冷蔵庫の子供
佐々木 煤
三題噺 「殺人鬼」「殺意」「冷蔵庫」
初めて人を殺したのは12才の時だった。親父は一日中飲んだくれるだめな奴だった。些細なことにいちゃもんをつけては俺と母さんを殴った。母さんは必死に俺を庇ってくれた。生意気だと言われてその分殴られて、母さんの小さな背中いっぱいにあざがあるのを見た時何かが吹っ切れた。
日曜の昼なのに、居間で酒を飲んでいる親父を後ろから刺した。低いうめき声を出して前のめりに突っ伏した背中を何度も刺した。母さんのあざと同じ分だけ傷をつけないとこいつはわからないんだ。誰かが叫んでいたけど、聞こえていないふりをした。
母さんの制止を振り切ってそのまま家を出た。当てもない少年は裏の世界に需要がある。こちらを見て話さない大人の言われるがままに殺しをすると、住む場所と食が提供された。 そのまま何年が経っただろう。俺は殺人鬼として名を馳せているらしい。明確な殺意を持って殺したのは親父だけで、そのあとは何の感情も抱かずに作業として行っている。
依頼を受けて、高級住宅街の一軒家に向かった。依頼主は家主の弟だ。事前に来る時間を指定されていたので、難なく玄関から家に入る。日曜の昼に指定されるのは珍しい。ターゲットはリビングで酒を飲んでいた。後ろから首を刺し、抉るように抜く。声をあげることなくゆっくりと倒れるのを見届けて、依頼主に完了のメールを送った。
するとキッチンの方から、カタッとなにかが揺れる音がした。キッチンを見回す。冷蔵庫と洗面台のふたが開いていた。中には、包丁を持った10才くらいのガキがいた。震えて、包丁を持っている。俺に刃先を向けないのは、恐れからではなく居間にいる奴に刺すためだろう。
「俺みたいになるんじゃない」
自首するために警察を呼んだ。
冷蔵庫の子供 佐々木 煤 @sususasa15
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