 戦士を仲間にできたということで勇者は呪文や魔法のようなものがつかえる人を店主に聞いて探してもらおうとしているときにちょうど魔導士と名乗る人が……さらにはまたきれいな女の人が仲間に加えてほしいと頼んできたのだ。

 勇者もさすがに二度目となるとさほど動揺することはないだろうと思っていた。


「ちょうど俺も呪文とか魔法がつかえる人を探していたんだ!ぜひ俺たちのパーティーに入ってくれよ!」


「そうだな……私たちは魔法というのが何かは知らないけど呪文といったものは使えないから私のほうもぜひあなたを歓迎したいと思っている」


「よかったー!私はフリンっていうの、二人ともよろしくね!」

 

 するとその女魔導士は仲間に入れたことに喜び気分が舞い上がってしまったのか急に勇者に近づくと強引に手を取り握手をしてくる。


「えっと……こちらこそよろしく…………」


 勇者はフリンの積極的な行動に心が揺らいでしまいそうになる。

『男性というのは単純な生き物だ、好意的な態度を取られたら男性は勘違いしてしまう』とどっかの誰かさんに言われた記憶はあるが本当にその通りだ……今後は気を付けるようにしないと…………。


 というわけで、魔導士であるフリンが勇者達の新たな仲間として加わることとなった。



「さて、これで私たちのパーティーは全員で三人となったわけだが……あと一人ぐらいは仲間に加えたいものだな」


「そうね……私たちのパーティーのバランスを考えると……もう一人は後方から支援してくれる僧侶なんかを仲間に加えたいわね」


 確かにフリンの言う通りこのパーティーには勇者、戦士、魔導士、といった若干攻撃寄りのパーティーとなっていおりその攻撃を最大限に生かすためにはその攻撃を支援してくれる支援職が必要になってくる。

 そこでまた勇者は店主にそのような僧侶を職としている人がいるのかを聞こうとするとまたもや勇者達の話を聞いていた人物が勇者に話しかけてきた。


「あの……先ほど僧侶を仲間にしたいと聞いたのですけれどももしよろしければ私をパーティーに加えていただけないでしょうか?」


 勇者に話しかけてきた人はどうやら先ほどから同じカウンターの端の方でフードをかぶっていた人でちょうどその人はフリンと同じような杖を持っていてこの人も隣で僧侶を仲間に加えたいと言っていたところを耳にして来たのだろう。


 その僧侶は最初にフードをかぶっていて顔が分からなくて女性だったのかも怪しかったが今はフードも取っていてその顔は穏やかそうで可愛いといった感じの顔をした人だった。


「その……私まだ僧侶として経験が浅くて少し前にやっと僧侶になったといったばかりでして……」


「まぁ俺もほとんど戦闘とか未経験だから全然気にしないよ、二人が特に問題ないっていうなら良いけど?」 


勇者が頭の後ろで腕組をしながらセレーナとフリンに聞く。


「問題ない、私は戦士として長い期間やってきた自信はあるから分からないことがあれば聞くと言い」


「私も経験者や未経験者とか気にしないし一緒にパーティーを組みましょ!」


 二人とも反対することなく女僧侶をパーティーに歓迎してくれた。


「どうもありがとうございます!私エマって言いますのでこれからよろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくなエマ!」


こうして戦士セレーナ、魔導士フリン、僧侶エマが勇者のパーティーに加わることとなり王様に言われた通り仲間を集めることができた勇者達はこの酒場を後にしてこれからは本来の目的である魔王を見つけて討伐するための旅に向かうことになる。


そしてセレーナが仲間を集め終えた勇者にこれからどこに向かうのか質問をする。


「そういえばさんはこの後どこへ向かうつもりなんだ?」


 セレーナがそういうと勇者は特に今後のことは考えておらず頭を悩ませていると急に後ろでフリンとエマが叫びだす。


「「ゆっ……勇者ー!?」」


 急に大声を出された勇者とセレーナは驚いて肩がビクッと上がる。


「なんだ、おまえら気づいてなかったのか?」


 そういえば勇者は自分が勇者だということを三人にはまだ言っていなかったことを思い出す。

 それでもどうやらセレーナだけは自分が勇者であることはすでに知っていたようだけれども。


 するとフリンがセレーナに向かって叫ぶ。


「気が付くわけないでしょうが!! てっきりそこらの駆け出し冒険者の一人かと思ったわ!」


 地味に傷つきそうなことを言われてへこみかける勇者の対面には魂が抜けたのかのような唖然とした顔を浮かべているエマがいた。

 すると勇者は自分の首に下げていた紋章が付いたペンダントを二人に見せる。


「そういえば……これが勇者の証になるからって王様に着けろって言われて着けてるんだけど……」


 二人ともそのペンダントを見た瞬間にここにいる人物が勇者が本物だということを認識する。

 多分セレーナもこの首に下げているペンダントを見て自分が勇者であるのだと確信したのだろう。

 しかもセレーナは誰よりも早く仲間に加えてほしいと訪ねてきておりまるで勇者がここに現れることを知っていたのかのように。


「本当にあなた勇者なのね……」


「近頃……魔王が現れたって噂は聞いたことがありますけれど……その魔王を倒すと言われてきた伝説の存在がここにいるなんて思ってもなかったです……」


「正直なところ今までこのペンダントが無かったら勇者として扱ってくれなかったな……城の兵士には不審な目つきで睨まれていたし……」

 

「まぁ……現状はまだ勇者という存在が世間に広まっていないからこれからさ!そうすればじきにお前の名も…………そういえばまだ勇者であるお前の名前を聞いていなかったな」


 確かに勇者の名前にはセレーナも知る由もなく自分の名前をみんなに伝えておきたいのだが勇者には事情があって今はセレーナの質問に答えることはできなかった。


「俺には名前は無いから今後はただの勇者で読んでくれ!改めてこれからよろしくなみんな!」


 こうして個性的なパーティーの冒険が始まったのだった。


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