青年のためのミニスカート

Rod-ルーズ

第1話 揺れるスカート

4月の夜は少し肌寒かった。時刻はpm10時を示しており、未成年は補導対象となる時間帯である。

そんな夜、俺は制服を着て街を歩いていた。ズボンよりも風を感じて肌寒い、太ももに直接風邪を感じて履いているグレーと少し青みがかったチェック柄のプリーツスカートは小さく揺れて中に履いている下着がこのままだと見えてしまうだろう。


「確かにこんな姿じゃ、周りの男どもは視線を向けるだろうな」


黒い長い髪にピンク色のマスク、白のシャツに紺色のベストを着ており胸はないもののすらっとした印象を遠目では感じる。背丈も女子にしては少し高いだろうか、黒のハイソックスはきっと、おろしたてのものであろう。


女子高生はふと「寒い」と独り言を呟いた。その声は女子のものとは思えないほど低く、風邪でもひいていたとしてもそれは不自然なものであった。


そう、人もまばらな街中で女子高生の制服を身に着けて徘徊をしている彼女は紛れもない男子高校生であり、いま彼が楽しんでいるものは女装であった。



木下自由は、昨今でよく聞くLGBTではない。性的志向は、昔から変わらず女性が大好きであり付き合ったこともあった。ただ、彼は普通の男性とは違ったものを持っていた。そう彼は異性装、、、いわゆる女装である。


『ドレスを着てみたい』


その一面が見えたのは小学生の演劇の時だった。何気ない童話のお話を高学年の時に決まり、舞台袖からプリンセス役の女の子が着ていた真っ白なドレスに興味を持ち、なぜ男の子は着ちゃいけないのか、なんて疑問を抱いた。


男子の中でもプリンセスに手をあげた人はいた。けれど、その子はクラスのお調子者的なポジションで、僕のように心から願っている訳じゃなかった。

何気ない感情、純粋な気持ちが溢れ出て中学生の思春期でそれは開花していくことになった。


進学した先の制服は学ランと紺色のセーラー服というシンプルな学生服となっており、小学校とは違った男女の違いをハッキリとさせた装いに最初に抱いた疑問は徐々に行動として表れていくようになっていく。

そう、毎月のお小遣いをコツコツを貯めていき、生まれて初めてとなる女性物の衣類を手に取り購入してしまった。その緊張は今でも忘れることはないだろうし、それを超えるような胸の動悸は来ないだろうとも思っている。


水色のワンピース、肩は蝶々結びをされた紐で出来ており涼しげな印象を与えるものであった。誰もいない日、俺はその洋服に袖を通した。

女性とは思えない肩幅に短い短髪、腕や足などはいくらか細かったがそれでも焼けた肌は女の子とは不自然ないでたちで只、女性物の衣類を身にまとっている男の子の姿だった。


「見るからにダサいな、女って感じは0じゃん、、、けれどなんか・・・」


悪い気はしなかった。どれだけダサくても側から見たらキモくても、それでもそこには幸福感があって本当の自分がそこにはあった。




「コンビニなんか入ったら補導されるかな?いや、それ以上に女装バレでもして気持ち悪がられるかも・・・」


黒のパンプスで見慣れた土地を噛み締めながら歩き始める。少し肌寒くなってきたのでそろそろ家にでも帰ろかと思いつつ、LEDの光が眩しく揺れている1つの自販機が目についた。


「ここでいっか…」


自販機を上から下まで眺めたのち、自分の好きなコーンポタージュの缶があるのを確認する。

小銭を入れてボタンを押す、人もいないここではただ缶ジュースが、下に落ちた音が聞こえるだけだったが、自分の手から小銭がこぼれ落ちその音も耳に届く。

何故、硬貨はこうも耳に響くのかそう思いながら少し遠くまで転がった小銭に追いかけた。


「おっとと…逃げるなって。そんなに俺のことが嫌だったか?」


「もしかしたらそうなのかもね〜、あ!はいこれ!」


「あ、ありがとうござい…ま…え??」


小銭追いかけ拾った後、1人の女性から声をかけられ自分が買ったコーンポタージュを手渡してきた女性。その姿は所謂、OLというのだろうか。キッチリとした紺色のスーツを着ており自販機の明かりが茶色の毛を金色に見せている。


「ねぇ、教えてくれる?どうして女装なんかしているのかを……」


息が止まるように時間が静止した。

彼女の名前は駒形雪音(ゆきね)と言うらしい。


この出会いが自分の人生を変えていくことになるとは思ってもいなかった。

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