第3話代償1


 姉が精霊界に旅立って数日後、国は大きく変化した。

 この数十年こなかった台風が何日にも渡って直撃し、家屋が倒壊し、例年の収穫量の9割も減った。豊かな大地は凄まじい勢いで砂漠化していき、国から緑が失われていった。


 失ったのは緑豊かな大地だけではない。

 徐々に水源が失われていった。井戸水は枯れ果て、湖も干上がり始めた。

 



 結局彼らは、精霊の愛し子が何なのか理解しなかった。王太子の愛し子の事を御伽噺としてしか聞かされてない。

 

 精霊にとって大切なのは愛し子だけ。他の人間がどうなろうと知った事じゃない。自分の愛し子が全て。だから、人間が愛し子を尊び尽くすのは当たり前の行為。愛し子を悲しませたりするやつは敵。利用するなど論外だ。自分達の大切な愛し子を下界で暮らすのを許しているんだ、有り難いと思え。


 どこまでも愛し子中心の考え方。


 愛し子を大切にしない輩は滅んでしまえ。


 それが精霊の総意。


 恐ろしく傲慢で、恐ろしく愛情深い。


 だからこそ我が国は精霊に見限られた。


 王家も、神殿も、貴族も、姉を都合よく利用しようとした。

 そんなこと精霊が許すわけがない。

 破滅はまだ始まったばかり。


 そもそも姉を自分達の使い勝手のいい駒にしようとすること自体間違っているし、政略的判断や忖度の尺度でものを考える相手ではない。


 姉に限らず、代々の愛し子達は皆が善意の塊だ。


 愛し子には悪意という概念がないのではと思うほどに善良。


 ただ愛し子の『善意』が必ずしも人を幸福にするかといえば首を捻る。愛し子の善意は最強であり、最凶だ。

 

 例えるなら『猿の手』に似ている。


 御伽噺の定番である「持ち主の願い事を3つ叶えてくれる魔法のアイテム」として使用される猿の手のミイラのようなもの。扱い方を誤れば破滅しかない。実にハイリスクハイリターンの代物。到底、人間の手に負えるものではない。願いの成就には高い代償を伴う。たが、分かっていても使いたくなるのが人間だ。


 今までの人は失敗したが自分は大丈夫――


 そんな心理が働くのだろう。


 

「地獄への道は善意で舗装されている……か」


 



 

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