#14 夢中の駆け足
通り過ぎた過去を双眼鏡で眺めていた。あれよこれよを言う間もなく、時は過ぎ去ってしまったものだ。目の前にあったはずの実体達は、すでに目前から手品のトランプのように消え去って、触れようとすればするほどに私の悴んだ指先は、夢中の駆け足のようにぬかるみに捕らわれていく。
友人や、恋人や、街や音楽が、頭蓋骨の内側にこびりついてしまって、その柔軟さを失い、匂いも発さなくなった。カリカリとフルーツナイフの背でこそいで、熱湯に溶かし、寝る前の1杯のお湯割りといったような気分で、その記憶を口に運ぶ。インスタントな、過去の記憶という娯楽にズッポリとはまり込み、娯楽が私の身体の外縁の形を読み込み始める。
乾いた砂が身体を覆い、じっとりと今の時間を吸湿し重さを増す。金縛りのように四肢にかかる重力を増幅し、目前には明日だけ—まさしく、明日だけであり明後日以降は無い—が額縁に抑え込められたB1サイズのジグゾーパズルのように飾られている。パズルのピースは、ところどころ間違った嵌め込み方をされている。私は、夢中の駆け足のように、毎日を彷徨い、永遠に訂正できないピースに触れようとして生きている。
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