第44話 算段
三毛猫が譲って（？）くれた魔導具らしき物の事が気になるので、翌日、朝から魔道具屋を訪ねる事にした。
昨日は空振りに終わったが、さすがに朝一のタイミングであれば大丈夫だろうと思う。
「おはようございま～す……」
「おや、収納のお兄ちゃんじゃないか。今日は何のお使いだい？」
「いえ、今日は魔導具や魔導書関係についてご教授願えないかと伺いました」
さすがに朝一番に尋ねた事もあり、起きていたようで一安心だ。
「魔法関連の事柄だね。そうだねぇ、例えば──今うちにある魔導書はライトニングとレイズ・レッグ……」
「ボワン──」
説明してくれている間に、昨日入手した魔導具と思われる物を取り出す。
「昨日たまたまこれを拾ったんです。多分魔導具だと思うんですけど、どうでしょうか」
「おや？──ふむ……ボロボロだけど確かに魔導具みたいだね」
「どんな機能かわかりますかね？──スス」
「──表面の魔法陣が無くなってるし、随分と痛んでいるからねぇ……う～ん」
店主の女性が魔導具を受け取り、まじまじと確認している。
「あぁ！ 思い出した、"懐炉"だよ。魔石を燃料にして暖を取れる魔導具さね。なんならあたしに預けてみるかい？ 魔導具の修復もやってるよ」
さすがに魔道具屋を営んでいるだけの事はあり、少し観察しただけで中身を見抜いたようだ。
「懐炉ですか──やっぱりそのままじゃ使えないんですね。その魔導具は珍しいんでしょうか？ 実は本命は"魔導書"でして。他の本を買うのと比べて費用的にはどうでしょう」
三毛猫から譲り受けた魔導具は、暖房器具だったようだ。
大きさも薄さも丁度いいし、リーフルの止まり木の下に挟んで、寒い季節に活用できそうだ。
俺としては、魔導書──魔法を習得したい気持ちもあるので、費用如何によっては修理は諦めなければならないもしれない。
「まぁまぁ珍しいってとこかね。魔導書の金額は例えばライトニングなら金貨五枚だね、この魔導具を直すなら……同じく金貨五枚ってとこだねぇ」
「金貨五枚……知りませんでしたが、魔導書も随分値が張るものですね」
「言っただろう？
「新品なら金貨で十五枚……」
修理にせよ魔導書を購入するにせよ、提示された金額は想定外に高い。
金貨五枚なら全財産をつぎ込めばなんとか払える額ではあるが、明日の食事にも困るのはさすがにやり過ぎだ。
諦めて帰ろうかと考えていると、顔に出てしまっていたのか、店主が提案をしてくれた。
「もし予算が足りないならこの魔導具を私に預けてみないかい？ 修復作業は進めておいて、支払えるのなら修復済みをお兄ちゃんに返す。無理なら修復前の状態の値段で私が買い取って、うちの商品にするっていうのはどうだい？」
「なるほど……」
（……悪くない話かもしれない）
新品で買うよりも三分の一の値段で入手出来るのであればお得だし、リーフルの寒さを凌げるのなら安いものだ。
それにこの際魔法は覚えたい。魔導書も高いとはいえ、金貨五枚であればまだ現実的な金額なので頑張って金を貯めればいい。
「わかりました、それでお願いします」
「任せときな。焦らなくていいからね、こっちも他の客の修理する予定やら材料やら、まだ確実な事が言えない段階だしね」
「よろしくお願いします──ところで……実は昨日もこちらに伺ったんですが、寝ていらしたようで。何かあったんですか？」
「あぁ～……魔力が無くなって疲れて寝ていた所に来たんだろうね。すまないことをしたね、仕事柄よくある事なんだ」
「そうだったんですね」
「忘れてたね。私は"フォトン"って言うんだ、何かあったらまたおいで」
「俺はヤマトと言います。こっちは相棒のリーフルです、よろしくお願いします」 「ホ」
俺が唯一出来る金策といえば"冒険者"だ。
魔導具を預けた俺は、早速
◇
やはり朝一番が貼り出されるクエストの種類が一番多いもので、昼から受けようと思うとある程度限定的なものしか残っていない。
常時納品を受け付けている薬草類の採集や、農作物を荒らしてしまうミドルラットの駆除等よく見る依頼ばかりだ。
どうしようか考えていると、後ろから見知った声に話しかけられた。
「あ！ ヤマトさんじゃないっすか！ お疲れ様です、リーフルちゃんは今日もかわいいっすね！」
「ホホーホ（ナカマ）」
「お──ロング、お疲れ様。あれから順調にいってる？」
「おかげさまでっす。ヤマトさんの教えを胸に、
「──っと、自分今から誘われて別の依頼に行くんで、失礼します！」
「そっかぁ、頑張って！」
（しまった……ビビットさんの為に探りを入れるチャンスだったのに）
そういえばロングもソロ冒険者だが、気づきを得た今の彼なら、有能なのでパーティーへの誘いもその内あるんだろうと思う。
……俺も臨時パーティーを組むことはあるし、誘われたことも──未知の緑翼とか──何度かある。
決してボッチなわけではない。リーフルもいるし。
「ホーホホ（タベモノ）」
「リーフル～……」
励まし……ではなさそうだ──だがそういうところが可愛い。
「──ヤマトさ～ん」
ふいに、キャシーが俺を呼んでいることに気が付いた。
「はーい」
カウンターへと向かった。
「今お時間大丈夫ですか？ お話がありまして」
「どうしました？」
「ヤマトさんが夕方頃になると野良猫や野良犬達にエサをあげているのは存じ上げてます。なのでお伺いしたいのですが、野良ちゃん達の数は増えているでしょうか？」
「？ 特には変わりないと思いますね、大体が成猫成犬ですし」
「そうですか……実は最近
「そうなんですね」
俺以外にも野良達に優しくする者がいるとは、話が合いそうだ。
「まだ正式に依頼として公にはしてはいないのですが、エサやりをしているヤマトさんなら調査に適任かと思いまして。あ、でもお預かりしている依頼料は少額でして、指名依頼としての報酬はお支払いできないんです……」
「確かに俺が適任ですね。報酬の方は一般扱い分だけで構いませんよ」
「ホントですか！ さすがヤマトさんです！」
「詳細を記載した報告書は必要でしょうか？」
「いいえ、御国に報告するような物では無いので大丈夫です」
良い
動物に関連していてお金も稼げるなんて、まさに俺向けの依頼だ。
そういえば金策の事を考えていると、ウンディーネ様とお会いした際に回収した鉱石の事も思い出した。
結局コナーさんの物と同じなのかは分からず終いだが、鑑定してもらえば多少の金額にはなりそうだ。
この後対峙する事になる現実を知る由もなく、俺は浮かれ模様だった。
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