コンビニ強盗

ある日の熱帯夜の夜中、コンビニ強盗が発生した。

内容は至ってシンプルにコンビニのレジに居た店員に刃物を突き付けて「金を出せ」と脅したもの。

レジの現金5万2千円が奪われた。

当然すぐに現場へ駆けつけたのだが・・・・・

現場では被害者の女性店員が怯えていた。

ひとまず西沢を中心に女性刑事に事情聴取を任せて事務所で防犯カメラを確認するとそこには犯行の瞬間が映っていた。

「犯人は店内を一周してレジに行き刃物を突き付けて金を奪って逃げると」

「典型的なコンビニ強盗ですね係長」

「しっかり目元以外隠して冬でもないのに手袋までしてやがるとか用意周到な奴やな」

「ですねぇ、うつむき加減でカメラに顔映らんようにしてる辺りも」

「まぁ、こんな小細工が通用するほど甘くねえよ、あの店員さんの為にも早く捕まえたらんと」

「燃えてますねぇ係長」

「西沢か、お前が言うと冷やかしに聞こえるんだが・・・」

「んで何か分かったのか?」

「犯人は女の様ね、被害者が目元に化粧してるのを覚えてたわ」

「女か画像みた限り金髪というか茶髪のぱっつんの髪型らしかったけど」

「係長!、目撃者が居ました」

「何を見たんやその人?」

「黒っぽい原付が付近を走り去るのを見たと」

「んじゃあ、この人着に類似する原付乗った奴を検索するか」

「俺と遠藤で検索行くから西沢、後頼むぞ」

すぐに遠藤を助手席に乗せ愛車の梅田303号に乗り検索を開始した。

ちなみにこの303号とはトヨタのマークXなのだがコールサインどころかナンバーまで5417

某大人気作品のような要素が満載だが俺たちはあんな派手なアクションはしない。

というか刑事の仕事は地味なことの方が多い。

「原付だからなぁそう遠くへは行けないと思うんだけど・・・・」

「でも原付なら遠方から来れなくはないですよね」

「いや、金に切羽詰まった奴がそんな遠方からくるとはなぁ・・・・」

そんなことを言いながら角を曲がると目の前には黒い原付。

後をつけると余程慌てているのか運転が荒い。

「遠藤これ止めようか」

「原付の運転手さん、左に寄せて止まってください」

素直に止まったのですぐさま声をかける。

「こんばんは警察です」

運転していたのは若い男だった。

「何か急いでました?随分慌ててましたけど?」

「いや・・・別に早く帰りたくて・・・」

「防犯警戒なんですが、免許証いいですか?」

「なんでそんな・・・」

「いや免許ないとバイク乗れないでしょ」

「免許はあるけど免許証は・・・」

「不携帯?なら名前と生年月日を教えてください、調べますんで」

「・・・・・」

「どうしました?名前を教えてください」

「中津です」

「中津何さんですか?」

「中津利尋(としひろ)です」

「生年月日は?」

「平成14年の〇月〇日です」

なんと18歳の青年だった。

照会の結果、有効な免許が確認できたので無免許運転の疑いは晴れたのだが

「持ち物とバイクのメットインとか確認させてもらえます?」

「嫌ですよ、時間かかるでしょ」

「何もなければすぐ終わりますから」

「嫌ですよなんでそんなことまで・・・・」

「いや、こっちもそんだけ拒まれちゃうと余計な疑いかけなきゃいけなくなるじゃないですか」

これは何かあるな・・・・

「中津君さぁ、なんで嫌なの?別に何もないならホントにすぐ終わるんだけど」

「嫌だからですよ」

「ところでさ、この原付は誰の?」

「自分のです」

「それも確認するからね」

「梅田303から123センター、捜査につき次の原動機付自転車の登録番号から照会ねがいます・・・・」

結果、本人のものと判明

「了解、なおB照会も併せて願いたい」

「結果、B照会該当2件あり共に窃盗」

「了解」

すぐに本人に確認する

「中津君さぁ過去に警察の世話になったことある?」

「世話になるってのは?」

「単刀直入に言えば逮捕されたことある?」

「ありますよ。」

「何やったの?」

「自販機壊して・・・・」

「中の金盗ったんか」

「そうです」

「1回やないよな?」

「え?」

「捕まったんそれだけちゃうやろ?」

「2回です」

「何したんやそん時?」

「同じです」

「2回もやったんか」

「はい・・・・」

「なるほどなぁ・・・」

「持ち物とバイクん中見させてや」

「だから嫌ですよ」

「何か悪いことしとるんか?」

「してないですよ」

「なら見させてや」

「しつこいですね・・・」

「あのなぁ中津君、もう正直言うわ、あるコンビニで事件があってその関係で声掛けてるんやわ」

「事件?俺関係ないですよ」

「せやろ?関係ないことを確認させてや」

「わかりましたよ・・・・」

何かを察したのか態度が変わった。

「持ってるもん出してや」

「鍵とか色々ありますよ」

「ああもう全部見るから」

「何これ?何でこんな金が裸で入ってんの?」

「別に良いやないですか」

「悪いとは言うてないけどやな」

「普通は財布か何かに入れるやろ」

「それは別にええでしょ」

「んでやなぁこれマスクと帽子にライダーグローブかこれ」

「ですね。別に違法じゃないでしょ」

「違法じゃないと言うてもやでこれはひょっとするんちゃうの自分?」

「ひょっとするって何ですか」

「いや悪いことしたんちゃうかってことよ」

「いやそれは・・・・」

「遠藤、これ応援要請してや」

「なんでそんな大事になるんですか」

「いや、中津君さぁ、自分前科ある上にこんだけ疑わしい物が出てきてやからね」

「疑わしいってどういうことですか?」

「そういうことやんか」

「んでメットインには服入っとるんかこれ」

とそこへ西沢や自ら隊などの応援が到着。さらに本格的な聴取が始まった。

「田中君、確かに不審なのは事実だけど被疑者は女でしょ」

「いや、あいつだと思う」

「なんで?店員の証言もあるし・・・」

「髪はカツラだろうし化粧は落とせばいい凶器もろともその辺に捨てたんじゃないか」

「中津君ね、いろいろ詳しく聞くことがあるから警察署まで来てくれる?」

「わかりましたよ」

半ば不貞腐れてやがるが、随分大人しくなったな。

捜査車両に乗せさらに畳み掛ける

「ホンマに心当たりない?こっちも遊びやないもんでさ」

「もし何かしとるなら今のうちに言うたほうが自分の為やで」

「いや・・・・・」

「ホンマにないか?無いんか?」

「言いたくないです」

「なんで言いたくないんや?」

「いや・・・・もう分かってるんですよね?」

「何がや?自分の口でいうてみい」

「恐らく、刑事さんのお察しの通りで・・・」

「だから何や?何が察しなんや」

「いや・・・」

「ガキやないんやからな、自分のしたことの責任ってもんがあるやろ」

「ごめんなさい」

「だから何がや、なにをしたんや?ガキやないんやから自分の口で言えや」

「コンビニで・・・」

「おうコンビニで何や?」

「金を盗りました」

「どうやって?」

「ナイフもってレジで・・・」

「レジでどうしたんや?」

「金を出せと言って盗りました」

「おう、そのナイフはどうしたんや?」

「捨てました」

「どこに捨てたんや?あと他にも捨てたもんあるやろ」

「カツラとナイフは道に捨てました」

「ほんなら間違いないか?あのコンビニで金奪ったん?」

「はい」

「んじゃあ強盗の容疑で現在時、2時08分緊急逮捕する」

「これで最後にせえよホンマ、悪いことして生きていってもだれも喜ばんぞ」

「それに自分も損しかしないからな」

「最後にしたいです」

「最後にせなアカンやろ、まだ若いんやから」

「はい」

後日、被害にあったコンビニ店員の女性に検挙を報告すると

「よかったです、さすが刑事さんですね」

と笑ってくれた。

やはり女性は笑顔のほうがいい。この仕事は泣き顔を笑顔に変えることもできる仕事だ。

もっとも我々の出番がないのが一番だが。

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